穏やかな午後の話
良く晴れた穏やかな午後の日差しが、ライさんの机と私の机の間に四角い影を落としている。
自分に割り当てられた仕事をが全て片付いてしまい、私は手持ち無沙汰に伸びをした。
「ライさーん、こっちの終わっちゃったんですけど……」
「ああ、すみません。ちょっと待ってください。これに目通したら、一緒に提出しますので……」
「はい、分かりました」
ライさんはこれ、と言いながら、自分が手にしている書類を小突いた。私はそれに頷いて、退屈ついでに机に肘を突きながら、ライさんが書類を確認するのを待つ。
ライさんは時折ペン先で文を追いながら、真剣な眼差しで細かく内容を確認していた。書類を上にめくる手付きの丁寧さや、時折何かを書き込む文字のきっちりした雰囲気。合間に頭を掻く姿まで、なんというか絵になるなあ、と思った。仕事をしている時のライさんは真剣でキリッとしている。仕草も綺麗だし。そうでもない時のゆるっとした、大分情けない彼とは別人のようだ。
それにしても、相変わらず真面目ですねえ……。本当に隅々までチェックしています。
「……な、なんですか、気になりますよぅ」
「いーえ、早く終わらせて下さいっていう念を送ってたんですよ」
とかなんとか考えていたら、ライさんは私がガン見していた事に気づいたらしい。照れたようにへにゃりと笑う姿は、さっきとは程遠い柔らかい表情をする。
私は誤魔化しがてら、待たされていることへの苦情を投げかけると、ライさんはすぐ書類へと目線を戻した。
「……それにしても今日天気良いですねー……」
「そうですね、室内作業なのがちょっと悔しいです」
ぼんやりと窓の外を眺めると、小鳥のさえずりが静かな部屋に反響する。時折通る車の音や、誰かの声が遠くに聞き取れた。
「平和ですわぁ……」
「あはは、僕らが安易に言うことじゃないですけどね」
あまりの暇さと天気の良さについ口をついて出た。それに対して、ライさんは書類から目を離すこと無く、それでもふんわりとした口調で答える。まあ、確かに、我々はそれを守る側の立場なので、勝手に認定しちゃダメですね。
しばらくすると、ライさんは書類にサインをして、もう一度全体的にパラパラと見落としを確認してから、書類をトントンと揃えた。しなくていいと思うんだけど、書類をめくったホチキス留めの折り目まできっちり戻し、わざわざ新しい封筒を自分の引き出しから用意して入れ直す。封筒の折り目も爪できっちり折った。
ものすごく細かい、というか、普段の態度そのままの気遣いが恐ろしい。常時この気遣いで生きていたら、そりゃあ疲れもしますよ。
「すみません、遅くて……おまたせしました。僕、なんかおまたせしてばっかりですね」
「いえいえ、むしろ見習わなきゃですよ、ちょっと丁寧すぎるかなと思いますけど」
「何を見てるかと思えばそんな所でしたか……では、出してきますね」
ライさんは少し照れたように笑いながら席を立つ。私が出しに行こうと思っていた所なのだが、ライさんはそれより先に行ってしまった。
「はあ、真面目すぎやしませんかね……本当に」
一瞬でも休んでくれたらいいんですけど……。
私もため息混じりに席を立つ。ライさんが戻ってくるまでに、お茶のひとつでも用意しておこうと思いながら。