覚醒する話
「…………」
ふと目が覚めた時には、眠る前の自分とは違う事を認識していた。さっきまで一般的な人間の子供、そこらに居る小学5年生、親が留守がちなぐらいで普通の家庭、双子の弟が居て、今は一緒に寝ているベッドの上段にいるはずで、つまり子供部屋に寝ていた本当に普通の子供だったはずだった。
それが如何だろう。目を開けた頃には記憶の半分にまるで当然かのように別の時間、別の人生が丸ごと居座っていて、今の私と同居している。今の私は……。
「ねえ」
静かな寝室に一言だけ発する。ごそりとベッドの上段で飛び起きる音が、その一言だけで『私』を認識した事を示していた。
「……起きてるんでしょ」
「……!!!」
続け様に昨日の私では話さない声色で確かめれば、薄暗い部屋でも分かる程に驚きと感動と不安と……色々な感情の混ざり合った目線が上から降って来た。ベッドに乗り出して顔だけ覗かせたルナの表情は、泣きそうなのに笑いを噛み殺してて…………それだけで待たせてしまった事を察してしまった。
私もまだ目を開けたその状態、横になったままでその顔を眺める。
「『サナ』ちゃん……?」
確かめるようにルナが口を開く。その名は昨日までの私の名前ではない。
『ルナ』
「……!!!!」
私も短く返す。その名を呼べる懐かしさに唇が震えていた。ルナもそれは同様らしい。言葉を詰まらせながらベッドを降りて来て、確かめるように私に触れた。
「……よかった、よかった……僕だけが思い出したままかと思った……」
そう言ってベッド脇に崩れ落ちる様子を見ると不安だったらしい。ようやく起き上がって彼の手を取る。
「……貴方はいつから……」
「去年……。新しい神様……『コエ』ともコンタクトを取ったよ。暫くは父さん母さんにバレないようにした方がいいって言われて知らないふりしてた……よかった……」
随分と長い間を1人で待たせてしまったのだと思うと少し切なくなる。心細かったのだろう、よかったを繰り返す様子にこちらも安堵してしまった。
「……コエはなんて?」
「……少なくとも高校生までは待って欲しいって」
……あと4年。演じるのには慣れている。時感は長いがそれで今までが消えた訳じゃない。今の家族とも上手くやれるだろう。
「……ただいま」
「おかえり……」
深夜に静かな挨拶を交わす。懐かしい温度の手を握る。
翌日、記憶を取り戻した影響で1日寝込んでしまいまた彼を泣かせてしまうのだけれど、それは別の話。