神の目を盗む
そう言えば会わなかったね、なんてサナちゃんとルナが口を揃えるから、そんな面白そうな事をしてたなんて知らなかった、と嘘を吐いた。別に面白くはなかったから、と困った顔で軽く怒るルナと、トラウマは残ったけど本気で戦い合えた事自体は面白かったと話すサナちゃんを見れば、大体「それ」がどういうものであったかを知る。
正直に言えばコエの企み、というか思い悩みは知っていた。仮にも切り離されたとは言え未来の自分が何を考えるかなんて薄々だけど分かり切っていて、力があるだけで神になる事がどれだけ難しいかも知っていた。いや、知っていたというよりは何処かで予想していたという方が正しかったのかもしれない。
心の何処かで、この均衡は『仮初』でしかないと薄々思っていた。カンが願う『対等』に答えを出せなかったのも、きぃちゃんの『想い』に気づいていて敢えて答えを出せなかったのも、何れ食い違いが起きてしまうものなら、戦うべき相手になるのなら受け取らないほうがいいと思っていた。サナちゃんがルナと打ち解けていく様子や、彼女ちゃんを迎え入れる様子を何処か冷めた目で見ていた節も多分ある。
だけど、その様子をコエの一部として、またはのえるの一部として……彼女ちゃんが変えた結果を見て、思い過ごしだと気付かされてしまった。
同時に知ったのは、一番長く一緒に過ごしているきぃちゃんの孤独。彼女の願いは『コエが禁忌にしたクローン、それに該当する自分とカンの消滅』。
そう悩ませてしまったのは、ふたりの思いに向き合わなかった自分のせいだ。
コエを、サナちゃんとルナを、何より自分自身を長く見てきて、誰かが傷つく事はどうしたって許せない。だからこそ天使たちと戦うことを選んできぃちゃんを戦いから遠ざけたつもりでいた。けれど、それが大きな間違いで……コエがこの先禁じたものは変えられなくとも、きぃちゃん一人の手を取ることは今からでも遅くはない。
さて、どうやってきぃちゃんと同じ場所に立てばいいだろう、なんて思いながら鏡の前に立つ。思い悩んだ自分の目を見て思いついた。
ならば、私も偽物になればいい。
コエが一時的にこの世界を離れ、サナちゃんたちがこの時空から切り離されている時間。神の目を盗む。
サナちゃんの記憶を辿り、名を消すための優しくて寂しいきぃちゃんの時間を辿る。
「やぁ、『サナちゃん』」
対の振りをした。