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税関の輸入差止めは裁判所の差止め判決より手強い

2022.06.08 20:26



 


特許法や商標法における「侵害」は製造・販売・輸入等の「行為」を指します.
製造等を行う行為の主体は者です.
侵害裁判所は、必ず特定の者に対して製造・販売・輸入等を行ってはならないという判決を下します.



当事者以外は判決に拘束されません.


したがって、判決当事者以外の製造・販売・輸入等の侵害行為を追求する場合は、別途裁判所の判決を得なければなりません.


 


「人」ではなく「物」を規制する税関


一方、関税法における「侵害」は「物品」です.
特許権や商標権等を侵害する「物品」の輸入を禁止する関税法(関税法第69条の11)によれば、侵害行為を行う者を特定することなく、ある貨物を輸入する行為が特許法や商標法において特許権・商標権等を侵害するとされる場合に、輸入しようとする貨物を侵害物品として差止めます.


 


侵害裁判所による差止判決の効力が当事者にしか及ばないのに対して、税関輸入差止めは当事者を特定することなく、差止対象となるすべての物品に対して効力が及びます.


 


強力な権限を有する輸入差止めは、権利者にとって有利に働く一方、輸入者にとっては不利益に働きます.


 


権力が集中する日本の税関


権力を一つの機関に集中させないことが世界の趨勢です.


ところが、日本税関の水際制度は、一つの行政機関に権力が集中している点で世界的にみても特異です.


 


特許権や商標権等を侵害する物品の輸入を水際で差止める制度は日本のみならず世界の多くの国で制度化されています.


世界の水際制度と日本の水際制度とを比較すると、日本の水際制度は、税関という一つの機関に輸入差止めの執行に必要な機関が集中していることが分かります.


 


輸入差止めを執行するためには、輸入しようとする貨物が特許権や商標権等を侵害する物品に該当することの審理が必要です.


日本の水際制度が特異な点は、権利侵害の該否を審理する機関と、審理の結果に基づいて通関を禁止する機関とが税関という一つの機関に集中していることです.


 


例えばEUでは、権利侵害の該否を判断する機関は裁判所であり、税関は裁判所の決定に基づいて通関を禁止するに過ぎません.


米国では、権利侵害の該否を判断する機関は米国国際貿易委員会(ITC)であり、税関はITCの決定に基づいて通関を禁止するに過ぎません.


 


権利侵害の該否判定は高度な専門知識を必要とします.


本来であれば、多くの時間を割いて専門機関で慎重に審理するべき事項です.


しかし、輸入しとうとする貨物が特許権等の侵害に該当するか否かを審理する手続きである日本税関の認定手続きでは、権利侵害の該否判定を1月足らずで下しています.


 


税関で並行輸入を証明することは不可能


時間的制限が厳しい税関では、例えば平行輸入を証明することは実質的に不可能です.


日本の代理店を介さずに海外の並行ルートを経由して輸入するとほぼ間違いなく税関で知的財産権の侵害を理由に差止められます。


 


並行輸入は合法です.


しかし認定手続では並行輸入の主張だけではなく、合法な並行輸入であることを示す証明も必要です.


ほとんどの海外取引において、メーカではなくメーカから仕入れた二次取次、三次取次から購入しています.


並行輸入を証明するためには海外の取引ルート全てのインボイスを用意し、商品が正当な権原があるメーカ等から発送されていることを証明できなければなりません.



知的財産権の侵害該非を判断するための認定手続きは、認定手続開始通知書が送られてきてから約2週間以内に並行輸入であることを証明する資料を提出しなければなりません.


裁判であれば、期日が複数設定され、資料が揃うまで審理を延ばすことができます.


 


認定手続は10業務日という極めて短い期間内に、並行輸入を証明するための資料を用意しなければなりません.


これは、実務上、ほぼ対応するのは無理に等しいことを意味します.


 


輸入ビジネスにおいて並行輸入品を扱うのであれば、並行輸入を証明するための資料を事前に準備できる体制を整えておく必要があります.