特許を受ける権利を譲渡するときが発明者にとって最初で最後のチャンス
特許出願をするときに提出する願書で、発明者と出願人を特定します.
同じ願書の記載でも発明者と出願人とでは享受できる利益が全く違います.
発明者は発明の完成と同時に特許を受ける権利を持つことができます.
発明者自身、または発明者から特許を受ける権利を譲り受けた者が出願人です.
特許の世界では、発明を完成させるまでは発明者が主役、特許出願をした後の主役は出願人です.
出願人はのちに特許権者になります.
特許権者は、特許発明を独占排他的に実施したり、ライセンス供与してライセンス収入を得たり、特許権を譲渡して対価を得ることができます.
これに対して発明者が享受できる利益と言えば、発明者として特許証に氏名が掲載される程度の名誉しかありません.
発明者といえども特許権者に無断で特許発明を実施すれば特許権の侵害になります.
発明者が特許を受ける権利を譲り渡すとき、このときが発明者が利益を享受できる最初で最期のチャンスです.
職務発明の対価を請求できるのは5年間
職務発明の対価が十分に支払われていないと思いながらも在職中に異議を唱える人はいません.
退職したあとに職務発明の対価を請求しようと考えていると思います.
しかし職務発明の対価を請求する期間はとても短いということを知っておかなければなりません.
職務発明の勤務規則で大事なこと
職務発明に関する勤務規則がない場合、勤務規則があったとしても肝心なことが定められていない場合があります.
職務発明に関する勤務規則で発明者として知っておくことは2つ、特許を受ける権利の扱いと、対価を得ることができる時期です.
勤務規則に、特許を受ける権利は会社が譲り受ける、と定められていることが多いはずです.
そのような規則が定めらていなければ、発明が完成した都度、特許を受ける権利を会社に譲り渡すのかどうかの契約をしなければなりません.
対価を請求できる期間は契約をしたときから5年までです.
勤務規則で特許を受ける権利を会社が譲り受けることを定めている場合の対価を請求できる期間は退職のときから5年までです.
職務発明規定の必要性
職務発明に関する勤務規則を定めないことは違法ではありません.
尤も今ではほとんどの企業で職務発明に関する規則を定めています.
ただし、その内容は従業者がした発明を使用者が譲り受けるという予約承継を記載しているに過ぎないことがほとんどです.
肝心の対価については記載がない、あっても有耶無耶という場合が少なくありません.
使用者から見た職務発明規定のメリットは、特許を受ける権利の予約取得です.
デメリットは、発明者からの対価請求権の起算点が退職時まで繰り延べられることです.
在職中に使用者に対して対価を請求する発明者はまずいません.
しかし退職後であれば不足分の対価を請求する発明者が現れるかもしれません.
円満退社でなければなおさらです.
職務発明規定がなければ、発明者から特許を受ける権利を譲り受ける契約を締結したときが対価請求権の起算点です.
対価請求権にはいくつかありますが、最も早い出願補償に基づく請求権は、従業者の在職中に5年の消滅時効期間が経過するでしょう.