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「当社の商標権を侵害しています」警告状はなぜ突然やってくるのか

2021.09.28 17:16

「当社の商標権を侵害しています」


商標を使い始めてから10年が経過したある日、突然、商標権侵害の警告書が送られてきました。

10年も経っているので商標の問題はないと思っていたのに、なぜ今ごろになって、と驚きを隠せません。

でもこれは決して珍しいことではありません。

権利者の立場になって考えてみると

自社の登録商標が他社に使われると、本来であれば自社の商品を買ってくれるはずの人や、自社のサービスを利用してくれるはずの人が、他社に流れてしまいます。

この結果、他社が商標を使用しなければ得られたであろう利益が失われます。

得られたであろう利益を損害賠償として請求しようという行動を起こしたくなります。


損害賠償はどうやって計算するのか

商標権者の損害額を直接算定することは難しいので、商標法ではケースバイケースで商標権者の損害額を算定する方法が規定されています。

そのなかの1つに、登録商標を無断で使用した他社が計上した利益を商標権者が被った損害の額とする規定があります。


この算定方法を使うと、登録商標を無断で使用している期間が長ければ長いほど、算定される損害額が大きくなります。


登録商標を使い始めたときは売上が上がりません。

したがって損害額も小さく算定されます。


ビジネスが軌道にのり、登録商標を使用した商品やサービスが多く消費されて売上が上がれば、算定される損害額も大きくなります。


損害額が大きくなるまで待つ

算定される損害額が大きくなるまで、意図的に商標権を行使する時機を遅らせる、ある日、突然、警告書が送られてくるのにはこんな理由もあるのです。


10年が経ったある日、突然、警告書が送られ、10年間の売上をもとに損害額が算定されたら、これまでに計上してきた利益を一気に失うことにもなりかねません。


警告書がきたときにやるべきこと

警告書がきたときにやるべきことは、本当に相手の権利を侵害しているかどうかを検討することです。

侵害していないと判断したら、相手が主張する権利侵害を否認すれば良いのです。


先使用権とは

警告書が送られてきたからといって、すぐに先使用権を主張しようとする人がいますが、とても危険です。


先使用権は、相手の権利を侵害していると判断したときに抗弁する権利の一つです。

つまり先使用権を主張したということは、相手の権利の侵害を認めたことを意味します。


先使用権を主張しても裁判所は認めない

商品名やサービス名を使い続けていれば、引き続き誰にも邪魔されずに使い続けることができるという先使用権。

これが認められるか否かは、その商品名やサービス名が広く認識されるほどに周知されている場合です。

残念ながら商標法が想定している周知性のハードルは非常に高く、ほとんどのケースにおいて要件を満たすことはできません。

先使用権の主張は危険

これまで長い間、商標を使い続けているから、商標権侵害を警告されても先使用権を理由に救済される。
たしかに先使用権は、第三者の商標登録出願前から使用していること等を条件に認められる救済事由ですが、先使用権の主張は抗弁事由です。

抗弁事由とは、上記の場合で言えば、自己の商標の使用が相手の商標権に抵触する、しかし、商標法上認めれている先使用権により第三者の商標権の侵害は成立しない、ことを内容とするものです。

先使用を主張することにより、自己の商標の使用が相手の商標権に抵触することを認めることを意味するので、商標権侵害の警告に対して先使用権を主張する場合は要注意です。


前言撤回は許されない

そんなことは知らずにうっかり先使用権の存在を主張してしまったので取り消したい。

そのうえで自己の商標の使用が相手の商標権に抵触しないことを主張したりすれば、今度は包袋禁反言の原則に反することも考慮しなければなりません。


商標権に関わらず知的財産権侵害の警告があった場合は、まずは相手が主張する権利侵害を否認する否認事由の有無を検討することが大切です。