弁理士はどのように技術を理解しているのか
新人のころ文系の特許技術者の指導を仰いだことがある。
語学が得意なその方は主に外国案件の中間処理を担当していたので、外国案件の指導を受けていたのだが、その方の仕事は理系がやる仕事と同じ内容だった。
なぜ文系なのに技術が理解できるのだろうと不思議でならなかったのはもちろん、その方と議論をしても敵わなかった。
特許は理系がやるもの、たしかにそうなのだが、現実には文系の弁理士が特許明細書を書いている場合もある。
そのカラクリを説明したいと思う。
理系だからと言ってすべての技術分野に精通しているわけではなく、また発明者と同じ技術レベルであろうはずがない。
それにも関わらず特許明細書が書けるのは、技術の理解の仕方が違うからである。
このことが理解できず、技術者と同じ土俵で勝負してしまうと、遅かれ早かれこの仕事から手を引くことになる。
弁理士が技術を理解するときに何をしているかと言えば課題の探索である。
例えば、発明の目的が処理速度を向上させたいという場合、処理速度が向上できない技術的な理由は何かということを探索するのである。
技術的な理由をどこまで突き詰めるかは、従来技術に左右される。
発明者が知っている従来技術を聞き出し、また自らが他分野の技術に接して得た知見などに頼りに、従来技術との差分を突き詰めていく。
特許の打ち合わせのときに経験の浅い人がやってしまうミスは、発明者が話したことをそのままグロスで理解しようとすること。
発明者の理解している技術をそのまま聞いて理解できる場合は良いが、それは発明者と同じ技術レベルでない限り無理である。
技術は累積的に進歩すると言われるように、最新技術であってもそれはコア技術の寄せ集めで成り立っているから、何も最新の技術をグロスで理解する必要はない。
課題の探索深度を深くしていくと、より技術の理解が容易になる。
このような作業をしないと、今度は特許請求の範囲のヒエラルキーが作れないのである。
特許請求の範囲のヒエラルキーの階数を多くできる人は、課題の探索深度を深くすることができた人であり、これができないと特許審査の結果、簡単にギブアップすることになる。
発明者からいかに特許に必要な情報を聞き出し、課題の探索ができるかが特許技術者に求められる能力であり、理系頭が必要というよりは演繹的なコミュニケーションができるかどうかで決まる。
新人のころに遭遇した文系の特許技術者は、演繹的な思考の達人だったのだろう。
実は特許技術者のなかでも二通りあって、演繹的な思考が求められる電機系に対して、帰納的な思考が必要なのが化学系だと思っている。
思考パターンが違う化学系の特許技術者のことをバケモノと言う人もいるが、言いたいことはよく分かる。