中国で商標登録する前に知っておきたいこと
出願人の決め方
これから中国で商標を登録する場合、権利者となる出願人は、次のように決めることができます.
中国に法人がまだ設立されていない
この場合は、親会社である日本法人名で出願するか、中国現地法人の法人代表に就任する予定の個人名で出願します.
中国に法人を設立してから1年未満
この場合は、親会社である日本法人名で出願するか、中国現地法人の法人代表者の個人名で出願します.
中国現地法人名で出願する場合は、年度検査を終えた法人の営業許可証の写しを提出します.
設立してから1年を経ないと、最初の年度検査を終えることができません.
設立から1年未満の中国法人名で出願は原則できません.
中国に法人を設立してから1年を経過
この場合は、親会社である日本法人名で出願するか、中国現地法人名で出願します.
中国現地法人の法人代表者の個人名で出願することもできます.
日本法人を権利者にするメリット
親会社の日本法人が権利者の場合、中国現地法人に対して商標の使用権を設定することができます.
中国法人から日本法人に対して商標使用料という方法で、利益を中国から日本へ戻すことができます.
名義変更
日本法人から中国法人へ商標権を譲渡したり、個人から法人へ商標権を譲渡する場合は譲渡手続きを行います.
日本法人が商標の権利者の場合、商標権の使用、収益及び処分は、取締役会の決議が必要な場合があります.
中国法人が商標の権利者の場合、商標権の使用、収益、処分は董事会での承認が必要な場合があります.
商品・役務の決め方
中国で商標出願するときに指定する商品・役務の数は必ず2つ以上にします.
中国の商標審査は指定した商品・役務の一部に拒絶理由があっても日本のように出願全体を拒絶するわけではありません.
拒絶理由がある指定商品・役務だけを拒絶し、その他の指定商品・役務については登録します.
もし一つしか商品・役務を指定しておらず、そしてその商品・役務に拒絶理由があると、登録できる商品・役務が存在しない出願になってしまいます.
中国の商標料金は、出願料に10年分の登録料を含んでいます.
登録できる商品・役務がない出願だからといって登録料が戻ってくることはありません.
指定する商品・役務の数が10を超えると超過料金が発生します.
実務上、出願時に指定する商品・役務の数は2から10です.
商品・役務の名称はライセンスに影響する
中国企業に対して商標の使用を許諾するライセンス契約は、「商標使用許諾契約登録弁法」に則って作成します.
中国においても契約自由の原則に基づいて、当事者が自由に記載内容を決めることができ、仮にそのように商標ライセンス契約を作成しても、契約書は効力を発揮します.
しかし商標ライセンス料を日本へ送金するためには、「商標ライセンス契約の届出通知書」を銀行に提出する必要があります.
「商標ライセンス契約の届出通知書」を取得するためにはライセンス契約書を届け出て審査を経なければなりません.
審査で問題になるのが、ライセンス契約においてライセンシーに使用を許諾する商品とライセンサーの商標登録証に記載されている指定商品・役務の不一致です.
例えば、商標登録証に「被服」が指定商品として記載されている場合、「靴下」に対して使用を許諾するというライセンス契約を締結している場合です.
商標使用許諾契約登録弁法には、「使用を許可する商標が当該商標の使用が確定されている商品範囲を超えている場合は、ライセンス契約の登録申請を受け付けない」、と定めています(第11条).
商標登録証に記載された指定商品の解釈は日本と比較すると厳格です.
日本の実務では商品を大きな概念で指定できるので、商標登録出願するときに指定商品を個別に記載することはしません.
中国の実務では商品を概念で指定することはできないので、指定商品を個別に記載します.
日本で「被服」を指定商品として権利化すれば、「靴下」も保護されます.
中国で「被服」を指定商品として権利化しても、「靴下」は保護されません.
中国の商標登録証に記載された個別の指定商品以外に商標権の効力は及ばないと考えておくべきです.
インターネット通販は必須
中国のインターネット人口は10.32億人(2021年12月時点)を超え、普及率は73パーセントです.
日本のように普及率が80%に届いた場合、中国のインターネット人口は12億人にまで膨れ上がります.
巨大なインターネット人口を背景にインターネット上のモールで商品を販売するサービスが急成長しています.
製造拠点から消費拠点に発展した中国において、消費サービスに不可欠なインターネットサービス区分で商標を登録している企業が少ないのが気になります。
中国では、日本のように小売等役務を指定して商標を登録することはできません.
しかし小売等役務に相当する35類にはすでに類似群が用意されています.
そしてすでにその区分を指定して商標を登録している企業が存在します.
小売等役務の指定が可能になってから商標登録出願しても、その区分にすでに第三者の商標登録が存在している可能性があります.
中国では化粧品や衣類といった商品商標だけではなく、小売等役務を指定した商標登録が可能になる前の今のうちから、小売等役務区分である35類についても商標登録をしておく方が安心です.
複数の区分を纏めない
中国でも日本と同じように、1つの出願に複数の区分を含めることができる、多区分制が採用されています.
一見便利そうですが、現時点では区分ごとに出願する従来通りの方法で出願することを推します.
理由は、登録までの時間が長くなること、登録後の商標管理が面倒なこと、費用がかかる、からです.
例えばABCという商標を、3つの区分1,2,3で出願する場合を考えてみます.
それぞれの区分について、出願X(区分1)、出願Y(区分2)、出願Z(区分3)として出願する方法と、多区分制を利用して、全ての区分を含めて、出願W(区分1、区分2、区分3)として出願する方法の2通りを選ぶことができます.
審査期間が長くなる
商標審査に要する期間は区分ごとに異なります.
現在の審査期間は平均で1年程度ですが、この意味は、ある区分では8ヶ月程度で登録になり、ある区分では16ヶ月程度で登録になるということです.
複数の区分を1つにまとめてしまうと、全ての区分の審査が終わるまで審査結果が通知されません.
拒絶理由が存在しない区分2と区分3の審査はすでに終了しているのに、区分1の審査が終了しないので出願Wの審査結果が通知されないということになります.
区分2と区分3の審査は8ヶ月で終わっても、区分1の審査に16ヶ月がかかった場合、区分2と区分3も16ヶ月経たないと審査結果が通知されません.
模倣品がすぐに出回る中国では、武器となる商標権がなければ模倣品対策ができません.
大事な商標は区分ごとに出願して早期に権利化を目指した方がいいのです.
商標管理
多区分制を利用して出願して、そのまま登録になると1つの商標権に複数の区分が含まれています.
区分ごとに商標権があるわけですが、例えば、10年後に商標権を更新をするとき、たとえ不要となった区分が存在していても、その区分の更新料も支払わなければならないことが予想されます(現時点では明らかではありません).
また商標ABCの、区分1の商標権を譲渡するには、まず区分1の商標権を分割しなければなりません.
現時点でこのような分割が認められるのか否かが不明なので、将来の事業譲渡で区分1の商標権を譲渡することになった場合でも、譲渡できないことになります.
出願するときは複数の区分をまとめて管理できるので便利ですが、逆に商標権が登録された後の管理では不便なことが少なくありません.