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中国企業との契約は当てにできないけど無いわけにはいかない

2022.02.02 18:06

「中国で良いパートナーを見つけたら、そのパートナーと中国でビジネスを始めることにした。」


「その中国のパートナーはとても良い人だし信頼できるから堅苦しい契約書は必要ない。」


「そもそも中国のパートナーが持ちかけてきたビジネスだから、こちらの気分を悪くさせて自分が不利になるようなことはしないだろう。」


 


中国ビジネスを始めるときによく聞く会話です。


中国のパートナーとビジネスを始めるときは、中国側も日本側もビジネスを立ち上げるという同じ方向を向いているので両者の利害関係は一致しています。


 


しかし日本人の「常識」を共有していない人たちとビジネスを始めるわけですから、こちらが「常識」だと考えていることも相手にとっては「非常識」であることが将来必ずあります。


 


「常識」を共有しない以上、共通のルールを明確に定めておく必要があります。


それが契約です。


 


「契約書でこんなことを書くと相手が気を悪くする。」


「契約書でこんなことを書いたら相手を信用していないことになる。」


といった理由で契約書をつくることを避ける人がいます。


 


そもそも相手が何を思い何を考えているのかが日本人の「常識」では想像がつかないから、予めルールを明確にするために交わすのが契約です。


相手のご機嫌をとるために交わすものではありません。


 


「トラブルになったら話し合いで解決する。」


「話せば相手も分かってくれるはず。」


 


トラブルになったら、そもそも話し合いすらできません。


トラブルになったら、お互い自分の利益を追求しようとします。


 


そんな状況で頼りになるのは契約書だけです。


 


ライセンス契約で注意すること


中国企業とライセンスを締結するケースが増えてきました。


中国契約法は日本と同じように契約自由の原則が支配するので、契約の内容を当事者が自由に決めることができます。


 


ところが契約の内容が技術の輸出入になると、「技術輸出入管理条例」が適用されることになり、契約の内容に一定の制限が加わります。


 


例えば、ライセンス技術を実施した結果、第三者の知的財産権を侵害した場合、ライセンス当事者が合意すればライセンサーの責任を免除させることができます。


ところが、技術輸出入管理条例には、このような例外が認められないため、知的財産権の侵害が発生した場合はライセンサーが責任を追わなければなりません。


 


このような賠償責任を回避するために、国際ライセンス契約ではなく、中国企業同士の契約にする方法があります。


日本の親会社の知的財産権を管理する管理会社を中国に設立し、その管理会社と中国企業との間でライセンス契約をする方法です。


中国企業同士の契約ですので、中国契約法に従い契約内容を当事者合意のもと自由に定めることができます。


さらにライセンシーとの間で外貨送金が発生しないというメリットもあります。


 


インセンティブ条項を充実させる


中国企業との取引でトラブルになったら日本企業に勝ち目はないと考えておくべきです。


トラブル解決の心強い武器となるはずの契約書ですが、中国企業にとって契約書は日本企業が思っているほど重要な書類ではありません。


契約書に記載した条項に基いてトラブル解決を試みようとする日本企業に対して、契約書に記載した条項を無視して有利な内容でトラブル解決を試みようとするのが中国企業です。


 


契約書には将来的に起こるであろう事項を想定して条項が盛り込まれているはずです。


ですが想定するレベルが日本企業と中国企業とでは違い過ぎます。


そのため必ず想定外のトラブルが必ず起こります。


 


文化や習慣の違いから「トラブル」の捉え方も違います。


日本企業がトラブルだと主張しても中国企業は当然のことだと考えます。


 


契約書に当然に記載してある裁判解決条項ですが、中国で裁判を起こせば中国企業にとって有利なだけです。


第三国を管轄地とする方法もありますが、中国企業の清算も想定しておかなければなりません。


なぜなら中国企業の半数が5年以内に消滅しているからです。


 


資金と経験が豊富な大企業なら訴訟も辞さずというスタンスでトラブルを解決するのも良いのですが、そうでなければトラブル解決にコストと時間を費やすよりも潔く諦めた方が結果的にコストと時間の損失を最小限に抑えることができます。


 


トラブルになったときのための契約書よりも、トラブルを起こさせないための契約書を作ることの方が大切です。


ペナルティ条項よりもインセンティブ条項を充実させた契約書が大切です。


 


仲裁解決は期待できない


中国企業との取引契約では、紛争解決手段として裁判ではなく仲裁を選択するのが一般的です。


その場合、仲裁機関として日本又は中国ではなく、第三国の仲裁機関を選択するケースがあります。


中国以外の外国の仲裁機関が判断した結果を中国で執行する場合は、中国の裁判所の承認が必要になります(中国民事訴訟法第267条)。


 


紛争解決手段として中国以外を選択したにもかかわらず、最終的には中国の裁判所の承認を得なければなりません。


これでは紛争解決手段として中国の裁判所を選択した場合と変わりません。


中国企業が不利になるような仲裁判断の執行を承認しないことも想定しておく必要があります。


 


契約書が機能しないとなれば、対世効がある知的財産権が頼りになります。


中国で商標権や特許権を取得していれば、契約書が機能しなくても、特許権の侵害や商標権の侵害として、中国企業に対抗することができます。


 


2016年7月に下された南シナ海裁定に対して中国は仲裁裁判所の判断を無視する行動にでました。


国家が第三者機関の判断に従わない姿勢を貫くことで、企業も第三者機関の判断を無視してよいという雰囲気が醸成されます。


ほとんどが国有化されている中国の企業ですから、そのような企業が国家の意に反するような第三者機関の判断に従うことは固よりできないわけです。


 


辞めるときのことを考える


これからビジネスを始めようとするときに辞めることを考えるのは不謹慎、というのが日本のビジネスの考えです。
しかし、永久に続くビジネスというものが存在しない以上、引き際を考えるのは当然のことで、特に相手がいる場合は、契約書において解除条項を詳細に決めておく必要があります。


 


契約解除条項は、民法にも規定されている内容ですが、ビジネスにおいて大事なことは当事者が予め合意して定めておく解除条項です。
契約違反を原因とする契約終了が合意解除条項の代表的な内容であり、何が契約違反に該当するのかを予め当事者間で予め合意しておくことが大切です。


 


契約違反を個別具体的に決めておくことなく、疑義が生じた場合に協議して解決するという条項が見受けられますが、疑義が生じている場合は、往々にして当事者間の信頼関係が損なわれているものであり、そのような状況で協議解決を図ることなど事実上、不可能です。


 


契約を解除したいばかりに、相手の合意なく一方的に手続きをすすめれば、それ自体が契約違反となり相手方から訴えられてしまいます。