リプレイ
"To see a World in a Grain of Sand
And a Heaven in a Wild Flower
Hold Infinity in the palm of your hand
And Eternity in an hour"
Auguries of Innocence
by William Blake
人生の一番の特徴はやり直せないこと。でもやり直せるなら何するかな?
今まで観た私的映画ベスト10を挙げろといわれたら、必ずランクインするのが『恋はデジャ・ヴ』というハロルド・ライミスのコメディ映画。超常現象によって、2月2日のグランドホッグデーを何度も繰り返すことになるあるアナウンサーの物語なのだけど、単なるラブコメ風の邦題からは想像し難いであろう非常に深遠なメッセージを持った物語なのです。朝起きると同じ日が始まるという永遠ループに絶望した主人公は、ある悟りに達することにより本当の意味で生き始めることになるのですが(その見せ方がとにかくハートウォーミング!)そのメッセージが最高にポジティブで優しい気持ちにさせてくれるはず。主人公のビル・マーレイとヒロインのアンディ・マクダウェル(キャスティング、最高!)の演技もとにかく素晴らしく、もう本当にだまされたと思って観てください。(ちなみにこの映画、最近好きな人と一緒に観たのですが、その日がとても素敵な日で、でもその日にはもう二度と戻れないないんだなと翌日会社で号泣するという事件が。)
そんな『恋はデジャブ』の元ネタとなったといわれるのが本書、ケン・グリムウッド著『リプレイ』。主人公のジェフはある事件をきっかけに18歳から42歳を繰り返すのだけど、大金持ちになってみたり、性やドラッグにおぼれてみたり、田舎に引きこもって自然と一体の生活を送ってみたり、と誰しも同じ状況に陥ったらやってみたいであろうことを片っ端からやってみる姿がなんとも痛快で面白い。が、そのうちにどんなに社会的な成功をしても、享楽の限りを尽くしても、愛する家族を作っても、築き上げたものがすべてなくなってしまうことに次第に虚無感を覚えるわけです。 同時に永遠だと思っていた命がそうでもないことに気づき……。最後に主人公がたどり着く結論は結構当たり前なのだけど、なんども一緒に人生を繰り返した後に読むとなんともグッと来るのです。
そう人生は一度きり!
そして物語と同じぐらい面白いのが、「自分だったら?」と読みながら考えること。今の人生に割りと満足しているのだけど、まったく同じルートで繰り返したいと思わないのは子供とかがいないからでしょうか?(と、同時にあなたのパートナーは人生を繰り返したとき、あなたとの人生を選ぶでしょうか?ちなみに主人公は奥さんを選びません。とか言って)主人公はループされるどの人生でもギャンブルと株式投機で儲けるので、私もお金がいっぱいあるとしたら、ああ、本当に何しよう?と考えて、ああ、あの時こうしていたら、とか、こうしていなかったら、なんて際限なく思いを馳せられるのはリピートできる時間を持つ大人ならではなの楽しみ方ではないでしょうか?
新年から過去を振り返えろう!というのもアレですが、一回だけの人生を有意義に過ごすためにも、読んで損はないライフハック的な本でもあるような。以前読んだ時(確か大学生)、若干スピった『イルカ感』にぞわぞわしてダメだったのですが、SFというカテゴリーを越えた素晴らしい名作です。てのひらに無限を、一時間に永遠を捕まえて下さい。それにしてもハインラインに影響を受けている作家って人生の見方が優しくていいよな。ハインラインも読みたくなっちゃうな。