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Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

小説 op.5-(intermezzo)《盗賊》①…彼女は静かに涙を、流す。

2018.06.10 23:55



これは、いま、アップしている《シュニトケ、その色彩》の諸連作のためのインテルメッツォ(間奏曲)のようなものです。


《わたし》と、《上》にちょっと出てきた《圭輔》、そして《加奈子》の物語です。


内容について言えば、愛について考える哲学小説、と言ってしまえば、そういうものだ、と言うことになります。

愛、簡単に言葉で言ってしまえば単純なんですが、現実的にはすさまじく困難で、複雑な営み、…ですよね?

この連作全体が、それぞれのさまざまな愛が絡み合う物語になっています。


だいたい原稿用紙換算で40枚くらいでしょうか?


おもしろいと想っていただければありがたいです。


2018.06.11. Seno-Le Ma










盗賊










その対象が君である必然性はなかった。と、とはいえ、私は彼を愛した。

慶介と言う、女垂らしの、その名の彼は、穢らしいホスト。私に愛されて、

私を

愛する、という

愛し、

あまりにも美しい、そのあまりにも空虚で、

からっぽな

大きすぎる夢のような容姿を誇った、

その

概念でしか、穢れたホスト。

概念

結局のところ19歳だった。私はその感情を

使い古され

私は。

だれも触れたことがない、

呼ぶことができないことに、

その

自分自身に対する

愛と呼ばれるしかない

自分自身の

概念

裏切りにすぎないような、圭輔は、…いくつ?その、たぶん、どうして、21歳、…とか?こんなにもむごたらしくさえ…あるいは。感じてしまったのだろう?私たちはその屈辱感を。愛し合う。いつでも。飽きもせず。なじるような感情とともにたぶん、君に愛してると、私たちがそれだけ全滅するまで。呟くときの。


空回りする饒舌を君は笑うだろうか?









聴く。彼が笑った声を聞いて、訝った私は…なに?と、その声は君も聞いたに違いない。私の仰向けに寝かされた身体にまたがって、それは、君が強制したものだった。突き出された臀部の白い肌に私をひざまづかせた後で、差した光が、…その、窓越しの、きらめくのだった。彼の、光にまばたき、その、それが、わたしが君のそれをいよいよ白く。******ごほうびに。照って、光。犬に差し出された骨のように。指先が、先端に触れるたびに、声をあげそうになる。何の、声さえ立てないくせに。*****************************その、至近距離に。

口の中に、まだ、***********匂いが残っている気がする。その舌触りさえ。少なくとも、味覚。わたしはまだ、…その。それを感じていた。あるいは、こんなことなど…ん、と。


ん、と、圭輔が鼻に立てた音声の断片が耳に残って、「何?」こんなことじゃない。


もとめているのは、こんなことではなかった。にも拘らず、なすべき何もなく、なされるべき何の可能性も見つからないとき、私たちは、《愛し合う》以外に、すべを持たなかった。なしくずしの、その、射精し、され、させられ、させるたびに、あからさまな屈辱感を感じたのは、その意味は、よくわかっている。


…言うまでもなく。君は、挫折のようなもの。微笑む。私たちは、ときに、時間をただいたずらのばれた浪費した、それら、子どものように。個人としては…内気な、明らかに子ども。膨大な、その、そして挫折が私を咬む。

爪を立てて。服、脱ぎなよ、と、圭輔が咬みつかれたその感情は言って、

…なんで?もはや、笑う。単なるふたたび、日常に過ぎない。いつものように圭輔は笑っていた。いつでも、こんなくだらない、いつでも、何か企んだような、行き止まりのそして、救いようのない実は優しい、何もたくまれてなどいない事が明らかな、ささやき声と、その。

気遣いと、眼差し。繊細な、見詰められるままに震えるようなわたしは衣服を脱ぎ捨てるのだが、気配に満たされた、…見ないで、地獄のそこのような世界。…と。わざと、ストリップめかして、満たされるものはなにもなく、「見ないで」


「…まじ、見ないで。」…あっち、向いてて。腰を振ってみせ、絶望感さえ、存在しない。くねった腰に舌が触れる。光が差して、君の。輝かせた白い光を、もう一度、君はさらに、見ただろうか?そしてもう一度。そのときに。何度も。声を立てて笑いながら、骨をしゃぶる犬のひざまづいて、と、戯れのように、彼の眼差しがなぶる。言葉もなく、なぶられるままに、その、私は、逃げようもない命令のままに、まかせて、ひざまづいた圭輔の口はやがて私の前で、くわえ込んだ曝された私のそれに変形させられ、圭輔のそれに、ゆがんだ、触れて。…と。


触れて。


触れな。


触れろよ。


触れれば?.....................................................................................................................…触ってみなよ、と、その、不細工な形態を曝すしかない。君の指先がつぶやいていた。明示された暗示として。私の手のひらに私の髪の毛を両手で、撫ぜた、頬を、その。撫ぜられるままに、舌が触れれば、首を使うわけでもなくて、一度、ただ、逃げるように舌と口蓋だけでのけぞったそれに、もてあそぶのだった。私の息はいつも、かかったに違いない。圭輔は。その、へたくそな*****。


イタリア語?…たぶん。「穢い。…」藤井加奈子が言った。









「穢くない?わたしのお口って、あんな穢いの咥えるためにあるんじゃないからって、」私は声を立てて「…まじで…、」笑う。「…穢い。」

彼女の隣で、…ベトナム。南部の都市、ホーチミン市、旧名サイゴン「まじで想う。…まじで、」熱帯の町。げー…、と、加奈子は、その飲食店の中で、これ見よがしに舌を出し、汚らしく口を開いて、白目さえ剥いて見せるが、広げられた鼻の穴がかすかに痙攣し、彼女の傍らで、ベトナム人たちに食べられていたのは  Bún ブン というベトナム料理だった。

ベトナム人であふれている店の中だった。ベトナムにはじめて来た加奈子を連れてきたのだが、明らかにそれは失敗だったに違いない。

現地食の店に連れて行け、と言ったのは加奈子のほうだった。ヘルシーだ、という、日本国内でのみ流通したベトナム料理の売り文句をそのまま信用した加奈子が、そう言ったのだった。生暖かいスープに、米粉をひいた麵がぶち込まれ、骨付きのまま砕かれた豚肉が盛大に乗っかっていた。黒ずんだ廃屋のような低層住居のガレージに、プラスティックの赤い、低い、安っぽい椅子と机が並べられ、床に吐き捨てられた骨と、投げ捨てられた楊枝と、口拭き紙が散乱する。

ベトナム人たちがつまらなそうな顔をして、骨をつまみ、肉を、音を立ててしゃぶった。

ふきっさらしの店内だというのに、スープの味の素と、煮込まれた肉と、骨の匂いと、それらの湿気が、無意味なほどに、いっぱいに充満する。

「…ねぇ、吐きそう」不快感を表明せずに居られない加奈子は、その場に唾を吐き、その、明らかなマナー違反に、周囲のベトナム人たちが、哀れみと、怯えの交差した眼差しを、加奈子にくれた。

咎められもしない。誰もが彼女を、頭のおかしな、かわいそうで、怖い外人だと想っている。

いま、懐から銃を出して、彼女が自分の頭を吹っ飛ばしたとしても、もはやそれほどの驚きではないくらいに。


いつものことだった。

君に抱かれるたびに、どうしようもなく反社会的な行為をしている気がした。世界中、…あるいは世界の存立そのものに責められながら。それが、同性愛だから?…ではない。私は、…だから?そして彼は、それがどうしたというのか?むしろ例え、同性愛者ではない人間を、世界そのものが敵対したとしても軽蔑するべきではないかとさえ、そんな、たかが知れた横槍などは。疑った。

軽蔑の正当性を、確信することをはためらわせた。私と圭輔が、にも拘らず、あくまでも哺乳類である限りにおいて。その、不可避的な逡巡。いずれにしても、いわば、家畜たち。繁殖のために、自分の意志さえあるのかないのかわからない、その、或いは、肉体が求めたのか、精神が求めたのか、それさえも定められはしない、いわば穢らしい静物的な情欲と、例えば、愛。

ただ、

そう、美しく呼ばれることを求める

…愛。

それ。それらの曖昧な区別、かつ、(非過分的であるにも拘らず本質において不自然な、その)混濁の中に失墜せざるを得ない、異性愛者たち。

彼(…彼女)ら、夥しい群れ。いわば、**のような。









にも拘らず、私は知っているのだった。私と圭輔の、精神の営みが、所詮は肉体の性感…身体に張り巡らされた神経の束と、脳内物質の問題。

ドーパミン、覚醒剤のようなもの。

現実的に覚醒剤が与えるのが、そのドーパミンの決壊だというのなら、それはむしろ愛に等しい。愛することの意味が、

覚醒剤が、やがて破壊した圭輔は

ついには《愛し合う》ことに他ならないとするならば。君の、

老いさらばえた50代のように見えた。その

25歳の誕生日イブには

…彼の指先を愛した。わたしは圭輔の、その繊細な、そしてときに暴力的で、わがままな…痛いよ、と。指先。痛いから、軽蔑しながら。…馬鹿。私は それらの行為、言った。彼の穢らしい、指先が、その、激しすぎる動きを 軽蔑せざるを得ない。**に ついには、示したときに。見つめあった時間が、いつも、それにたどり着かねばならないに他ならないにも拘らず。

持ち堪えられなかった雪の起こした雪崩のように。…決壊。崩壊。私たちは、合う、…し、…愛、し、合い、あい。

…あう。

焼き尽くして仕舞えれば、と想った。肉体そのものを。…同性愛、あるいは、その精神性それ自体が、私たちの愛の正当性そのものを破壊している。

それは、留保無き屈辱に過ぎない。

いつも。

いつでも。


私が案内してやったホテルの部屋に入ったとたんに、加奈子が私にしがみついた。いきなり、…ねぇ?振り向くまもなく。

背後から、…ねぇ、って。ね?

「信じられる?」

なに?

聴く。

「めっちゃ、会いたかったの?」

誰に?

早口の、その

「あんたに」

なんで?

音声を。

「飢えてた。むしろ」

何に?

加奈子の、それ。

「穢ったない****にだよ、…ばか。」

どうして?

舌を咬みそうになって

「*********************たくて仕方なかったの。」

なんで?

私の服を脱がせながら

「******************たいくらい」

…なに?

目だけが笑っていた。

「…ねぇ、体中******************されたいんだけど。」

あいかわらず、…

驚くほど明らかに、その

「****てよ」

頭おかしいね、…

眼差しだけが

「わかる?」

…お前。

しかめ面の真ん中で

「わかる?」

…ん?

「愛してるって言ってんの。」…最大級の表現。穢ったないくらい、最大級の、…わかる?

Can

豊満な身体。

you

無様なまでに、豊満な、それ。

understand

午前十一時。

?

その時間は、昼なのだろうか、朝なのだろうか。

あるいは、午前十時をも含めて。

光。

光には温度がある。

触感さえも。

肌を灼く触感。

光が、いま、じかに触れているのがわかる。

たとえ、それがカーテン越しのものであったとしても。

光。

…すくなくとも、熱帯に於いては。