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「國語元年」by 井上ひさし

2023.05.13 14:14

大学院在籍中に、英語学の教授からおススメ

されて興味を持った本。ようやく読み終え

ました。


「国語事件殺人辞典」、「花子さん」、

「國語元年」の3つが戯曲形式で収録されて

います。教授から読むようにススメられたの

はこの本のタイトルにもなっている「國語

元年」。3編ともに共通するのは日本語に

まつわる、おもしろおかしく現実の社会への

皮肉もまじえて書かれているところ。


実は戯曲形式のものを読むのが好きじゃない

ので、最初ページを開いて苦手意識が勝って

しまい一度読むのを挫折しました。でも

英語をやっているとひしひしと感じる母語の

大切さにあわせて今年色々と本を読んでいく

中でも同様のことをさらに感じたので、「とり

あえず!えいやっ!」と再度挑戦してみました。

そしたらなんで一回目挫折したのか全然わか

らなくなったくらい面白い。


一番初めに収録されている「国語事件殺人

辞典」なんてタイトルからしてもう面白い。

日本社会で間違って広まっている言葉遣い

などを皮肉っている箇所がいっぱいでてくる

けど、主人公や登場人物のセリフを通して

言葉の使い方や考え方について考えさせら

れる深い戯曲でした。


全国で統一された話し言葉を制定する過程を

おもしろおかしく書いた「國語元年」に関し

ては、各主人公のセリフのフリガナの箇所に

それぞれのお国言葉が書かれている形式。

みんな日本各地から東京に集まってきてる人

たちで話が展開されていくので、お国言葉で

読み進めていくとまだ統一された話し言葉が

なかった明治初期ごろを疑似体験をしている

ような錯覚に陥ります。


(あとそういえば統一された話し言葉の制定に

先だって、唱歌の紹介もされているけど

いまみんなが知っているこの歌のタイトルは

最初これで、歌詞もこんな歌詞だったとかも

わかって非常に興味深い)


今の日本はもう当たり前のように標準語が存在

しとるけど、みんなが理解できる話し言葉の制定

がなされる前の状況を考えると、色んな考えが

頭の中に湧いてきた。まず当たり前に思ってる

標準語って一体なんなん?とか。日本語って実に

多種多様で豊かやけど、それを一つの共通の話し

言葉に制定することって、それまであった豊か

さがどんどん削り取られていくことみたいやな

とか。


それは日本語だけに当てはまるんじゃなくて

別の言語にもあてはまるなとか。それこそ

英語ネイティブってなんなん?みたいな。

どこの何がネイティブなん?って。ネイティブ

っていっても1つに絞れない。どれが正解って

ない。言葉って知れば知るほど一つになんて

到底まとめられやんくらいすんごい多様。


日本語に関しては方言は面白いし大切にしたい

っていうのと、仕事で言葉を扱っている者と

して言葉が実に多様性に富んでいるものである

ことに関してもっと敏感に、もっと認めて

深掘りしていきたいってこの本を読んで

感じました。


あと「國語元年」を読むまで共通の話し言葉を

制定することがどんなに複雑で難しいことかに

関して全くの無知でした。その辺りのことも

もっと勉強したい。


あとこの3編、ぜひともお芝居として見て

みたい。軽快でクスっと笑えて、でも同時

にハッと深く考えさせられて。戯曲を読ん

でいるだけでも活き活きと面白さが伝わっ

てくる3編でした。


また自分にとって大事な一冊に出会えました。