根掛かり人生 vol.3
『北方ジャーナル』2016年7月号に掲載されたコラム『根掛かり人生 ~今日も地球を釣っています…~』の第3回です。
Vol.3
魚を知り己を知れば
百釣危うからず…?
「外道」=「悪」ではないのよ
昨年(2015年)夏のことです。釣りを始めて1カ月ほどの頃、僕ら親子は覚えたてのサビキ釣りでチカ釣りを楽しんでいました。チカのシーズンは3〜6月くらいのようですが、日によってムラはあるものの夏の終りまで楽しめます。
「今日はチカが寄ってきてくれないなぁ…」って日もわりとあるのだけど、そんなときでも「外道」のウグイがヒットして、わりと強い引きで暇つぶしをさせてくれるし、北海道の夏の海は心地よい潮風が吹いてて、釣れても釣れなくても海にいるだけで気分がいいもんです。
ところで「外道」とは、もともと狙っていなかったけど釣れてしまった魚のこと。子供たちと釣りをしていると実にさまざまな外道がかかります。当初釣ろうとしていた魚の反応がなかなか無いと、子供って飽きちゃうんですよね。すぐに自己流の釣りを展開して変な物を釣るから見ているとこれがなかなか面白い。ウチの次男坊はチカ釣りでデビューして初めて釣った魚がなぜか外道のカレイだったし、長男坊はヒトデをよく釣ります。いつだったか「うわぁ!大物だぁー!」と竿をしならせて、でっかいウミウシを釣り上げてギャラリーを笑わせたこともあったっけ。
彼らとは違い、娘の場合は嬉しい外道が多いかもしれません。いつものようにチカ釣りをしていたある日のこと、ウグイ以外の外道が娘のサビキにかかりました。
「な、なにこれ? ドジョウ??? キモッ!……でも、よく見ると可愛いかも(笑)」
どうやら、サビキ仕掛けを一度底まで落としたときにパクリと食いついてきたらしいその魚は、僕もいったい何であるかわからなかったけれども、毒魚ではないようでしたし、めんどくさいからチカと一緒に天ぷらにして食べてみたんです。
……んまーい!
予想外の美味さに驚いた僕は本などを漁ってこの魚が「ハゼ」であることを知ったのでした。
万人に愛されるハゼ釣り
このハゼ、釣りとしてはイージーな部類に入り老若男女問わず誰でも釣れるし、数を釣ろうと思ったら奥の深さもあるターゲットです。そしてなにより、美味しいのにお魚屋さんではまずお目にかかれない魚。これから釣りを始めるという人がいるなら、ぜひオススメしたい釣りです。
ハゼ釣りの仕掛けはどこの釣具店でもセットで売っているのでまずはそれを買って仕組みを覚えておくといいでしょう。ちょっと慣れると自分でも簡単に作れるようになります。
餌はイソメがポピュラーですが、僕は気持ち悪いし齧ってきて腹立つしでいまだに苦手です。でも、イソメ型の疑似餌も今では売っているし、魚を短冊上に小さく切っても餌になるし、エビでも釣れます。はっきり言ってなんでも釣れるんじゃないかなと思うときがあるくらい、ハゼは好奇心も食欲も旺盛です(笑)。
魚の気持ちになってみる
どんな仕掛けでどんな餌ならよく釣れるのか。釣具店の店員さんに訊けば丁寧に教えてくれます。でも、実はもっと大事なことがあることをハゼは僕に教えてくれました。たまたま外道として釣れて、しかもやたら美味かった〝謎の魚〟を知りたくてこのときの僕はネットやら図鑑でハゼの生態を調べてみたんです。
ハゼは砂や泥を好み、泳ぎがそれほど得意ではないこともあって上・中層に浮いてくることはまずなく、底あたりをウロウロして身体のわりには大きな口で虫や小魚を丸呑みして過ごしているようです。寿命は1年ほど。春に岸寄りして産卵して多くはその命を終え、産まれた幼魚は浅場で秋口までプランクトンや虫などを食べて成長し、冬になると沖の方へ移動していきます。釣りで一般的に狙うのは夏から秋にかけてほどよく大きくなった個体です。
魚のことを知ると、どうやって釣ればいいのかが見えてきます。まず水深はそれほど深い場所でなくてもよく、泥か砂の底に仕掛けを落としてずるずると引くか、たまにストップしたりチョンチョンと浮かせて好奇心を煽れば食いついてくるはず。泳ぎもあまり得意ではないから、満潮に向かう時間帯、つまり上げ潮のときに潮に乗って足下に寄ってくるんじゃないか──。
そうなると釣り方としてはいわゆる「ちょい投げ」釣り。ちょい投げとはその名の通り5g程度の比較的軽いオモリをつけて足下からせいぜい20m先までをちょいっと投げる釣りのこと。竿を持つとニンゲンというのはできるだけ遠くに仕掛けを投げたくなる生き物ですが、いきなり上手く投げられるはずもないし周囲に人がいるとかなり危険です。狙ったところに仕掛けを落とす、というキャストの基礎を学ぶ練習としてもちょい投げはかなり有効です。
「ねーねー! 今の見たー!? すごく遠くまで飛ばせるようになった!」
我が子らも竿を持って投げる釣りとなると、どこまで遠くに飛ばせるかと競争を始めるんですが、沖のほうに飛ばせたからといってハゼが釣れるわけではありません。
「ぜんぜん遠くに投げれなーい」と、いじけ気味の次男坊にハゼという魚がどんな魚なのかを話したら、
「そしたら遠くじゃなくて近くにいるかもしれないね!」と、自分の足下にポチャンと仕掛けを落とす次男坊。そして仕掛けをちょいちょいとたまに動かしています。いくらなんでもそんな近くにいないでしょ、と思っていた矢先、
「釣ったどー!」との雄叫び。その後もキャストすることはほとんどなく彼の足下から次々とハゼを釣り上げていくのでした(笑)。
魚の気持ちになって作戦を練り、シナリオ通りに釣ったときの満足感は人を釣りの虜にします。「釣れた」のではなく「釣った」ことの喜び──。ハゼはそれを僕ら家族に教えてくれたような気がするのです。
……といっても、すべてがシナリオ通りにいくわけもなく、まったく釣れないときも往々にしてあるわけで、そのツレなさにまたソソられてしまうし、釣れなくても海に居るだけでも気分がいいのが釣りという趣味の良いところなんですよねぇ。家内に言わせれば「あなたのダメなところ」らしいけど…。
(『北方ジャーナル2016年7月号』掲載)
※無断転載を禁じます。(C)Re Studio 2016年