こども
自治体職員研修では、「訓令・通達などの行政規則は、行政組織内部の職員さんだけが従わなければならない仲間内のルールですから、部外者である一般国民や裁判所などは、行政規則に拘束されません。」という風に説明している。
初心者でも分かりやすい例として、「公用文における漢字使用等について」(平成二十二年内閣訓令第一号)を挙げて、「常用漢字というのは、小中学校で習う漢字のことです。例えば、「からだ」は、「体」と書きます。これが常用漢字です。国家公務員は、平成22年内閣訓令第1号に従わなければならないので、公用文を作成する際には、「体」と表記しなければならないわけです。しかし、私は、国家公務員ではないので、この訓令に拘束されませんから、昔の漢字で「體」と書いてもよいわけです。」という風に説明している。
講義時間との関係で説明していないが、もう一つ分かりやすい例がある。「子供」・「こども」の表記問題だ。
第204回国会「衆議院議員丸山穂高君提出「子供」の表記に関する質問に対する答弁書」(令和三年六月十八日受領 答弁第一七一号)には、次のように説明されている。
「「子供」の表記については、「常用漢字表」(昭和五十六年内閣告示第一号。以下「旧常用漢字表」という。)の本表の漢字欄に掲げられた「供」の例欄に「子供」が示されたことにより、「子供」と表記することが目安として周知されるとともに、「公用文における漢字使用等について」(昭和五十六年十月一日事務次官等会議申合せ)により、政府の各行政機関が作成する公用文における漢字使用は、旧常用漢字表の本表及び付表(表の見方及び使い方を含む。)によることとされ、原則として、「子供」の表記を用いることとされた。現行常用漢字表及び訓令においても同じ取扱いとされている」
つまり、国の行政機関が公用文を作成する際には、平成22年内閣訓令第1号に従って「子供」と表記しなければならないのだ。
しかし、国会は、国の行政機関ではないため、平成22年内閣訓令第1号に拘束されないので、法律を制定する際に、「子供」と表記せずに、「こども」と表記してもよいわけだ。
例えば、こども家庭庁設置法(令和四年法律第七十五号)やこども基本法(令和四年法律第七十七号)は、「子供」ではなく、「こども」と表記している。
ここにいう「こども」とは、「心身の発達の過程にある者」をいう(こども家庭庁設置法第3条第1項、こども基本法第2条第1項)。
「子供」ではなく、「こども」と表記する理由について、「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針について」(令和3年 12 月 21 日閣議決定)の別紙「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針 ~こどもまんなか社会を目指すこども家庭庁の創設~」の1頁の脚注1が、次のように説明している。
「法令において年少者や若年者を表すものとして「子ども」「児童」「青少年」といった語が使われているが、その定義や対象年齢は各法 令により様々であり、また、特段の定義が法令上なされていないものもある。こうしたことを踏まえ、また、当事者であるこどもにと ってわかりやすく示すという観点から、ここでは、「こども」の表記を用いる。ここでいう「こども」とは、本文にもある通り、大人と して円滑な社会生活を送ることができるようになるまでの成長の過程にある者をいう。」
要するに、「子」という漢字は、小学校1年生で、「供」という漢字は、小学校6年生で、それぞれ習うことになっているので、「こども」と表記した方が当事者である子供にとって分かりやすいということだろう。
ただ、国会は、国の行政機関ではない以上、平成22年内閣訓令第1号に拘束されないので、国会が法律を制定する際に、「子供」ではなく、「こども」と表記することは許されるというのは分かるけれども、「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針について」(令和3年 12 月 21 日閣議決定)が「こども」と表記することは、「子供」と表記すべしと定めている平成22年内閣訓令第1号と矛盾しているのではないかという疑問が生じるかも知れない。
しかし、平成22年内閣訓令第1号は、「1及び2は,固有名詞を対象とするものではない。」・「専門用語又は特殊用語を書き表す場合など,特別な漢字使用等を必要 とする場合には,1及び2によらなくてもよい。」・「専門用語等で読みにくいと思われるような場合は,必要に応じて,振 り仮名を用いる等,適切な配慮をするものとする。」と定めているので、矛盾するものではないということなのだろう。
なお、私も字が下手なので、偉そうなことは言えないのだが、こども家庭庁の看板が下手くそなのは、複数の児童生徒が1字ずつ記した文字を、デジタル処理し組み合わせたからだそうだ。