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しのろ駅前医院

尿失禁に「ボツリヌス療法」 ぼうこうに内視鏡で注射 薬で治らない患者向け、劇的効果も

2023.05.16 22:01

2023年5月17日 05:00

 急に尿意をもよおしてトイレに間に合わない、尿が我慢できず漏らしてしまう―。尿失禁は年齢を問わず、なかなか人に言えない病気だ。原因として最も多い疾患、過活動ぼうこうの患者は国内に1千万人以上もいるとみられている。薬を服用しても良くならない患者向けに新たな治療法が保険適用された。「ボツリヌス療法」といい、劇的な効果を上げる人が多く、おしっこを心配しないで生活できる人も出ている。

 札幌市の70代半ばの女性は40代から、ふとしたはずみの尿漏れや頻尿に悩んでいた。60歳を過ぎて泌尿器科病院を受診し、薬を服用し改善したものの、今度は便秘や口の渇きといった副作用に悩まされるようになった。2020年4月に保険適用となったボツリヌス療法を受けたところ、症状は劇的に改善。「全くおしっこを心配しないで生活できるようになった」と喜んでいるという。

 尿失禁は、加齢や肥満、骨盤底筋の緩み、前立腺肥大症などに起因する過活動ぼうこうと、脳卒中や脊髄損傷を原因とする神経因性ぼうこうによって起こる。いずれも、我慢できないような強い尿意や、尿意と同時の失禁、頻尿の症状が出る。このうち昼間の頻尿は1日8回以上が症状の目安となる。

 北海道泌尿器科記念病院(札幌市東区)の飴田(あめだ)要院長によると、まず最初に水分の取り方や減量などの生活指導を行い、尿意を少し我慢するぼうこう訓練を行う。それでも良くならない場合は、ぼうこうを弛緩(しかん)させ、尿意の切迫感を抑える薬を投与する治療を行う。

 飴田院長は「大半の人は薬で改善するが、便秘や口の渇きといった副作用が出る人もいる。ボツリヌス療法はそういった患者や薬を飲んでも治らない人が対象」と話す。

 ボツリヌス療法はボツリヌス菌がつくる天然のタンパク質「ボツリヌストキシン」をぼうこう内に注入するものだ。ボツリヌストキシンが神経伝達物質をブロックすることで、過剰なぼうこうの筋肉の緊張を緩め、異常な収縮を抑える。

 実際の治療は患者に軽い麻酔をかけ、尿道から内視鏡を入れ、ぼうこう内に過活動ぼうこうなら20カ所、神経因性ぼうこうなら30カ所に注射する。治療は15分程度で終了、出血もほとんどなく、80歳を超える高齢者も受けられる。

 飴田院長は「効果は数日のうちに出て、半年から最長1年半続き、薬の服用も不要となる。効果がなくなったら再度、治療を受けることもできる。保険適用されたのがコロナ下となったため、治療法がまだよく知られていない。受けるのをちゅうちょしている人もおり、医師に気軽に相談してほしい」と語る。

 ただ、ぼうこう内の残尿が多い人や、全身性の筋力低下を起こす病気などの人は治療を受けられない。また、治療を受けたことで、まれに尿路感染や尿が出づらくなったり、残尿が増えるなどの副作用が出ることがある。

 ボツリヌス療法は、まぶたや顔面がけいれんする眼瞼(がんけん)けいれんや、首・手足の筋肉のこわばり、脇の多汗症、斜視など、さまざまな病気の治療に用いられている。(編集委員 荻野貴生)


北海道新聞よりシェアしました https://www.hokkaido-np.co.jp/article/846612/