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臍帯とカフェイン

螺巻き物語の螺を巻くな③(0:1:1)

2023.05.17 20:30

「ねじ巻き物語のねじを巻くな③」

璃猫:『左腕部 24%破損、えリクシルまギナ回収不可能です』

アビゲイル:う……うー……おも、い……のよ……ッ

彼は動かなくなり、

機械的な音声だけを吐き続ける。

璃猫:『右腕部 完全消失 反応無し えリクシルマギな回収不可能です』

アビゲイル:わかってる……っつーの!

璃猫:『下腹部より 先の 攻殻 および 肉体の反応 ありません』

アビゲイル:ぐーっ……んんん、重いなぁ、もう、ほんとに。

璃猫:『繰り返します』

アビゲイル:繰り返さなくていいーっ!!!

璃猫:『機械仕掛けの穹燕(スパーナ・スパナチュラ)の回収をしてください』

アビゲイル:しないってば。

璃猫:『胸部ハッチを開閉し 回収をしてください』

アビゲイル:しない。

璃猫:『回収をしてください』

アビゲイル:しつこいな!!しない!!!

アビゲイル:しないしないしないしない!

アビゲイル:バカだよ、あんたはホントにバカ!

アビゲイル:取れるわけないじゃん!

アビゲイル:どう見てもあんた、これ取ったら動かなくなっちゃうじゃん!

アビゲイル:なにも、なにも説明しないまま居なくなるなー!!!

璃猫:『メモリーバックアップ システムダウン』

アビゲイル:もう……

アビゲイル:なんなのよ、もう……

璃猫:『繰り返します』

アビゲイル:璃猫……どうしたらいいのよ……


~2年前~

アビゲイル:いったーーーーい!

璃猫:五月蝿い。騒ぎすぎだ。

アビゲイル:痛いもんは痛いんだもん!

璃猫:痛いのは見たらわかる、そこを説明する必要はない。

アビゲイル:説明じゃないの!

璃猫:ではなんだそれは。

アビゲイル:……感想?

璃猫:感想ならなおさら要らない。

アビゲイル:……優しくない。

璃猫:生命は守っている。それは優しさとも言える。璃猫は優しさがある。過言では無い。

アビゲイル:……優しくない!

璃猫:ならどうすればいい?契約上必要なことは実行している。

アビゲイル:……おんぶ。

璃猫:……おんぶ?

アビゲイル:……おんぶ、して。

璃猫:おんぶというのはなんだ。

アビゲイル:……おんぶが分からないの?

璃猫:わからない。なんだそれは。

アビゲイル:え、おんぶしたことないの?

璃猫:無い。

アビゲイル:え、ええ。されたことも無いの?

璃猫:無い。

アビゲイル:……そっか。

璃猫:何故悲しい顔をする?

アビゲイル:いや、だって、子供のころにあるものでしょう?

璃猫:……無い。

アビゲイル:私の家は、うーんと田舎の何もない所だったけど

アビゲイル:家族だけはおおかったから。

アビゲイル:私もおんぶされたし、私が弟たちをおんぶしたり……

アビゲイル:そう、家族を象徴するようなものだわ、おんぶって。

璃猫:……璃猫には、そもそも家族が居ない。

アビゲイル:え……?

瑠猫:物心ついた時から、璃猫は独りだ。こうして用心棒として働いていた。

璃猫:璃猫は強い。だから、そのおんぶというものをしたことも、されたこともない。

アビゲイル:……強くても、関係ないじゃない、そんなの。

璃猫:……? 強ければ、必要ないだろう?そんなもの。

アビゲイル:……そんなの、哀しいじゃん。

アビゲイル:悲しいし、寂しいよ、そんなの。

璃猫:……わからないな。

アビゲイル:……ねえ、やっぱりおんぶして。

璃猫:それは契約の範囲ではない。それに、どういうことをするんだ、そのおんぶってものは。

アビゲイル:あ、そ、そっか。そもそもどういう物なのかもわからないのか。

アビゲイル:貴方が、私の事をこう、背中に乗せて運ぶのよ。

璃猫:……密着するのか?

アビゲイル:……ま、まぁ、そうなるわね。

璃猫:密着するのなら、それはもうエンゲーコンだ。

アビゲイル:え、なに?えんげー…?

璃猫:エンゲーコン。つがいとしての契約が別途必要と言うことだ。

アビゲイル:つが……?何?よくわからないけど、いいわよ、してあげる。

璃猫:……正気か?

アビゲイル:なんでもいいわよ、おんぶして。それで、もしあなたが傷ついて動けなくなったらその時は私がおんぶしてあげる。

アビゲイル:その時に気づくわよ、きっと、家族っていいものなんだ、おんぶっていいものなんだーって。

璃猫:……承認した。契約は破棄できない。いいな?

アビゲイル:破棄しないわよ。

璃猫:二段階承認。では、背中に乗れ。

アビゲイル:やった、へへ。

アビゲイル、璃猫の背に身をゆだねる。

アビゲイル:へっへー、よし、出発進行!いざゆかん!機械仕掛けの街へー!

璃猫:わかっている。騒ぐな。

アビゲイル:璃猫、いつか私に感謝するときがくるわよ、ふっふー。

璃猫:……少し重いな。

アビゲイル:な!失礼な!絶対!私に感謝するときがくるんだからね!

璃猫:わかったわかった、同じ事を繰り返さなくていい。

アビゲイル:……あなた、もう少し砕けた話し方しなさいよ。

璃猫:しない。

アビゲイル:なんか距離あるじゃない。しなさいよ。

璃猫:しない。

アビゲイル:しなさいってば。

璃猫:しつこい。しないものはしない。これが璃猫の話し方。

璃猫:思えばアビィは言動が幼い。いわゆる阿呆の話し方だ。

璃猫:守るべき対象でもあるが、確かにこれはエンゲーコンをし、つがいにしないと

璃猫:アビィはすぐに説滅しそうだ。

アビゲイル:絶滅って、私は動物か何かかって……今アビィって呼んだ?

璃猫:……あたたかいんだな、人間というのは。

アビゲイル:……?

璃猫:胸が背中にあたっている。

アビゲイル:!? えっち!!


~現在~

璃猫:『メモリーバックアップ システムダウン』

アビゲイル:もう……

アビゲイル:なんなのよ、もう……

璃猫:『繰り返します』

アビゲイル:璃猫……どうしたらいいのよ……

アビゲイル:ねえ、璃猫、起きてよ……

アビゲイル:「機械仕掛けの穿燕」なんて、いらないよ。

アビゲイル:また、一緒に冒険しようよ。ねえ、璃猫。

アビゲイル:起きてよ……。