Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

臍帯とカフェイン

art school(1:1:0)

2023.05.18 13:38

こちらのシナリオは、▼なき様との合作シナリオです。

【あらすじ】

人が人を喰らいあい、迎えてしまった『終末』の中、僕とアトリはただ2人。

この、誰も居なくなってしまった世界で、ただ2人の人間になってしまった。

「これから、どうすれば良いんだろうね。」

アトリが、何も動くもののないビル群を眺めながら言う。

「さながらアダムとイブだね、これじゃ。」

屋上から見渡す夕焼けは、世界が終わっていようが関係無しに、等しく綺麗で。

すべてが終わってしまった。でも、僕達はここにいる。

君が、「さいごに」言った「あいしてる」は、

一体どんな意味だったんだろう。


【配役】

アトリ:女性がすきな女性

テイ:男性がすきな男性





アトリ:これから、どうすればいいんだろうね。


テイ:さながら、アダムとイヴだね。僕達。

テイ:見渡す限り、動くものすら見当たらない。

テイ:アトリ、そこのフェンス脆くなってるから寄りかかったら危ないよ。


アトリ:ありがとう

アトリ:つい、見入っちゃって。

アトリ:(少し周りを見渡しながら)

アトリ:皆この世界で暮らしてたんだって

アトリ:まだ、いるんじゃないかなって。


テイ:いるのかな。どうなんだろう。

テイ:でももう久しく銃声も、悲鳴も聞こえない。

テイ:本当に、この世界で僕ら二人なんじゃないかな。


アトリ:あの耳が焼けるような声が響いてた時は

アトリ:私たちまだ出会ってなかったんだね

アトリ:何十年も昔の話みたい。

アトリ:目まぐるしく、消えすぎた。

アトリ:二人かぁ。


テイ:消えすぎた……ね。本当に。

テイ:で、これからどうしよう……だっけ。

テイ:そうだな……アダムとイヴに習って、

テイ:子供でも作ってみる?なんてね。


アトリ:馬鹿言わないでよ

アトリ:できないって、わかってるでしょ


テイ:わかってるよ、言ってみただけ。

テイ:僕も、君じゃ『勃(た)たない。』


アトリ:でしょうね、お互い様

アトリ:(細く短いため息)

アトリ:…ねぇ、いたんでしょ?

アトリ:こうなる前にさ。


テイ:……居たよ。

テイ:僕よりもガタイがすごく良くてさ。

テイ:手を繋ぐと、野球のグローブに包まれたみたいで、うん、すごく。

テイ:好きだったんだ。

テイ:アトリも、居たんだろ?


アトリ:居たよ。

アトリ:近くにいると柔らかい香りがして、脆くて

アトリ:笑顔が…本当に可愛かった。

アトリ:まだ目に焼きついてるよ。


テイ:……でも、もう居ない。


アトリ:やめて。


テイ:……ごめん。


アトリ:……いいの。ごめん。

アトリ:その、おこるつもりはなかったの

アトリ:思い出して切なくなる自分に腹が立って


テイ:ううん、いいんだ。

テイ:無神経すぎた。

テイ:……なんで僕らが生き残ったんだろうね。


アトリ:私たちはアダムとイヴにはなれないのにね

アトリ:笑っちゃうよ。


テイ:ほんとに……ね。

テイ:意地悪だなあ、世界って。


アトリ:私ね、よく考えることがあるの

アトリ:どうして私は女に生まれたのか

アトリ:どうして女しか愛せないのかって。

アトリ:世界も、神も、意地悪だなあって。

アトリ:答えなんて、出ないんだけどさ。


テイ:僕も、思うよ。

テイ:でもさ、この姿だったから、

テイ:僕はあいつに好きになって貰えたんだ。

テイ:そう思うとさ、なんかこう、もどかしいんだよ。

テイ:別の姿では、きっと愛されない。

テイ:でもこの姿のままじゃ、愛が認められない。

テイ:難儀だなあって。


アトリ:そっ…か。

アトリ:…そんなに間違ってることなのかな。

アトリ:まぁ今となっては認める人も認めない人も、居ないわけだけど。


テイ:……ほんとだね。

テイ:でも、認める認めないも関係なくさ。

テイ:残されたのは、僕らというわけ。

テイ:笑っちゃうよね。

テイ:……これからどうするって話だったよね。

テイ:……僕の話をさ、ちょっとだけ聞いてもらえる?


アトリ:うん。


テイ:ある所にさ、一組のゲイのカップルが居たんだ。


アトリ:(合わせてなかった目線を初めて合わせ、真っ直ぐみる)


テイ:その一組のカップルはさ、付き合い初めた2年目の記念日にさ。

テイ:お互いの名前を彫った指輪を買いにいったんだよ。


アトリ:素敵。


テイ:お互いの名前を彫るよりもさ、お互いのイニシャルを合わせたものを彫りたいとか。

テイ:指輪はゴールドよりもシルバーが良いとかさ、言い合いながら。


アトリ:微笑ましい…言い合い…だね。


テイ:でもさ、あの日。

テイ:噛まれたのは、背の高い男の方でさ。

テイ:みるみるウチに、様子がおかしくなる彼を見てさ。


アトリ:それ…


テイ:……あんだけ、愛してるって、言葉を囁きあったりさ。

テイ:お互いの肌の温度を確かめあったり、したのに。


アトリ:…この世界が、憎い?


テイ:……どうなんだろうね。

テイ:よくわかんないんだ。

テイ:あの日からずっと、ずっと、頭にモヤが掛かったみたいでさ。

テイ:だって、あんなに愛してるって思ってたのに、僕、彼を置いて逃げたんだ。


アトリ:逃げた、のかな。

アトリ:本当に愛してるから、なんじゃないのかな。

アトリ:一緒に過ごした場所とか、交わした言葉とか、感じた体温とか。

アトリ:死んじゃったらさ。何もなくなるんじゃないかな。

アトリ:守りたかったんだと思う。


テイ:守り……たかった……。


アトリ:うん、きっとね。

アトリ:なんて、最後に会えもしなかった私がいうのもなんだけど。


テイ:……アトリは、どうだったの?


アトリ:…いつも、太陽みたいに笑う彼女が泣きながら電話してきたよ。

アトリ:自分の親や、妹もいるのに。…私にさ。


テイ:……うん。


アトリ:電話の内容が、どんなのだったか、わかる…?


テイ:……聞かせて。


アトリ:…あなたの作るオムライスはどんな

アトリ:お店よりも美味しかった

アトリ:疲れて帰ってもあなたがいればそんな疲れなんて吹っ飛ぶの

アトリ:あなたの笑顔や紡ぐ言葉に救われていた

アトリ:たまに落ち込みすぎるところは悪いところだから、そんな時はこの言葉を思い出してね

アトリ:元気の源は、愛からよ

アトリ:愛しているわ。

アトリ:そこで、電話は切れた。


テイ:……。

テイ:(何かを伝えたいが。言葉が出ない。)


アトリ:私だって…ずっと、ずっと彼女に対して思っていたことを伝えたかった。

アトリ:伝えられずに…伝え…られずに…。

アトリ:一方的にいうんだから…いっつも。

アトリ:愛って何…?なんなのよ。

アトリ:こんな世界になったって!彼女がいない世界なんて!

アトリ:生きてる価値なんて見出せないじゃない!!


テイ:……アトリ。


アトリ:会いたい…あいたいよ…。

アトリ:私だって、守りたい…でも…胸が苦しくて

アトリ:…生きていることすら吐き気がするの。


テイ:……うん。……うん。


アトリ:人間が、世界が、邪魔をしてたはずなの

アトリ:はずなのに…。


テイ:うん……。

テイ:(アトリを、じっと見つめ涙ぐむ)

テイ:ねえ、アトリ……。

アトリ:……。

テイ:……ダニーボーイって曲、知ってる……?


アトリ:…ううん、知らない。


テイ:……僕も、受け売りなんだけどね。

テイ:アイルランドの民謡……なんだって。


アトリ:どんな…歌なの?


テイ:旅立つ息子をね、お母さんが悲しみを隠しながら、優しく見送って……。

テイ:帰ってこない息子を、季節の移り変わりと共に、待つ歌なんだって。


アトリ:…っ


テイ:……僕さ、最初はよくわからなかったんだ。


アトリ:うん…


テイ:でもさ、もう音楽プレイヤーも使えないこの終わった世界に、立った時にさ。


アトリ:……。


テイ:何度も何度も、頭の中で聞こえるんだよ。

テイ:おお、ダニーボーイって。

テイ:それでさ、なんか、思ったんだ。


アトリ:うん


テイ:目に見えなくても、遠く離れてても、

テイ:愛っていうのはいつもそこに、あって。

テイ:誰かを思う度にそれは膨らんで。

テイ:でもそれは、自分の中だけで育つものじゃなくて。

テイ:きっと、誰かからそっと受け取ったものなんだ。

テイ:……アトリが、彼女さんから、受け取ったみたいに。


アトリ:テイも…受け取っていたの?


テイ:……そうなのかもしれない。

テイ:それにさ、思うんだよ、アトリ。

テイ:『彼女が居なくなった世界』じゃないんだよ、ここは。


アトリ:どういうこと…?


テイ:彼女が『居た』世界、なんじゃ、ないかな。

テイ:だって、僕も、アトリも、こうして生きてる。

テイ:『一緒に過ごした場所とか、交わした言葉とか、感じた体温とか。』

テイ:『死んじゃったらさ。』

テイ:『何もなくなる。』

テイ:でもさ、僕らが生きてたら、世界はさ『彼らや』『彼女たちが』『居なくなってしまった世界』なんじゃなくて。

テイ:……『居た』世界、なんだよ、って思うんだ。

テイ:……誰かさんの、受け売り、なんだけどさ。


アトリ:そっか、そうだよ…ね。

アトリ:ねぇ、テイ。


テイ:……うん、なに?アトリ。


アトリ:少し、少しだけ、後ろ向いてて。


テイ:……いいよ。

テイ:(アトリに背中を見せる。)


アトリ:…うっ…うう……うううぅ…

アトリ:(声を抑え嗚咽しながら)


テイ:……こんな風になっても、夕陽は、変わらず綺麗なんだね。

テイ:(音もなく、一筋涙が零れる)


アトリ:…うん

アトリ:(間)

アトリ:私、さ。

アトリ:今不思議な気持ちなの。


テイ:聞かせて。アトリ。


アトリ:人を、世界を、ずっと憎んでた

アトリ:彼女の言葉しか受け取れなかったの。

アトリ:だから、きっと、彼女しか愛せなかったんだと思う。

アトリ:でも、なんでだろう、テイ

アトリ:あなたの言葉も私の体に溶け込んでくる

アトリ:ありえないと思っていたことが今、起こってるの。

アトリ:世界が変わったから私も変わったのかな。


テイ:……世界の終わりのパートナーが、アトリでよかった。

テイ:夕陽は変わらず綺麗だけど、きっと僕らはこれから沢山変わっていく。

テイ:でもこの気持ちだけは変わらないよ、アトリ。

テイ:最後のパートナーが、君でよかった。

テイ:……子供でも作ってみる?

テイ:……なんてね。


アトリ:ふふっ、バカ。

アトリ:そっか…

アトリ:私も、あなたがパートナーで、よかった。

アトリ:ありがとう、テイ、あいしてるよ。