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更夜飯店

間宮兄弟

2018.06.15 11:14

間宮兄弟

2006年5月23日 恵比寿ガーデンシネマにて

(2006年:日本:119分:監督 森田芳光)

昔は大人になったら、結婚しなければ一人前ではない、結婚したら子供がいなければ一人前ではない・・・なんていうのが当たり前でした。

今だったら、結婚&子供セットで一人前なんて下手すればセクハラです。

でも私はそういうのが「当たり前」で過ごしてきたのと、やはり10代20代くらいは恋人が欲しい、または結婚したい・・・なんて事を思ったりもしましたが、今はどうかというと・・・・・性別・年齢を問わず同じ価値観、同じ趣味、同じ感覚のお互いを尊重しあえる友達が欲しい、それが願望です。

むしろ、何故、恋人がいなくては「変」なのだろう・・・と思います。

この映画の間宮兄弟は30歳すぎても同居している仲の良い兄弟。

2人で同じ趣味を持ち、喜怒哀楽を共にしてもストレスのない関係を築ける2人兄弟。兄弟姉妹ってまぁ、年とれば環境が変わってそうそうべたべた仲良くも出来ないのかもしれないけれど、この間宮兄弟には、お互いを尊重しあえるという貴重な信頼関係があります。

それが、もう、ファンタジーなんです。

江國香織の原作にとても忠実なのですが、この間宮兄弟が持つ尊重しながらも、干渉しない・・・という兄弟の間にちょっと風が吹いているような透明感ある雰囲気が映画にも出ていました。

間宮兄弟は、楽しみを知っているけれど、では、子供かというとちゃんとした社会人の常識を持っている。兄はビール会社の研究員(原作では日本酒の会社)、弟は小学校の校務員。それぞれの仕事をきちんとした上での節度を守った生活の上に兄弟の趣味の世界がある、というのがいいですね。

兄弟は、野球をテレビでスコアをつけながら、観戦し、ひいきのチームが勝つと手製の紙吹雪をまいて喜ぶ。そしてそのあと、2人で部屋の掃除をするという所で、節度というものがわかっている、と思うわけです。

野球を見ている風景は無邪気(それはDVDを観る時や、趣味を語る時も同じ)なのですが、大人の節度を常に持っている。

それが気持いいと思うのです。子供は無邪気=無邪気だから子供ではないのですね。

(本当に私はいい歳した大人が子供になりたがって、おこちゃま、オトナコドモ、夢見る少年とか自称して悦にいっているのがキライです)

本がずらりと並んだ部屋、コレクションの数々、たくさんのゲーム(それが、人生ゲームやモノポリーといったゲーム)・・・でも兄弟は全く女性には興味ないかというと、そんな事はなく、弟は小学校の先生、葛原依子先生(常磐貴子)を兄に紹介しようと思い、また、2人で行くレンタル・ビデオ屋のかわいい店員さん(沢尻エリカ)にも好意をよせていてお近づきになりたいと、思っている。

そこで、皆を招いてカレー・パーティをしようじゃないか・・・と言うことから小さなさざなみが兄弟の生活に起きる。そんな顛末を描いた映画で、大事件が起こる訳でなく、大恋愛がある訳でなく、誰が死ぬ訳でもない、ささやかなさざなみの数々を細やかな描写で綴った映画。

森田芳光監督は『の・ようなもの』という映画で監督デビューしてその細やかな微笑ましさが好きでした。そして『家族ゲーム』『ときめきに死す』『ハル』など、雰囲気のある独特の世界を持っているなぁ、と思っていたのですが、ここ数年は、森田監督だから観に行くというより、「あ、この映画、森田監督だったの?」と気づくという事の方が多かったのですが、この映画は初期の頃の森田監督の雰囲気がより、一層洗練されて映画になっていました。

不思議な、個性的な人物という点では、葛原依子先生を演じた常磐貴子の前のめりみたいな歩き方とか、兄弟の母、中島みゆきのケロケロぶりとか、兄の同僚でやたら大声の体育会系の社員、高嶋政宏とか・・・おもしろい描き方の積み重ねです。

兄弟には、金も名誉も恋人(ふられることが多い兄弟)ないけれど豊かな生活を知っている。

沢尻エリカちゃんは実はボーイフレンドがいるのだけれど、このつきあいのむなしさをさりげなく描いて、でもやっぱり若い内はこんなものかな・・・って思わせる所が大人の映画ですね。本当の豊かさに気づくにはそれなりの時間が必要なんですってわかる映画。