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石川県人 心の旅 by 石田寛人

七尾と小松の歌舞伎名場面

2023.05.25 15:00

 ゴールデンウイーク中の5月5日に発生した能登地震は、生命を失われた方が一人、怪我をされた方もあり、多くの被害が生じた。揺れはその後も、断続的に続いたが、亡くなられた方のご冥福をお祈りし、負傷された方々の速やかなる回復と多くの方々の生活が早く元に戻ることをひたすら祈念している。

 さて、「石川県人会の絆」今年の1月号で、日本経済新聞掲載の「見たい歌舞伎の演目」10演目について書いたが、今月、歌舞伎や歴史上の名場面が、七尾と小松の祭礼で、地震に揺れつつも、コロナ明けを祝うように披露された。

 まず、七尾の青柏祭では、巨大な3基のデカ山に飾られた3体ずつの大きな人形が、今年も歌舞伎や歴史上の名場面を再現した。実は私は、青柏祭は報道で知るのみで、見たことがない。青柏祭の開催時期が、私の地元小松市のお旅祭りと重なるためである。その後青柏祭の開催期間が、黄金週間中になったが、この時期も小松では「日本こども歌舞伎まつりin小松」が開催される。とは言え、青柏祭での人形宿での人形見は5月2日と決められているようだから、来年以降、機会を作って、見に行きたいと思っている。

 今年のデカ山人形は、鍛治町は「国盗り物語・稲葉山城の場」で、斎藤道三・織田信長・濃姫。府中町が「独眼竜政宗・小田原参陣」、で伊達政宗・豊臣秀吉・愛姫。魚町が「岡崎城入場」で松平元康(徳川家康)・石川数正・酒井忠次。いずれもNHK大河ドラマ関連だが、大河ドラマも歌舞伎と同様の役割を担うように思われる。昨年は、「上杉謙信七尾城入城(九月十三夜)」の他は、「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)・床下の場」「河連法眼館(かわつらほうげんやかた)の場」と歌舞伎の名場面が登場した。

 同じ時期に小松市では、第24回目の「こども歌舞伎まつり」で、①東京の日本伝統芸能振興会伝創館こども歌舞伎による「伽羅先代萩・足利家奥御殿の場」②前橋市の美登利会による「雨の五郎」と「手習子」。③小松市の実行委員会による「歌舞伎十八番の内勧進帳」が上演された。格別の舞台として、片岡千之助丈が歌舞伎舞踊「道成寺」を踊られた。①は伊達騒動を芝居化したもの。幼い殿様の乳母政岡の忠義が見もので、昨年の七尾の場面の直前の一幕である。②は典型的は歌舞伎舞踊で、前者の「五郎」とは、仇討ちで有名な曽我五郎時致のことだ。③の「勧進帳」は「歌舞伎まつり」の初回から小松市が継続上演している演目。今回は、劇場が去年「石川県小松市團十郎芸術劇場うらら」と改称し、第13代目市川團十郎白猿丈の襲名の地方公演の皮切りの舞台となったので、格別の雰囲気が感じられた。

 さらに5月12日13日14日の小松お旅祭りでは、大文字町が「鬼一法眼三略巻(きいちほうげん・さんりゃくのまき)・菊畑の場」、京町が「義経千本桜・河連法眼館の場」を上演した。いずれも義経もので、前者は、牛若丸が兵法書虎の巻を入手しようとする苦心譚で恋模様も絡み、後者は、義経の兄頼朝と不和となった後の流離譚である。こちらの方は、「初音の鼓」の皮になった狐の子が、親を慕って義経の家臣佐藤忠信に化け、その鼓を持つ静御前を守護しつつ河連法眼館に現れて、そこに匿われる義経を助ける筋で、昨年の七尾の場面と同じである。全体としての「義経千本桜」は、日経新聞の「見たい10演目」の筆頭に揚げられており、小松市民が愛好してやまない「勧進帳」は、その3番目であった。

 こうしてみると、七尾の「静」と小松の「動」の相違はあるが、実に多彩な歌舞伎演目や歴史場面が我々の身近にあり、歴史を舞台にかける先人の苦心の跡をたどることができる。我が国の伝統芸能の奥深さに改めて感じ入っている。(2023年5月18日記)