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臍帯とカフェイン

リューネシアサーガ戯曲 「THE LAST SONG」美学怪盗

2023.05.26 12:00

※前編と後編が、そのまま掲載されています。


イラスト:香澄 様



▼のべるぶホームページにて、せしぼん様にシナリオ解剖していただきました。

是非ご覧下さい。


【配役】(3:1:1)モブキャラは兼役推奨

オプラティム:男性 細かい事が気になるノベルニアテアトルの俳優

ビゴー:男性 自信過剰なノベルニアテアトルの俳優

語り部アルパカ:性別不問 口上とつばを吐くのが得意

シーユー:女性 美学怪盗 シーユー・アンドルフィン

「十日」:男性 十日と書いてテンペストと読む。記憶が無い。


  場面転換◆大劇団ノベルニアテアトル 控室


オプラティム:「この身砕けちろうとも、我が心に嘘偽りはない!」

ビゴー:ぜーんぜんだめ。

オプラティム:んー・・・。

ビゴー:ほら、お前もなんか言ってやれ。

語り部アルパカ:ぜんぜん出来てメェ~

オプラティム:お前語り部アルパカに変な言葉教えるなよ。

ビゴー:全然出来てメェ~

オプラティム:……「この身砕け散ろうとも!」

ビゴー:いや、全然だめだろ、何そのセリフ読み。

オプラティム:しっくり来ないんだよなあ。

語り部アルパカ:しっくり来ないんだよメェ~

オプラティム:真似しなくていい。

ビゴー:お前そんなんじゃすぐ降ろされちゃうぞ、主役。

オプラティム:うーん……。

オプラティム:なあ、このセリフってさあ。

ビゴー:んー?

語り部アルパカ:メェー?

オプラティム:本当に、リューネシアの王様の最期のセリフ?

ビゴー:台本にはなんて書いてある?

オプラティム:……そう書いてある。

ビゴー:だよな?

語り部アルパカ:だよメ?

オプラティム:いや、そうなんだけどさあ。

ビゴー:あのリューネシア史上最悪の堕落騎士「ドル・ゴルドー」の事件を知ってるだろ?

オプラティム:そりゃもちろん。教科書にも載ってるくらいだ。

ビゴー:はい、暗幕があがる。

オプラティム:おっ、えっ?

ビゴー:場面は第三幕、ラストシーン、死体の山を乗り越え城門を闊歩する。

オプラティム:う、うん。

ビゴー:狙いはもちろん、城の王。そして、時の姫。

オプラティム:うん……。

ビゴー:王の首にゴルドーの刃が!!!

オプラティム:こ、「この身砕けちろうとも、我が心に嘘偽りはない!」

ビゴー:ほーら。教科書通りのリューネシア史。こんだけ手垢のついた台本も無いだろ。なー?アルパカ?

語り部アルパカ:メェー。

オプラティム:……。

ビゴー:……おいおいおいおい、しっかりしろよ、本当。

オプラティム:なんかごめん。

ビゴー:お前が今回の主役、国のために散った王様なんだろ?

ビゴー:何をそんなに悩む必要があるんだよ?なー?アルパカ?

語り部アルパカ:メェー。

オプラティム:わかってる、わかってるよ? こんなの大抜擢。頑張らない他はない、わかってるんだけど……。

ビゴー:じゃあ何をそんな燻ぶってんだよ。

オプラティム:……違う気がするんだよ。

ビゴー:……はー?

オプラティム:違う気がするんだよ、何度この王様に同化しても、考えても、降ろしてみても、全然しっくりこない。

ビゴー:おいおいおい、天才役者さんは違いますなー、言うことが。

語り部アルパカ:エルトン(天才)気どり!エルトン(天才)気どり!メェー!

ビゴー:お、言うじゃんお前ー。

オプラティム:うーん。

ビゴー:……緊張してんの?

オプラティム:それも、ある、かもなんだけど。

ビゴー:わかる、わかるよオプラティム。大劇団ノベルニアテアトルに入団して早6年。

ビゴー:中々目が出ず、飲んだくれた日もあった。

ビゴー:だが、今回の「リューネシアサーガ」でまさかの主役に大抜擢だ!

ビゴー:悩むよな?わかる、わかるよ、だがそんなもの気にすることは無い!

ビゴー:さあ!語り部アルパカ!こんな時は口上だ!

語り部アルパカ:メエ!!!

語り部アルパカ:さあさあ!お立合いお立合い!

語り部アルパカ:時代は遥か昔、このリ・ネシアはリューネシアと呼ばれていた!

語り部アルパカ:絶世の美女、時の姫!叡智の剣王、リューネシア王!

語り部アルパカ:そして「ゴルドーを疑われた」堕落騎士ゴルドーの悲惨な崩落劇!

語り部アルパカ:そんじょそこらの劇だと思ったら大間違い、

語り部アルパカ:なんと大劇団ノベルニアテアトルの演目だって話だ!

語り部アルパカ:さあさあ!お立合い!「リューネシアサーガ」まもなく開場!

語り部アルパカ:ぺっっっ!!!!(唾を吐き出す)

ビゴー:うわっ!!!!!顔にかかったラッキー!!!!!

オプラティム:……なーんか、しっくりこないんだよなあ。


  場面転換◆時同じくして、とある寂れた酒場 「瓶の割れた床」亭


シーユー:ねえ、貴方にはある?生きていく上での、美学ってやつ。

「十日」:……なんだ、あんた。

シーユー:なんだとはピルミス酒を濾(こ)したような事言うのね。

シーユー:……どこ見てるの?

「十日」:……こんな寂れた酒場には「不釣り合い」な腕章だな。

シーユー:あら、これが気になる?私はね、陽光の国《ユクト》から貴方たちと友達になりにきたのよ。

シーユー:そう、友達に、ね。

「十日」:……友達、ねえ。異国人の考える事はわからねえわ。

シーユー:あら、ねえ、貴方が飲んでいるその飲み物は何?

「十日」:これか?ルッソベリーの紅茶だ。知らないのか?

シーユー:へー!これがルッソベリーの!

シーユー:ふーん……これが、ルッソベリーね。

シーユー:(十日の紅茶を奪い、飲み干す)

「十日」:あっ、お前

シーユー:へえ。思いのほか甘いのね。

「十日」:お前は「甘かない宙づり猿」みたいだけどな。

シーユー:何それ、誉め言葉?

「十日」:リューネシア諺だよ、しらねぇのか。インテリそうな顔して。

シーユー:……ねえ、例えばなんだけど。

「十日」:なんだ。もう紅茶は奢ってやったぞ、他を当たったらどうだ?

シーユー:貴方は紅茶には砂糖入れる?

「十日」:……は?

シーユー:私はね、甘くするなら砂糖じゃなくて蜂蜜じゃないと駄目なの。

「十日」:蜂蜜?

シーユー:そう、それが私の美学だから。

「十日」:その、髪をくるくると弄ぶのは癖か?

シーユー:この国にも、あるでしょう?沢山の美学が。

「十日」:……何言ってるんだ?お前

シーユー:それこそ、魔導士にも、あなた達のような騎士にも。

シーユー:でも、ねえ、不思議なものよね。

「十日」:……なにがだ。

シーユー:やっぱり、灯台と同じなのかしら。

「十日」:耳ついてるか?おい

シーユー:ほら、自分の足元は照らせないじゃない?

「十日」:全然なんの話なのか要領を得な(いな、姉ちゃん)むぐ!!!

シーユー:(十日の口を勢いよくふさぐ)

シーユー:貴方の記憶を見せなさい、「十日(テンペスト)」

シーユー:私は、美学怪盗。

シーユー:あなた達の国、最大の禁忌。

シーユー:ゴルドーの秘密を。

シーユー:いいえ。

シーユー:ゴルドーの「美学」を盗みにきたの、私。


  タイトルコール

  ◆◆◆リューネシアサーガ戯曲「The last song」


  場面転換◆5か月後 劇場 ノベルニアテアトル


語り部アルパカ:終演~!終演~!

語り部アルパカ:本日の演目はすべて終演~!

語り部アルパカ:かーーーーーーっ!!ぺ!!!!!!!

客A:きゃ!顔にかかっちゃった!

客B:えー!いいなあ!絶対いいことあるじゃん

客A:でもくさーい

語り部アルパカ:終演~!


オプラティム:……ふう。

ビゴー:おいおいおい、浮かない顔してどうした主役様よぉ!

オプラティム:ああ、ビゴーか……お疲れ様。ゴルドー役大変だったでしょ。

ビゴー:まあなー、でもこの天才ビゴー様にかかれば余裕よ。

オプラティム:うん……。

ビゴー:まーた考えてんのか?

オプラティム:うん……。

ビゴー:一体何が不満なんだよ? 俺程じゃないが、お前だってわりかし良い王様だったぞ。

オプラティム:うん……。

ビゴー:最後の剣戟のシーンなんて、いやー、ゴルドーとして最高の悪役を演じられた!

ビゴー:お前も熱いバトルを繰り広げた!みたかよ、観客のあの顔!

ビゴー:はー!まだ胸がどくどく興奮してる、ほら、聞いてみる?

オプラティム:うん……。

ビゴー:……オプラティム。

オプラティム:うん……。

ビゴー:オプラティーム。

オプラティム:うん……。

ビゴー:ジャマナウォッシュのあべこべザンザール。

オプラティム:うん……。

ビゴー:ばーか。

オプラティム:なんでそんな酷いこと言うの?

ビゴー:聞こえてんじゃねえか。

オプラティム:ごめん、上の空だったかも。

ビゴー:……まだ気にしてんの?セリフの事。

オプラティム:……。

ビゴー:もうさー、劇は始まっちゃったんだぜ?

ビゴー:お前の違和感の事はよくわからないけどさ、それでもちゃんといい演技だったぜ?

オプラティム:ジャマナウォッシュのあべこべザンザールってなに?

ビゴー:絶対今じゃないだろ。

オプラティム:気になったらもうだめなんだよ、その事で頭がいっぱいになっちゃう。

オプラティム:何?あべこべザンザール?

ビゴー:そんなもん適当だよ適当!!!

オプラティム:あ、適当なのか……納得……。

ビゴー:……お前そうやって、一つでも気になる事があるとずーっとうじうじ考えるわけ?

オプラティム:仕方ないだろ、そういう性分なんだから。

ビゴー:本当損な性格だよな、まあ、それだけのめり込むからこその主役なんだろうけど。

オプラティム:……だってさ。

ビゴー:なに?

オプラティム:なんで城の兵士を皆殺しにしたの?

ビゴー:は? なんの質問?それ。

オプラティム:なんで?

ビゴー:教科書見直してこいよ。

オプラティム:見直したよ、リ・ネシア国建国の歴史58ページ、堕落騎士ゴルドーの反逆。

オプラティム:長命画家エルトン・エーカーの代表作、「孤軍の叫び」の絵画と共に説明がされてる。

ビゴー:そりゃそうだ。もちろん、書かれているのは……

オプラティム:書かれているのは、悪に心を売ったゴルドーが、自身の力を誇示するために

オプラティム:わざと城の兵士を皆殺しにした。

ビゴー:だよな? ほら、今回の劇も同じ。そうだろ? ゴルドーの残虐性をしっかりと表現したいいシーンになってたじゃないか。

オプラティム:じゃあ、なんでタイトルが「孤軍の叫び」なんだ。

ビゴー:あ?

オプラティム:……変なんだよ、なんか。

ビゴー:なんで?

オプラティム:この「孤軍」って何を指してるの?



  場面転換◆リ・ネシア国 裏通り

十日:「ゴルドーを疑って 在りし日すらも信じよう」

十日:「死体の山は 忽然と たがった運命 呼び鈴パイ」

十日:「ネズミの王が 隠してる」

シーユー:物騒な歌ね。その歌、なんの歌なの?

「十日」:知らない。何なんだろうな。

シーユー:知らないって何よ?知らない歌が歌えるわけ?

「十日」:何故だか耳に残るという事はあるだろう?

シーユー:じゃあ、その歌誰が歌ってたのよ?

「十日」:……知らない、誰なんだろうな。

シーユー:話にならない。

「十日」:そう言うな、シーユー。

シーユー:頼りの相棒の記憶は一向に戻らない。

シーユー:覚えてるのは?

「十日」:見知らぬ死体の山。

シーユー:それと?

「十日」:人間のもも肉は案外美味しかった。

シーユー:それで、ついたあだ名が?

「十日」:十日で死体を食いつくした、暴風雨みたいな男で

シーユー:「テンペスト」。

「十日」:それ以外は覚えてない。

シーユー:はあ。つかえない食人鬼を拾ってしまった、シーユーちゃん大ピンチ、ってわけね。

「十日」:仕方ないだろう、私は物語の主役にはなれない。そう簡単に記憶が戻ってたまるか。

シーユー:あんたね、その口癖いい加減やめたほうがいいわよ。

「十日」:……すまん。

シーユー:主役になれない人間なんてごまんといるのよ。

シーユー:そのセリフがあなたから出る度に、私は思うわけ。

シーユー:ああ、あなたは本当は主役になりたかったんだな、と。

「十日」:そういうわけじゃない。

シーユー:そういうネガティブ嫌いなの、私の美学に反する。

「十日」:悪かったよ。直すようにする。

シーユー:そういったの何回目か覚えてる?

「十日」:覚えてない。

シーユー:はーあ、まったく困ったもんだわ。

「十日」:……それで、シーユー。

シーユー:うん?

「十日」:本当に、やるのか?

シーユー:当たり前でしょ。その為にわざわざこんな寂れた美術館に来たんだから。

「十日」:……しかしなあ。

シーユー:何?いまさら怖気づいてるの?

「十日」:俺は、盗みなんてしたことない。

シーユー:つまらない男。

「十日」:……昔はしてたかもしれない。

シーユー:はいはい、そういうのは思い出してから言ってくれる?

「十日」:……本当に盗めるのか? 寂れたとは言え、この美術館の警備は厳重だぞ。

シーユー:なんて事ないよ。私が誰だか忘れたの?

「十日」:「美学怪盗」

シーユー:なに?聞こえない

「十日」:……「美学怪盗」様

シーユー:……ふっふーん。

「十日」:シーユー、顔がにやけてる。

シーユー:当たり前でしょう、十日。

シーユー:奪うよ、この国の秘密。

シーユー:エルトン・エーカーの名画、「孤軍の叫び」を。




【配役】(3:1:1)モブキャラは兼役推奨

オプラティム:男性 細かい事が気になるノベルニアテアトルの俳優

ビゴー:男性 自信過剰なノベルニアテアトルの俳優

語り部アルパカ:性別不問 口上とつばを吐くのが得意

シーユー:女性 美学怪盗 シーユー・アンドルフィン

「十日」:男性 十日と書いてテンペストと読む。記憶が無い。


(オプラティムとビゴーの兼役も可能)

エルトン:女性 エルトン・エーカー

ゴルドー:男性 ドル・ゴルドー


  場面転換◆美術館 展示「孤軍の叫び」 前

警備員:あいつらだ!ひっ捕らえろ!

ビゴー:はあッはあッ!!!お、オプラティム!!早く走れ!!!

オプラティム:わ、わかってるよ!!!で、でも!これ以上は!む、無理!!

「十日」:ちぃ……ッ!!!何が!!美学「怪盗」だ!!シーユー!!!

「十日」:そんな!堂々と!!盗むやつがあるかッッ!!!

シーユー:う、うるさい!!!無駄口叩いてないでッ!!早く走りなさいよッ!!!

ビゴー:な、なんでッ!!俺たちもッ!!逃げなきゃいけないんだ!!!

シーユー:仕方ないでしょ!!!大人しく!!巻き込まれなさいよっ!!はあ!!はあ!!

警備員:まて!!!!逃がすな!逃がすなーーーー!!!

「十日」:ほんっとうに……馬鹿野郎だお前は!!!

シーユー:こそこそやるなんて!!私の美学に反するのよ!!!!

オプラティム:こ、こっち!みんなこっち!こっちに抜け道ある!!!

ビゴー:急げーーーー!


語り部アルパカ:号外!号外ぃー!

語り部アルパカ:リューネシアの秘宝、エルトン・エーカー至極の一品!

語り部アルパカ:「孤軍の叫び」が4人組に盗まれた!

語り部アルパカ:現場には「美学怪盗参上」と書かれたカードありぃ!

語り部アルパカ:白昼の堂々たる窃盗!犯人は「美学怪盗」!

語り部アルパカ:警備の隙をつき!堂々とただ持ち去った!!!

語り部アルパカ:号外!号外ぃー!

語り部アルパカ:んべぇーーーーー!!!

客A:きゃっ!!一番特大のつばがかかった!

客B:こいつぁすごい!きっと飛んでもない幸運が飛んでくるぞ!!

語り部アルパカ:号外!号外ぃー!


  場面転換◆どこかの裏路地


オプラティム:ぜえ・・・ぜえ・・・。

シーユー:・・・はあ・・・はあ・・・あんた、やるじゃない。

オプラティム:撒けた・・・みたいだ・・・

「十日」:シーユー!!!なんなんだあのやり方は!

シーユー:あ、あれが私の美学なんだから仕方ないでしょ!

ビゴー:もうむり、走れない

「十日」:美学美学って、この美学馬鹿!

シーユー:美学馬鹿とは何よこの記憶馬鹿!

「十日」:記憶馬鹿は酷いだろ!

オプラティム:ちょ、ちょっと落ち着いて

ビゴー:・・・なあ、ティム。オプラティム。

オプラティム:なに?ビゴー。

ビゴー:・・・あの男の背中にあるのって・・・。

二人、「十日」の背に預けられた絵画を見る。

オプラティム:・・・・・これって!?「孤軍の叫び」じゃないか!!!

シーユー:ん!流石知っているね!そう、これはあのエルトン・エーカーの名画「孤軍の叫び」。

オプラティム:なななな、なんでここにあるの!

ビゴー:ティム。これが原因で、俺らも追いかけられてたんだよ・・・。

オプラティム:・・・共犯扱いってこと?

「十日」:間違いなくそうだな。

シーユー:仕方ないじゃない、逃走経路に貴方たちが居たんだから。

「十日」:ただ逃げた道の事を逃走経路とは言わない。

シーユー:いうでしょ、逃走した経路なんだから。

ビゴー:巻き込まれたんだよ、完全に。最悪だ。

オプラティム:……最悪かな?

ビゴー:ティム?

オプラティム:ねえ、これ、本物なんですよね。

シーユー:当然、間違いなく、正真正銘本物の「孤軍の叫び」よ。

「十日」:逆に、よくあんな正々堂々盗ってこれたな……。

シーユー:木を隠すなら森、気配を隠すなら堂々と、って言うじゃない。

「十日」:聞いたことないぞ……。

ビゴー:……おいおい、ティム、やめてくれよ?

オプラティム:すごい!!こんなに間近で見れる何てこと今まであったかい?!

オプラティム:あ、あの!!すいません!ちょっと僕にも近くで見せてもらえませんか!?

ビゴー:始まった……興味が沸いたら一直線……。

シーユー:仕方ないわね、巻き込んでしまったのも事実。

シーユー:はい、どうぞ。(オプラティムに絵画を渡す)

オプラティム:わ、わあ!すごい、絵具の一つ一つがきめ細かい……。

シーユー:そう。普通こういった油絵と呼ばれるものは、間近で見るものではない。

オプラティム:そうですよね、本来なら数歩離れた距離で本来の「見せたい形」っていうのが出てくる。

オプラティム:でもこの絵は、近くで見れば見るほど、本当にそこに人物が居るみたいに

オプラティム:建物がそこにあるように……「はっきりと」見えてくる……!

シーユー:そう!その通り!この絵の神髄は、あんな展示場では発揮されないんだ!

シーユー:こうして、手に取り、まじまじと見てはじめて絵の真実が見える!それがエルトン・エーカーの美学!!!

オプラティム:こ、これが!天才の美学……!!!

「十日」:……お前も苦労してそうだな。

ビゴー:……お互いに、ね。

オプラティム:(絵画をまじまじと見つめ)……これが、ゴルドーの裏切りの場面。

シーユー:……あなた、本当にそう思う?

「十日」:シーユー。(制止するように)

シーユー:止めないで、「十日」。ねえ、あなた名前は?

オプラティム:僕ですか?

シーユー:そう。そして貴方も。(ビゴーを指し)

オプラティム:僕は、ノベルニアテアトルで俳優をしてます。オプラティム。

ビゴー:右に同じ。ビゴーだ。

シーユー:……ノベルニアテアトルってあの、街の中央にある大きな劇団?

オプラティム:そうそう、そうです。

「十日」:この街の花形というところだな。丁度今、「リューネシア」の歴史を舞台にした話をやっているんだろう?

シーユー:……「美学」ね。

「十日」:何?

シーユー:見えたのよ。「美学」だわ。この出会いは。

「十日」:美学馬鹿……。

シーユー:なんとでも言って、「十日」。

シーユー:ねえ、オプラティム。あなた、あの美術館には何故来たの?

オプラティム:それは……

ビゴー:おっと、ティム。やめとけ。素性も知れない、しかも盗人なんかに言う必要ない。

オプラティム:なんで?いいじゃない

ビゴー:いいわけないだろ

オプラティム:ビゴーは黙ってて、今僕はこの二人の話が聞きたいんだ

ビゴー:オプラティム!!!

オプラティム:な、なにさ

ビゴー:お前の悪い癖だ!興味のあるもの、気になった事、些細な事、少しでももやっとするとそれを晴らさずにはい

られない!

ビゴー:それがいい事でも悪い事でも見境なしだ!

オプラティム:そ、そんなこと。

ビゴー:ある。お前はいつだってそうだ。特にこと演技に関わる事だとそうだ。

ビゴー:お前が今から言おうとしてる事はこの「リ・ネシア」を疑ってるってことなんだぞ。

ビゴー:憲兵の動き次第じゃ反逆罪だ。

ビゴー:事もあろうにそれを、大劇団ノベルニアテアトルの役者が言うって?

ビゴー:勘弁してくれ!

オプラティム:(ビゴーの話を無視し)ゴルドーは裏切ってなんかないと思うんだ。

ビゴー:ティム!!!!!!!

シーユー:……へえ?

ビゴー:ティムティムティム、本当にそこまでにそとけよお前、それ以上は言うな。関わるな。

ビゴー:反逆罪だぞ?主役の座はどうなる?今からでも訂正しろ、なあ。

オプラティム:しないよ。ビゴー。

ビゴー:おい。

オプラティム:うるさいな!黙っててよ!

ビゴー:……おまえ。

オプラティム:僕は主役の座なんてどうでもいいんだよ。

オプラティム:でも、ただ、ただ、自分の演技や、自分の心に嘘をつきたくない。

オプラティム:僕らのやってる事は、演技っていうのは、こうして過去にあった出来事をただなぞればいいのか?

オプラティム:違うだろ、僕らがしていることは、「その役の人生を降ろしてきている」んだ。

オプラティム:その役そのものに「成る」んだ。

オプラティム:だったら、直すべきだろ。

オプラティム:正すべきだ。堕落騎士ドル・ゴルドーの歴史が、リューネシアが滅んだ理由が。

オプラティム:間違っているなら、僕らは「ドル・ゴルドー」として歴史を、その心を正すべきだ!

シーユー:……ひゅー、いいね。

ビゴー:……。

オプラティム:君は天才だ、ビゴー。

ビゴー:いきなりなんだよ。

オプラティム:君は僕を演技の天才だと言う。

オプラティム:でも、君だって同じだ、僕は君を天才だと思ってる!

オプラティム:だから、きっと君だって同じだろ?

ビゴー:……それは。

オプラティム:そうじゃなきゃ、なんで僕を反逆罪で憲兵に突き出さないのさ。

ビゴー:そんなの……

オプラティム:友達だから、なんて言うなよな。

ビゴー:……ゴルドーが生き残って、反逆罪だと吊るしあげられて

ビゴー:「すべての人間が死んだ」話なのに、「なんでゴルドーが全て悪い話」に歴史が作られてるんだ……。

オプラティム:ビゴー!!(喜びながら)

ビゴー:わかってるよ!俺だってわかってる!どう演じてもおかしい。

ビゴー:台本通りに演じたら、その場に残っていたのは「ドル・ゴルドー」ただ一人だ。

ビゴー:なぜドル・ゴルドーが自分の不利になるように「自分が全員を殺した」なんて言えるんだ。

ビゴー:じゃあ、エルトン・エーカーは?あいつはどこに居て、どうやってこの絵を描いたんだよ。

ビゴー:「誰かが、誰かの都合がいいように」物語をでっち上げたとしか思えないじゃないか。

オプラティム:ビゴー!!!!流石僕の親友だ!!!!

ビゴー:ああもう!お前のせいで俺も反逆罪だ!ルッソベリーを顔に塗りたくられた気分だ!

「十日」:ルッソベリー?「ルッシベリー」だろ?

ビゴー:俺の地元じゃそう言うんだよ。

シーユー:……一つの同じ物も、見方や場所、人が違えば、まったく別の物になるかもしれない。

シーユー:それがきっと、この「孤軍の叫び」を「美学」たらしめる、いいえーーー「真実」たらしめる何かを暴く為の鍵なのかもしれない。

シーユー:いいじゃない、貴方、いいえ、貴方たち二人。

シーユー:「美学」だわ。とてもいい!

「十日」:……知らないぞ、お前ら。戻れなくなるかも知れない。

オプラティム:望む所だよ。

ビゴー:もう、こうなったら行くところまで行ってやる!

シーユー:……だってさ?「十日」

「十日」:……なら好きにしたらいい。

シーユー:二人に紹介がまだだったわね。

シーユー:この唐変木は「十日」(テンペスト)、記憶を無くした元騎士よ。

「十日」:唐変木とはお言葉だな……

シーユー:そして私は、「シーユー・アンドルフィン」。またの名を、「美学怪盗」。

シーユー:リューネシアが崩落した理由、ゴルドーの歴史の真実を奪いにきたのよ。

ビゴー:「真実」を奪う?どういうことだそりゃ。

シーユー:私の一つの名前は、「嘘屋」。

シーユー:あなた達の国の嘘と、真実を、私の物とするのよ。

シーユー:「嘘」も「美学」も、似てて、似ていない。

シーユー:何かを突き通す為に、飾る心が美学なのよ。

シーユー:そうして、自身に嘘をついて、貫いた先が「美学」になる。

シーユー:それは、その逆もしかりってこと。

シーユー:「ここに、エルトン・エーカーの描いた嘘と真実がある。」

シーユー:覚悟はいい?「美学」の先に潜るよ。

語り部アルパカ:そう言うと、「美学怪盗」はエルトン・エーカーの名画「孤軍の叫び」を頭上へと放つ。

語り部アルパカ:刹那、雄たけびにも、嗚咽にも似た、一つの咆哮が聞こえる。

語り部アルパカ:辺りは血の雨、よどんだ空気と、いつかの景色。

語り部アルパカ:蠢く(うごめく)涙に、ネズミの大群。

語り部アルパカ:死ぬ事すらも、殺す事さえもどこにも救いはない。

語り部アルパカ:リューネシアの崩落した日に、飛びすさる。

語り部アルパカ:お立合い、お立合い。

語り部アルパカ:これは「リューネシア」崩落の歴史、「ゴルドーの裏切り」の史実。

語り部アルパカ:さあ、お立合い、お立合い。

語り部アルパカ:んべぇーーーーーーーー!!!!!


  場面転換◆リューネシア国 城門前

エルトン:……もう、限界だ、ゴルドー。

ゴルドー:……何を弱気になっている?らしくないな、天才エルトン。

ゴルドー:お前がそんな気持ちでいたら、描きたい絵画も足を生やし逃げ出すぞ。

エルトン:ゴルドー、私は君のそういう性格を好ましく思っている。

エルトン:だがな、ゴルドー。

エルトン:もう、おどける必要も、誰かを安心させる必要もない。

エルトン:……ゴルドー、この国は、終わりだよ。

ゴルドー:終わらないさ。

エルトン:……ゴルドー。

ゴルドー:終わらない。まだ、私と君がいる。

エルトン:……ゴルドー。

ゴルドー:いいんだ、エルトン・エイカー。君はこの歴史を記す必要がある。

ゴルドー:わかっているよ。

エルトン:……すまない、ゴルドー。

ゴルドー:姫と、王は、きちんと天の国に行けたかな、エルトン。

エルトン:……ああ、穏やかな顔をしていた。行けるに決まっている。

ゴルドー:そうか、よかった、それは本当に、よかった。

エルトン:……少し、話をしないか。ゴルドー。

ゴルドー:時間が、あるかな。

エルトン:許すかぎりでいい。

ゴルドー:……そうだな、これが「最期」になる。まだ話せていない事もたくさんある。

エルトン:本当に、いいのか。

ゴルドー:? 何回蒸し返すんだ君は。君は転送魔法陣で逃げろ、そう決めただろ。

エルトン:そうじゃない。

ゴルドー:そうじゃない?

エルトン:……この国の、事実についてだ。

ゴルドー:……いいんだよ。

エルトン:……だが。

ゴルドー:いいんだ。君は正しい歴史を記し、それを流布させる責任があるだろ。

エルトン:……君が提示したのは、「事実」ではないだろう。

ゴルドー:事実だよ。私が姫と王を殺した。この手で首を切りとり、玉座に並べた。

エルトン:事実じゃない。

ゴルドー:事実さ。

エルトン:事実じゃないだろう!ゴルドー!

エルトン:王と姫は、「暗き者」となった!それは瞬く間に感染し、城中を、兵士も、侍女も

エルトン:……子供たちさえも!!

エルトン:蝕み、変異させ、それが波となり、こうして残ったのは私と君だけだ!!

エルトン:何故それを君が一人で背負わなければならない!

エルトン:私と共に、私と共に来ればいいだろう……っ!!

ゴルドー:……君は、本当に優しいな、エルトン・エーカー。

エルトン:……だって!

ゴルドー:泣くなよ、エルトン。笑ってくれ。

ゴルドー:私は、この国が好きだ。

ゴルドー:春には、ベルベリーが実り。

ゴルドー:多くの冒険者たちがその胸に夢を抱いて、このリューネシアに来る。

ゴルドー:ノベルニアの中でも、ひときわ大きなこの国に。

ゴルドー:きっと、この国はもっと豊かになる。

ゴルドー:きっと、大きな劇団ができて、大きな美術館ができて。

ゴルドー:建国の歴史を模した戯曲や、そう、君の描いた絵画が並べられている。

ゴルドー:子供達は笑顔で歌を歌い、その、輝かしい未来で、君はきっと笑顔で絵を描いている。

ゴルドー:長命なエルフの君だ、当然、描いている。

エルトン:ゴルドー……君は、君ってやつは……

ゴルドー:だから「こんな事実は無いほうがいい」。

ゴルドー:「王が、姫が、民を襲い」

ゴルドー:「一夜にして、国が滅びたなんて事実は、無いほうがいい」。

ゴルドー:だから私は、「裏切者」でいいんだ。

エルトン:ゴルドー…………。

ゴルドー:すまないね、酷な役をさせてしまって。

エルトン:どの口が言うんだい、それを。

ゴルドー:……城門の鍵が、限界だ。

ゴルドー:行きなさい、エルトン・エーカー。

ゴルドー:転送魔法陣は玉座にある。

エルトン:……(何も言わず、玉座へ向かおうとする)

エルトン:(しかし、耐えきれず)ゴルドー。

ゴルドー:早く。

エルトン:……ッ

エルトン:私はッ!!ドル・ゴルドーという、このリューネシアを最後まで守り切った騎士をッ!!

エルトン:心底愛しているッ!

ゴルドー:……。

エルトン:未来永劫!君は「堕落騎士」として!!

エルトン:この国の恥として!語り継がれるッ!!

エルトン:それはきっと、君の名前を使って!侮蔑の言葉が産まれる程に!!!

エルトン:我らの友、ネズミの王と!!ネズミたちを使い!必ずノベルニア中に流布させるっ!!!

ゴルドー:……。

エルトン:絶対にッ!絶対にそういう未来にしてやるッ!!!!

エルトン:私が……私がッ!!愛するキミの為に、絶対に!!!!!

エルトン:(そう言い切ると、涙をふく事もせず、エルトン・エーカーは玉座へと向かった)

ゴルドー:…………エルトン・エーカー、君というやつは。

  場面転換◆大劇団ノベルニアテアトル 第三幕

オプラティム:「……堕落騎士ドル・ゴルドー、私は君の事を絶対に忘れない」

ビゴー:「これが最後の剣戟だ、皆の者。」

ビゴー:「私は!この孤軍の唯一の騎士団長!!!!ドル・ゴルドー!!!」

ビゴー:「この身砕けちろうとも、我が心に嘘偽りはない!」

語り部アルパカ:観客席は、誰一人動く事ができなかった。

語り部アルパカ:ゲリラ的に変更された「リューネシアサーガ」は

語り部アルパカ:「オプラティム」と「ビゴー」という二人の役者により

語り部アルパカ:この国を揺るがす程の真実として、上演された。

語り部アルパカ:誰一人として、瞬きすらも、唾を嚥下することもない。

語り部アルパカ:そして、2つの拍手が、唯一その劇場で反響した。

シーユー:(拍手)ブラボー!

「十日」:(拍手)シーユー、恐らくこれは空気が読めてない。

シーユー:いいのよ、それで。いつだって美学は認められないものだもの。

シーユー:はじめは、ね。

「十日」:そういうものか。

シーユー:そういうものよ。

語り部アルパカ:舞台上では、「二人」の人生がそこにある。

語り部アルパカ:憲兵たちが、大きな扉をあけて流れ込んでくる。

語り部アルパカ:まさしく、リューネシアの終わりの日の、暗き者の行軍のように。

「十日」:憲兵だぞ、シーユー。

シーユー:大丈夫、私たちにじゃないわ。

語り部アルパカ:カーテンコールの最中、誰も立たない。

語り部アルパカ:客席はそのまま静寂を守る。

語り部アルパカ:誰も、「批判」する事も、「肯定」することも無かった。

語り部アルパカ:ただ、目の前の真実を、飲み込もうとしていた。

「十日」:これで、満足なのか?「美学怪盗」

シーユー:そうね、ゴルドーの嘘を本当にしてしまったエルトン・エーカー。

シーユー:そこにあったのは、間違いない「美学」だった。

シーユー:これ以上の美学がある?

「十日」:……違いねえ。

シーユー:でしょ、なら、それを「明らかにする」と決めたあの子たちも間違いなく

「十日」:美学、だろ?

シーユー:ご明察。


  場面転換◆リューネシア国 城門前


エルトン:絶対にッ!絶対にそういう未来にしてやるッ!!!!

エルトン:私が……私がッ!!愛するキミの為に、絶対に!!!!!

エルトン:(そう言い切ると、涙をふく事もせず、エルトン・エーカーは玉座へと向かった)

ゴルドー:…………エルトン・エーカー、君というやつは。

ゴルドー:エルトン!!!!!!!!

エルトン:(突然の大声に振り向く)……ゴルドー……?

ゴルドー:「リ・ネシア」だ!!!!!

エルトン:「リ・ネシア」……?

ゴルドー:新しい国の名だ。あの美しいリューネシアを「再び」。

エルトン:……任せてくれ。

ゴルドー:頼んだ。

ゴルドー:……実に、いい国だった!


  場面転換◆騒然としている大劇団ノベルニアテアトル 入口 語り部アルパカ前

シーユー:さあて、「十日」、結局貴方の記憶は戻らなかったわけだけど?

「十日」:……あの「孤軍の叫び」の絵画は、あの瞬間がクライマックス。

「十日」:俺があの死体の山にたどり着いたのか、はたまた関係ないのかは。

シーユー:まだ、隠された「真実」ってわけだね。

「十日」:……これからどうする?

シーユー:そんなの、決まってるでしょ。

シーユー:「美学」を盗み、「嘘」を売る。

シーユー:これからも私の美学は変わらないよ。

「十日」:……そうか。

シーユー:その為には、相棒が必要なのよ。

「十日」:え?

シーユー:相棒は、「謎を抱えているに限る」、これが「相棒の美学」でしょ。

「十日」:……はっ、本当にあるのか?そんな美学。

シーユー:いいから、いくよ!ほら!

語り部アルパカ:終演~!終演~!

語り部アルパカ:本日の演目はすべて終演~!

語り部アルパカ:主役の二人が憲兵にとっつかまっちまった!

語り部アルパカ:さあ!これは見ものだ!座長も脚本家も顔が真っ青!

語り部アルパカ:こんな日には家で大人しく呼び鈴パイでも食べて過ごそう!

語り部アルパカ:終演~!終演~!

語り部アルパカ:本日の演目はすべて、しゅうえーん!

語り部:んべーーーーーーーー!!!!!


-終-