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晴耕雨読

星を討つ者 上

2023.05.29 06:34


※こちらは「ノベルニア」という世界観を元に作成した二次創作です※

↓wikiはこちらから↓




▷どんな台本?

 所用時間:40分くらい 

 比率 3:1:4 

 (兼役をお勧めします)

 (男女比率はあくまでも仮であり、演技の都合上の改変は問題ありません)

 どんなお話?

  →寝て起きたらタイムスリップしてそこで事件に巻き込まれた



 【キャラクター】 

ラオ:ラオティニア 

ミトレス:博士 出番があまりない 

悪魔:悪魔 出番があまりない 

アリシア:歌をうたうことが好きだったはず 

ストラ:弓が得意 

ドグラス:剣が得意  (兼役おすすめ)

アルパカ:アルパカ こいつは唾しか吐かない (兼役おすすめ)

ライト:野ベルベリーが好き  (兼役おすすめ)

  :こいつはト書きだ 


 【あらすじ】 

某劇団が開催するリューネシア・サーガの噂を聞きつけイベントに駆けつけたラオティニアは、人だかりにはぐれた悪魔を探しに行った先で気絶してしまい、雨が降る時代にタイムスリップをしてしまった。そこで出会ったアリシア、ストラ、そしてドグラスと、ラオティニアは友人になる。 


 ※エポックやキャラ設定を作品の都合の良いように改変、捏造しています。地雷に注意。


【本文】

 ・・・

   :「リューネシア・サーガ」

   :あの大劇団ノベルニア・テアトルの演目である。

   :あのゴルドーに関する舞台なんじゃないかとの噂を聞きつけ街中、いや世界中からお客さんが集まっていた。

   :ラオティニア一行もそのうちのひとつであった。 

悪魔:クク、【ゴルドー】ね 

ラオ:すげえ……ここにはこんなに沢山の人間が住んでたんだ 

悪魔:こんなことで関心するなよラオティニア、世界にはもっと沢山の生き物がいるぞ 

ミトレス:そうさな、いままで冒険ばかりで町にはあまり寄らなかったから、ラオくんは新鮮なんだろう 

  :テナントの前に立っている看板を下げたアルパカがミトレスを見た。 

アルパカ:んべぇーーーッ!!! 

ミトレス:うわッ! バッチ! 

ラオ:アハハ 

悪魔:汚~い 

ラオ:あ、こいつもしかして、さっき街の人が教えてくれた『語り部アルパカ』ってやつかな。よかったな博士、こいつに唾を吐かれると幸運なことが起きるんだって 

ミトレス:汚い! 汚い! 客人を汚すことをヨシとするなら、幸運などないほうがマシだッ! 

ラオ:アハハ!! 

ミトレス:畜生、なんなんだこの劇団は…… 

悪魔:…… 

  : 

ライト:いらっしゃい、いらっしゃい! 今夜も心躍る物語の数々が、君たちを待っているよ! 

ライト:金がないだって? なら野ベルベリーをおくれよ! 僕はあれが大好物なんだ 

  : 

ラオ:わあ、博士、悪魔、あそこ見てみろよ。沢山の人だかりだ 

ミトレス:ウム、おそらくあれが『紙芝居の男ベルニア=ライト』だろう。近くに白い猫がいる。あれが相棒なんだとか 

ラオ:へえ 

ミトレス:なんでも数々の冒険をその身で体験してきたらしい。彼が所持した雷の剣の冒険譚は、ここらじゃ珍しくって人気なんだとか 

ラオ:いいなあ。冒険か 

ミトレス:やはり若いもんは一度くらい憧れるか 

ラオ:今も冒険してるようなもんだろ。憧れるとかじゃないから 

ラオ:俺は、今は博士の用心棒をしているけれど、……博士の用事が終わったらどうしようって思ったんだ 

ラオ:故郷へ帰るには遠くへ来すぎてしまったな 

ミトレス:フム、そのまま新たな場所へ行くのも悪くないし、こうして劇団などに所属してもっと多くの仲間と共に旅をするのもいいものだぞ 

ミトレス:この世界は、毎日新しいものの発見ばかりなんだ 

ミトレス:わからないものも、見えてきたものも、ここでつくるのも、全てが価値あるもの。それがこのノベルニアという世界だろう。楽しまなくては損だ 

ラオ:……そうだな 

ミトレス:むしろ人間として生まれてしまっていることに嘆かねばならないな。我々は他種族に比べて命の期限に限りがある 

ラオ:ああ、そうだな 

  : 

ミトレス:おや、アレがいないよ 

ラオ:アレ、悪魔? ホントだ。迷子にでもなったかな 

ミトレス:迷子ォ? アレはいつも浮いているんだよ。私たちがわからなくなるなんてことあるかね 

ラオ:それもそうだな 

ラオ:……博士、俺ちょっと探してくるよ 

ミトレス:アア。スリには気を付けたまえ 

ラオ:わかったー! 

  : 

ラオ:悪魔―、悪魔―。どこだー? 

  : ラオ:すみません、このくらいの背で、空に浮いてる、人型の黒い奴って見かけませんでしたか? 

ラオ:え? あっちのほう? なんでだろ、教えてくれてありがとうございます 

  :

 ラオ:あくまー? あ、いた 

ラオ:悪魔、なにしてるんだ? 

  :頭に強い衝撃がした。

  :

  : ***  

  : 

  :雨が降っている。

  :バケツを逆さにしたような大雨。ラオは、肌寒さに目が覚めた。 

ラオ:あ、あれ……、悪魔? はかせ、 

ラオ:……ここ、どこだ? リューネシア・サーガは? 客は? 

ラオ:寒い……、雨? どうして、雨が降ってるんだ 

  :近くから様子を見にきたアリシアが、倒れているラオを見てギョッとした。 

アリシア:あなた、大丈夫? アアいやね、肌が冷えていて。さあこの外套(がいとう)を被って 

ラオ:あ、ありがとうございます。でもお姉さんが 

アリシア:いいの、私は風邪ひかないから。とにかく移動しましょ 

アリシア:立てる? 

ラオ:はい 

アリシア:あなた、名前は? 

ラオ:ラオティニア 

アリシア:どうしてこんなところにいたの? 魔法が使えないなら、せめて笠くらいは被っていかないとダメでしょう 

ラオ:カサ? 

アリシア:ほんとに冷えてるじゃない。最近隣国でまた低体温症で死んじゃった子がいたの、聞いてないの? 

アリシア:あれ、あなた、腕…… 

ラオ:あ、俺、両腕は義手なんです。事故で肩から先がなくなっちゃって 

アリシア:なら尚更ね。これ、雨に当たったらダメになっちゃうでしょ 

ラオ:ハイ、その通りデス…… 

ラオ:……おれ、わからないんです、どうしてここにいるのか。ここってどこですか? 

アリシア:わからない? 

ラオ:ハイ 

アリシア:……ここは、アデリア国よ 

ラオ:アデリア国? 

アリシア:そう。隣はリューネシア 

ラオ:リュー、ネシア……ッ!? 

アリシア:あなた、本当にわからないみたいね 

  :アリシアは悲しげな顔をした。 

  : 

  : 

  : 

アリシア:さ、ついたよ。ここが私の暮らしてるお家。是非温まっていって 

ラオ:お邪魔します…… 

ラオ:あたたかい……、誰もいないのに暖炉をつけてたんですか? 

アリシア:魔法で燃え続けるようにしているの。この炎は家を守る大事な炎なのよ 

ラオ:へえ…… 

アリシア:さあ、こっちに座って。スープをもってくるからね 

  :そう言ってアリシアはキッチンのほうへ向かった 

  :外から水を跳ねる音がする。たちまちドアは開けられ一人の青年がやってきた 

ドグラス:よ! アリシア! 今日も九品億土(くほんおくど)のお話きかせてくれよ! 

ドグラス:ア”? おめェ誰だ? 

ラオ:ヒッ、なんだこのガキ、満面の笑みが急に阿修羅に…… 

アリシア:あら、ドグラスいらっしゃい。靴の泥はちゃんと玄関外でおとした? 

ドグラス:ああ落としたよ。なあアリシア、こいつ誰だ? また拾い子か? 

アリシア:またって、外で冷えて倒れてたのよ 

ドグラス:そういって何人子供を拾ったんだよ 

アリシア:アーアー、うるさいうるさい 

ドグラス:アリシア! 

アリシア:はい、野草とその根を煮たスープよ。体が芯から温まるの 

ラオ:ありがとうございます 

ストラ:ただいまー……、あれ、知らない子供が二人いる 

ドグラス:俺は知ってるだろ! ドグラスだっつの! 

アリシア:おかえりなさい、ストラ 

ストラ:ただいまアリシア。そっちは本当に知らないよな 

ストラ:こんにちは、僕はストラ。よろしく 

ラオ:あ、よろしく。俺はラオティニアだ 

アリシア:ストラもこの家に住んでいて、弓で狩りをするのが得意なの 

アリシア:それで、こっちはドグラス。リューネシアからわざわざここまで遊びにきてくれてるのよ 

ドグラス:なんだよ、迷惑? 

ストラ:変人だとおもう 

ドグラス:表出ろストラ! リューネシア騎士団第三大隊隊長より賜りしこの剣のッ錆にしてやる! 

ストラ:うるせえぞ剣術バカ貴族! 家柄と人脈の強さにすがるしかねえ弱者が! 家では静かにしろ蛮族め 

ドグラス:おま、口が悪いぞ……! 

アリシア:ふふっ。ドグラスは剣術が得意なの 

ラオ:へ、へー、得意分野がそれぞれあるんだな 

アリシア:そうなの。みんな良い人なのよ 

ドグラス:俺はっ? 俺のほうがいいやつだよな 

ストラ:僕と一緒に過ごしてる時間が長いし家の手伝いをしているのは僕だぞ。僕のほうがいいやつだ 

ドグラス:ハーッ!? 

アリシア:ふふっ 

ドグラス:……フン 

ストラ:そうだ、アリシア。今日は鹿が一頭取れたから外においてるよ。あと、今日はちょっと遠出して、あの大穴の大木のところまで行ってみたんだけど、そこなら食べられる草が結構生えてたんだ。次からはそこまで行くといいかもしれない 

アリシア:わかった。教えてくれてありがとう 

ストラ:お互いさまだよ 

ラオ:アリシアとストラはこの家に住んでて、でもドグラスはリューネシアに住んでるんだよな? 

ドグラス:そうだ 

ラオ:なんで二人はそっちにいかないんだ? ここ、多分町からも離れてるだろ、住みづらくね? 

ストラ:いいだろ別に。不便かもしれないけど、大した問題はない 

ドグラス:不便なんだろ? 

ドグラス:いつも言ってるんだ。俺んちはとっても貴族なんだから、二人くらい俺の家に住まわせてあげられるよって 

ドグラス:二人は、いや特にアリシアだ。前からずっと誘ってるのに頑なにうちにこないじゃないか 

アリシア:ごめんね。私、この家が好きだから…… 

ドグラス:好きか好きじゃないかで変なとこに住むのは変人のすることだよ、アリシア 

アリシア:…… 

アリシア:そうだ、ラオティニア、あなた帰る場所がわかるまでうちに泊まる? 

ドグラス:アッ!!! 

ラオ:いいんですか? 

アリシア:いいのよ。一人くらい増えたって問題ないでしょう 

アリシア:それに、家は賑やかなくらいがちょうどいいわ 

ドグラス:エ、エ~~~!!! 

ストラ:お前は夜になったら家帰れよ 

ドグラス:ウーーーッ 

  : 

  : 

  : 

  :夜。ドグラスは家に帰り、夜食を取った三人はアリシアと、ストラとラオティニアの2つに寝室を分けて寝る準備をしていた。 

ストラ:ラオ、昼間、どうしてここで暮らしてるかって聞いてくれただろ 

ラオ:ああ 

ストラ:……これは、内緒なんだけどさ 

ストラ:アリシアは僕達になにか隠し事をしてるんだ。アリシアはドグラスと同じように帰る場所があるはずなのに、ここにずっといる 

ラオ:…… 

ストラ:お前も、帰る家があるんだろ 

ストラ:待ってる人がいるなら、早く迎えに言ってやれよ 

ラオ:ストラは? 

ストラ:……僕はいいんだ 

ストラ:アリシアに救われた。雨よけの家と、暖かい暖炉と、おいしいご飯をくれた恩人だ。アリシアの為に僕はここへ帰る。それでいい 

ラオ:じゃあ、ストラにとっての【待ってる人】が、アリシアなんだな 

ストラ:……そう 

ラオ:ドグラスは? 

ストラ:あいつはいいだろ。リューネシアの貴族だぞ。わざわざここに来る変人だ 

ラオ:ハハ、そうか 

ストラ:お前ももう寝ろ。 

ラオ:ああ

トラ:帰り道、見つかるといいな

オ:ああ…… 

ストラ:おやすみ 

  : 

  : 

  : 

  :数日後 

  :ラオティニアは笠をかぶり、外に置かれた的に向かって弓を引いていた。 

ストラ:そうだ、構えはいいぞ。そのまま肘を使って矢を引くようにするんだ。 

ストラ:そうそう、絶対に弓をしっかり握れ。怪我をする 

ストラ:集中、集中しろ 

ラオ:……ッ 

ストラ:撃て 

  :ヒョウと風の切る音がする。放った矢は的に当たらず向こうへいった。 

ラオ:当たらなかった 

ストラ:でもいいじゃないか、弓を引くポーズはばっちり 

ストラ:やはり義手だからかな、筋肉によるブレがないよ 

ラオ:でも生身の手じゃないからあんまり感覚がないんだ。雨に濡れて滑るんじゃないかってドキドキする 

ストラ:それは困りものだな。雨は止むもんじゃないし…… 

アリシア:ストラ? ラオティニア? こんなところにいたのね 

ラオ:アリシア 

アリシア:ごめんなさい、ちょっと今から食料調達をしてきてほしいの。思ったより残ってなくて 

ストラ:それくらい良いよ。ラオ行こう。取れる場所を教えてやる 

ラオ:あ、ああ。じゃあ行ってくるよ 

アリシア:ありがとう。行ってらっしゃい 

ストラ:こっちだ、ラオ! 

  : 

  : 

  : 

ラオ:ハア、腰が痛ェ 

ストラ:結構とったな。これくらいで十分だろ 

ストラ:あと、動物の狩りも教えるからな 

ラオ:狩り! 

ストラ:そう! 

ストラ:使うのはこれ。このスイッチを押すと光が付くんだ。ライトだよ 

ラオ:これ魔法? 

ストラ:わかんない、アリシアからもらったんだ 

ストラ:ここらへんの動物は明かりを当てると目が光を反射してピカッとするんだ。だからこの装置で明かりをともし続けて探す 

ストラ:それで、探してる間は「ツ゜ー」と声をだすんだ 

ラオ:なんで? 

ストラ:この音は、このあたりに生息しているニニカの出す音と同じなんだよ 

ストラ:ニニカは葉っぱの裏に主に生息している虫なんだが、求愛行動でこの音をずっと出している。ここらの動物はこのニニカが出す音で雨の中にも生きる上部な草を探している。その習性を仮にも使うんだ 

ストラ:こうやって、口をすぼめて、歯の間に息を通す 

ストラ:(息を吸う) 

ストラ:ツ゜ーーー 

ラオ:あっ今、目が 

ストラ:見えたか 

ラオ:見えた 

ストラ:あれはポロっていう鹿だな。模様に特徴がある、ありゃメスだ。今日はアイツにしよう 

ストラ:ラオ、やってみろ 

ラオ:お、俺? 

ストラ:ああ 

ラオ:自信ないよ 

ストラ:いいんだよ。何事も経験だ 

ラオ:…… 

  :ラオティニアはストラに渡された弓を引いた。 

  :放たれた矢はポロに当たらず、その衝撃で驚いたポロが駆けだした。 

  :しかし、懐に忍んでいたナイフを咄嗟にストラは取り出して投げてしまった。ポロの足に命中する。 

ストラ:もう一度だ! 討て! 

ラオ:ああ! 

  :ラオティニアはもう一度弓を引いた。矢は、ポロに命中した。ポロは絶命する。 

ラオ:やった! やったよ、ストラ 

ストラ:いいじゃないか、上出来だ 

ラオ:ありがとうストラ 

ストラ:どうってことないよ。さ、簡単に処理をして、家に帰るぞ 

  : 

  : 

  : 

  :一方、家にて 

アリシア:…… 

悪魔:こーんばーんはー 

悪魔:あれ、聞こえなかったかな 

悪魔:こんばんはー。お客さんですよー 

アリシア:帰って 

悪魔:「帰って」だなんて酷いなあ 

アリシア:ここまでわざわざ何しに来たのよ。悪魔が 

悪魔:アハハ、そりゃあ、見たくもなるでしょう 

悪魔:「天空の歌姫アリシア」、ああ、今は「堕天使アリシア」かな 

悪魔:好きだった歌を、才能を、否定されて羽をもがれた気分はどうだい 

アリシア:違う 

悪魔:自分の歌を聞いて笑っていた仲間が、次第におかしくなっていった 

アリシア:ヤメて!!! 

悪魔:「ここへは来ないでくれ」 

アリシア:ッ!!! 

悪魔:必要とされなくなった気分はどうだろう? 

アリシア:……ちがう、あの人は、私に、

悪魔:違わないだろう 

悪魔:もう、何千年と雨は止まないじゃないか 

悪魔:君が歌をうたい始めたのは、一体何千年前からだったかな 

悪魔:天使が仕事をしなくなったのはいつから? 

悪魔:大量の生き物が死に来るようになったのは? 

悪魔:神が君を嫌がるようになったのはいつからだろう? 

アリシア:…… 

悪魔:君は、自らの才能で羽をもいだのさ 

アリシア:……あなた、そんなことを言いに来たの 

悪魔:いいや 

悪魔:【君に用があって来たんだ】

  : 

  : 

  : 

ラオ:あれ、ストラ 

ストラ:どうしたラオ 

ラオ:なんか、あっちの村の上、何かいないか? 

ストラ:……あれ、ホントだ 

ストラ:あれ、アリシアか? どうしたんだろ 

ラオ:あの隣にいるやつは…… 

  : 

アリシア:…… 

悪魔:これはテストだよアリシア。君の【恐れられた能力】、見させてもらう 

  :アリシアがうたいだす。絶望の歌。 

ラオ:アリシア? 

悪魔:惑え、そして争え。お前の歌に【毒を流す】 

  :ストラは弓を持つ、キリキリと引いた矢は、ラオティニアに向けられた。 

ストラ:ア、ア…… 

ラオ:ッ!!!

  :放たれた矢は間一髪、ラオティニアの機械仕掛けの腕にはじかれた。ラオティニアは近くの木に潜み、ストラの様子を伺う 

ラオ:急にどうしたんだストラ! 矢は絶対、人に向けるなっていってただろうが! 

ストラ:……(弓を構える) 

ラオ:ストラ!? 俺の声が聞こえるかストラッ!!

  :また矢が放たれた、矢はラオの潜む木に刺さる。 

ラオ:クソッ、何が起きてるんだ 

ラオ:まずはストラをどうにかしよう。でも、原因もわからねえのにどうすれば…… 

ラオ:そうだ、昔博士が「機械なんぞ、様子がおかしくなったら殴れ」とかいってたな。ストラ、行けるかな 

ラオ:ええい、やるしかない! 俺はそんなに頭が良くねェ。考えたところで無駄だ 

  :ストラは構え直した弓でもう一度矢を放った。ラオは放たれたタイミングを見計らいストラの懐まで近づき、下からストラの腕を掬うように持ち上げた。 

ストラ:ッ! 

ラオ:正気になれストラッ! 

  :ラオティニアは右手で一発ストラの腹を殴った。 

ストラ:ブルベノッ! 

ラオ:大丈夫か? 

ストラ:……ああ、目が覚めた。ウ、頭も、腹もいたい 

ラオ:それは悪い…… 

ラオ:あ、頭? 俺、頭は殴ってないぞ 

ストラ:なんでだろうな 

ラオ:さっきもあきらかに様子がおかしかった。どうしたんだ? 

ストラ:……さっき、一瞬だけ頭がぼやけた。今よりも土砂降りの雨の中にいるみたいだった。一歩あるくのも大変で、ラオティニアが声をかけてくれたのはわかってたんだが、声を出しても頭の中で反響しているような 

ラオ:夢の中みたい 

ストラ:そう! まるで夢の中にいるみたいな感覚だった 

ストラ:でも、【アリシアの歌だけは聞こえた】んだ 

ラオ:アリシアの歌? うたってるか? よく聞こえないけど 

ストラ:そうだろ? でも聞こえたんだよ 

ラオ:……アリシアの魔法なのかもな 

ストラ:アリシアの魔法 

ラオ:魔法でできることって沢山あるだろ。何が起きてもおかしくないんだ。変なことがおきたのも、いま様子がおかしいアリシアの仕業だったら何もおかしくない 

ストラ:…… 

  :二人はアリシアが上空を飛行している村の近くまで移動した。アリシアの近くにはもう誰もおらず、空にひとり、アリシアは歌い続けている。 

ストラ:あー、ダメだ、頭がいてえ。揺さぶられてる気分だ 

ラオ:また様子がおかしくなったら殴ってやるよ。安心しな 

ストラ:ラオ、僕ら普通に近づいてるけど、あの歌を止めるにしたってどうするんだよ。だんだん雨は強くなってるみたいだし 

ストラ:雨は強くなればなるほど人の音をかき消すぞ 

ラオ:……それもそうだな 

ラオ:ここまで近づいてみたけど、俺にはさっきのストラみたいなことは起きないかもしれねえ。でもストラは違うんだ。これ以上策も無しに近づくのは危険 

ストラ:…… 

ラオ:ストラ? 

ストラ:なあラオ、アリシアの顔、見えるか? 

ラオ:顔? 

ストラ:アリシア、泣いてる 

  :アリシアはうたいながら泣いているように見えた。顔は雨に濡れていてわからないのに、それでも、どうしてだか泣いていることがわかるのだ。 

ストラ:これはアリシアの本心じゃない 

ラオ:お、おいストラ! そっちは村の方向だぞ、これ以上近づいたら 

ストラ:そしたらまたラオが止めてくれよ! 

ストラ:僕は村の状況が見たい。アリシアの近くまで行きたいんだ 

ラオ:行ってどうするんだよ! 俺らじゃどうしようもないって、 

ストラ:【どうにかするんだよ】!!! 

ストラ:このまま家にでも帰るのか? 家にはなんもない。じゃあドグラスでも呼ぶのか? あいつにだって翼は生えてないじゃないか! 

ストラ:ラオ、来い! 僕らでどうにかするぞ! 

  : 

  : 

  : 

  :村についた。

  :村には赤い水が地面を汚していた。村人は笑い踊り、互いに手に持つそれで傷つけあっている。 

ストラ:やっぱり…… 

ラオ:おかしいよ、なんでこいつら、殺し合ってるんだ…… 

ストラ:アリシアの歌だ……! アリシアはこの能力を隠してたんだ…… 

ストラ:アリシアは【帰れる人】じゃない! 【帰れなくなった人】なんだ! 

ストラ:でもこの能力は隠して生きていくつもりだったはずだ。僕と一緒にすごして一度も歌をうたったことがないのがその証拠。人を争わせることも、惑わせることも本望じゃないんだ 

ラオ:ストラ 

ストラ:アリシアを止めよう 

ラオ:だからどうやって! 

ストラ:それをこれから考えるんだよ! てウワッ! 

  :近くまで村人がストラに包丁を振り下ろした。ストラはそれを避けた。 

ラオ:テメエ! 

  :ラオティニアはその村人を殴って気絶させた 

ストラ:おい!

 ラオ:いいだろ! 命はとってない 

ラオ:それより、このままここにいても、正気じゃない村人に襲われるだけだ。せめて高い建物に避難しよう 

ストラ:ハ!? 勝手に入っちゃ不味いだろ 

ラオ:そんなん気にしてる状況じゃねえだろ! 

  :ラオティニアはストラの手を掴み走りだした。 

  :近くの宿屋へ向かうと、襲い来る客を片っ端から殴って気絶させるラオティニア。そのまま3階まであがりドアを閉めた。 

ストラ:ハア、ハア 

ラオ:よし、ここまでくれば、大丈夫だろ 

ストラ:おま、野蛮だぞ、ラオ…… 

ラオ:い、いいだろ……緊急事態だ。それに多分、覚えてないだろ 

ストラ:でもこの宿屋、ちょうどいいな、窓からこう覗けばギリギリだけどアリシアが見える 

ラオ:でもどうするかだよな。雨は強くなる一方だ。叫んでこっちに気づくようならいいけど、もうこんなに土砂降りだとあの距離まで声が届くか怪しい 

ストラ:そういえばラオの腕は博士がつくった特殊装置なんだよな。なんかできないのか? 

ラオ:今じゃ、内蔵されてる小型ナイフが出せるくらいだ。こっちにきてからずっと、雨のせいできしんでいろんなのが上手く作動しない。博士もいないからちゃんとしたメンテナンスもできないし 

ストラ:クソ、このままここにいるわけにはいかないのに…… 

ラオ:……もっと上、屋根のほうまで登れねえかな 

ストラ:ハア!? 無茶だ! おまえこの雨が見えないのか! 足を滑らせて三階から真っ逆さまになるだけだぞ 

ラオ:じゃあどうするんだよ! 

ストラ:……ッ!!! 

  :ストラは窓からアリシアを睨んだ。 

  :アリシアはうたっている。 

ストラ:アリシア―ッ!!! アリシアーッ!!! 

ラオ:…… 

ストラ:もうやめてくれ!!! アリシアーッ!!! 

ラオ:また、雨が強くなってきた 

ストラ:アリシアーッ!!! 

ラオ:なんで雨が降るんだろうな 

ストラ:アリシアーッ!!! 

ラオ:俺のところじゃ、降ってなかったぞ 

ストラ:ゲホ、またその話か 

ラオ:本当なんだよ。雲の向こうには青空があって、湿り気のない空気に心地いい風がふくんだ 

ストラ:想像できねえよ、僕が生まれたときから既に雨は止まなかった 

ラオ:…… 

  :ラオティニアは空を見上げた。暗い綿から絞るように雨がふり、アリシアはそれに当てられてもなお歌い続けている。しかしその歌も、雨に攫われてラオティニアの耳に届かなくなっていた。 

ラオ:なあストラ 

ラオ:アリシアを堕としてくれないか 

ストラ:……あんたわかってるのか、この僕になにをしろって言ってるのか 

ラオ:いいんだ 

ラオ:なあ、ストラ。もう終わらせてやろう 

ストラ:……ッ! 

ラオ:止め方はわからねえ、でもこのままにしてはおけねえ。ならもう、終わりにする覚悟でいこう 

ラオ:俺の矢じゃあそこまで届かねえ。どちらにせよこの土砂降りじゃ無理だ。 

ラオ:でも、ストラなら 

ストラ:…… 

  :ストラは、アリシアに向かって弓を構えた。 

ストラ:他にいい方法があるとか、後で言うなよ 

ラオ:言わねーよ 

ストラ:…… 

ラオ:本当に、悪い 

ストラ:……いいんだ、僕だって、策は思いつかないんだから

ストラ:ねえアリシア、聞こえるか 

  :雨は強くなる。 

ストラ:あなたと過ごした日々は、充実していて、冷たく明けない悪夢も、尊い一日になった

ストラ:あなたと過ごせて幸せだった。どうか、やすらかに 

  :ストラの矢はアリシアの首に直撃した。

  :喉笛を貫通したそれはアリシアの意識をも飛ばした。アリシアは空から落ち、墜落する。ラオティニアは咄嗟に窓から飛び出し堕ちるアリシアを受け止めた。 

ラオ:グッ! 受け止めた!!! 

ストラ:フーッ、フーッ…… 

ラオ:アリシア…… 

ストラ:……し、静かだ。なにも聞こえない。雨が、止んでいる? 

ラオ:アリシア? アリシアッ!! 

ラオ:生きてるのか? く、首が貫通しているのに 

アリシア:ア…… 

ラオ:大丈夫か、俺達がわかるか? 自分で治癒魔法かけられるか、アリシア 

ラオ:俺ら、魔法は使えないんだよ。博士が言ってたんだ。こういうふうに刺さってるものはむやみに抜いちゃいけないって…… 

アリシア:…… 

  :アリシアは不安げな表情をした。 

アリシア:貴方たち、誰ですか、ここは、紫雲路(むらさきのくもぢ)でしょうか。明るい、黄金岸(こがねのきし)……? 

ラオ:……忘れたのか? 

アリシア:私は、なぜここに、

   :ストラが手をアリシアのまぶたに翳した。 

ストラ:忘れたなら、忘れたままでいい。何も知らずに眠るんだ、アリシア 

アリシア:…… 

ラオ:……そうだな、起こして悪かったよアリシア。どうかおやすみ 

  : 

  : 

  : 

  :外は一度雨が止んだことなんて忘れたように土砂降りに降っていた。 

  :ラオティニアとストラは家の外についているベンチに座って、雨が降る雲を眺めていた。 

ストラ:ラオは確か、ココじゃない別のどこかからきたんだったか 

ラオ:そうだ 

ストラ:帰れるといいな 

ラオ:帰れるさ。何千年と止まなかった雨が一度止んだんだ 

ラオ:それに、帰るあてはあるんだ 

ストラ:へえ 

ラオ:アリシアが暴走するとき、隣に誰かいたのが見えなかったか?

ストラ:ああ、見えた 

ラオ:あの人影には見覚えがあるんだ。きっと、俺がここにいるのはアイツの仕業だと思う。アイツにさえ、会えれば、きっと、…… 

ストラ:……ラオティニア? 

ラオ:すまん、ちと、眠い……  

  : 

  : 

  :【星を討つ者 上】 終 

・・・


つづき