中国ゴーストタウン
1、要旨
テレビで何度か中国中で人が住んでいない高層アパート群が連立している姿を見た。いったいどうしてこのような事が起こってしまったのかと疑問を持っていた。橘玲が「中国私論」という書籍を記し、そこに上記の説明をしていたので、その内容を以下に纏めてみた。
2、中国10大鬼城
(1)内モンゴル自治区オルドス
オルドス市は1990年代に有数の石炭産地となり、2010年にはGDPが中国一になり、空前の好景気に沸いた。オルドス市政府は不動産開発にのめり込み、人口100万人規模の超モダンな都市を建設した。ひとつの建物で300戸ほどあり、約3軒しか入居していない。現在、価格が売り出し当初と比較して3割になったが、誰も買手がいない。石炭価格が半値になったため、市の財政がたちまち逼迫してしまった。
(2)天津浜海新区
ニューヨークに匹敵する巨大都市をつくろうとしたが、あまりに壮大すぎて現実が追いつかず、開発区全体が鬼城化してしまった。建物の大半が建設途中で放棄された。天津市の負債は95兆円で破綻状態。
(3)海南島三亜
海南島は中国最南端の島。その中で鳳凰島と名づけられた人口島はウチワ型の高層ビルと超高級コンドミニアム、七つ星ホテル・テーマパーク・ショピングセンター・マリーナを併設する予定だが、いまだに完成していない。
(4)河南省鄭州
2001年から始まった新都心計画に建築家・黒川紀章のプランが採用された。中央に超高層ホテルを据え、円周に沿ってオフィス・アパート・公園などを配置した人口150万人の最先端都市をつくるプロジェクト。ホテルも開業できてなく、アパートにもまばらに人が住んでいるだけ。価格があまりにも高いので、購入できる人が少ない。
(5)安微省合肥
高層アパート群(蜃気楼を見ているような)をつくったが、価格が高すぎて入居者が少ない。
(6)内モンゴル自治区フフホト
近代的な高層ビルがずらりと立ち並び、鉄道駅やショッピングセンターができているが、まだ入居者の募集が始められないでいる。
(7)内モンゴル自治区清水河
人口17万人の地方都市で、レアアースなどの資源開発を原資にサッカー場・ショッピングセンター・大型ホテル・高級住宅街を建設したが、購入者が少なく鬼城化した。
(8)河南省鶴壁
炭鉱の町として、石炭価格の高騰と高速鉄道駅の誘致成功で不動産開発が拡大した。市政府は水と緑の「幸福之城」を計画し、つくり始めたが建設途中で工事が止まっている。
(9)杭州
天都城という郊外に偽エッフェル塔や偽シャンゼリゼをつくった。人口10万人の都市を誕生させた。都市に近いだけにそこそこの入居者がおり、鬼城とまではいかないようだ。
(10)上海松江区
「ロンドンの街並みを再現する」プロジェクトだが、結婚するカップルの記念写真場所になっており、殆どの店舗は閉鎖され街全体がもぬけの殻になっている。さすがに中国一の大都市なので、販売価格を下げれば買手がつくようだ。
3、鬼城と裏マネー
(1)シャドーバンク
人民銀行の金利政策で、常にマイナス金利(預金金利2%に対し、インフレ
率5%)になっているので、影の銀行(シャドーバンク)が登場することな
った。この闇銀行が急拡大し、表の銀行をおびやかすまでになった。この
闇銀行は政府の管理下になく、金融システムを混乱させる要因になるとし
て、厳しい取り締まりを受け消滅してしまったが、その融資機能は表の銀
行が取り入れていった。影の銀行の融資残高は684兆円にのぼる。
(2)錬金術
経済成長に伴って急速な都市化が始まった。都市化というのは農村から都市に人口が流入してくることで、中国ではこの30年間に4億人の人口移動が起きた。人口が増えると、彼らが暮すための住宅が必要になる。
農地を宅地に換えるには、農民に土地を手放す代償として57万円~95万円を支払った。この土地にマンションを建てて、1000倍にして販売した。
こうして、毎年500兆円もの富が生み出された。この巨額なマネーにかかわることができた人間は地方政府の共産党幹部関係者だけだった。
ところが最近になって、農民の権利意識が強くなったため安価で土地を手に入れられなくなった。さらに不動産価格が下がってきた。
(3)国家開発銀行
国内のインフラ投資に長期資金を提供する金融機関。中国の金融業界の悩みの種は、日々膨らんでいく家計貯蓄を投資する先がないことと、税収の道を断たれ資金繰りに苦しんでいる地方政府の現状がある。そこで、大都市郊外の土地を地方政府が農民から安く徴用し、銀行の融資によって公共交通や住宅・商業施設を行なえば地価は大きく上昇する。地方政府はこの土地を売却することで巨額の収入を得ることができ、そこから融資の返済を行う。
4、腐敗する「腐敗に厳しい社会」
(1)農民の状況
中国では土地は国有なので、農民は政府から農地を借りて耕作している。その借地料や人頭税が課せられ、さらに住民税・自留地費・洪水防止費・災害復旧費・水利費などが課せられて、殆どの農民が借金をかかえている。
農民から重税を取り立てるのは、税金で生活する役人の数が多すぎる。
中国の農村は「郷」もしくは「鎮」と呼ばれる。農業地区が郷で、非農業人口が一定割合以上だと鎮になる。
(2)中国共産党は地方を管理できない
中央や省政府がどれほど強く命令しても、末端の組織に行くに従がって指示は歪められ、責任は無散霧消してなんの効果もなくなっていく。
「改革開放」というのは「共産党の支配を容認する代わりに自分達の金儲けには口を出させない」という契約のこと。
(3)中国は腐敗に厳しい社会
中国では報道機関は厳しい言論統制の下に置かれているが、汚職についてだけは党や地方政府の幹部への批判が許されている。中国は腐敗に極めて厳しい社会だ。これは共産党の正統が毛沢東の理想主義だからだ。
腐敗の原因は公務員の給料が安すぎることだ。首相の月給が3万円程度。
裁判官の月収が2400円。公務員が生きていくためには収賄に手を染める以外にない。中国政府が公務員の給与を引き上げられない理由は、その数があまりに膨大でわずかな増額でも予算に甚大な影響を与えるから。
(4)賄賂社会
中国社会で贈収賄が蔓延するのは、その独特な人間関係にある。「関係(グワシン)」の基本は、こちらが無私の心で相手に尽くせば、相手も全幅の信頼で応えてくれるという互酬制だ。互酬というのは贈与の交換のことで、これが成り立つためには「贈与を受けたら返礼しなければならない」という道徳律が共有されている。そうすると「たくさん贈与すればたくさんの返礼を受けられる」というルールと、「贈与に対して返礼できなければ相手の支配を受けるしかない」というルールだ。贈り物を受け取ってしまったために便宜供与を断れなくなって、汚職の深みにはまっていく。賄賂を受け取らないと精神障害と言われる風潮もある。
(5)二重権力と無責任
中国社会の特徴はあらゆる行政機構が共産党と地方政府の二重構造になっている。中国には8000万人の共産党員がいる。共産党はこうした支配構造を省・市・県の地方組織ばかりか、国有銀行・国有企業の隅々まで張り巡らしている。個々の問題に対していったい誰に権限と責任があるのかわからなくなっている。
5、反日と戦争責任
(1)中国のナショナリズム
岡田武史元日本代表監督は2012年から中国スーパーリーグの杭州緑城を率いた。「グワシン」の関係で選手を出場させたり、共産党が口出ししたりが一般的だったのを、選手が平等に扱われるように改革したところ中国サポータから拍手喝采されるようになった。中国の古い社会のしがらみにうんざりしている人が多い。
(2)反日理由
中国人が日本に対して、「良くない印象」を持つ理由は尖閣諸島問題と中国侵略の謝罪が飛びぬけて多い。しかし、実際は政治的な建前でそういう態度を見せるだけである。上海は排他意識の強い地域で他省の人間とは結婚しない。しかし、その中で上海の女性と結婚が許されている特別な人が日本人だ。