美しさのまとい方 性ホルモンとアスリート
【女性アスリートのパフォーマンスとエストロゲン】
女性アスリートの成績と月経の時期が関連するという報告がある。特に、エストロゲン値がピークとなる排卵周辺の時期に最もよい成績となるという選手もいるが、半数程度は月経の時期とは関係がないと述べている。
女性アスリートには、しばしば無月経がみられる。ある調査では、一流の女子マラソン選手の約2割が無月経である。
体重を落とすほうが有利となるスポーツでは、努力して食事を制限して体重を減らした結果無月経になりやすい。あるいは、激しいトレーニングによるストレス、あるいは競技に対する不安や緊張感などでも、生殖機能は障害される。いずれにせよ、無月経になると、エストロゲンの分泌は著しく低下し、骨量が減少し骨折が起こりやすくなる。そうなると、運動どころではなくなる。女性アスリートの一部では無月経を歓迎するような向きもあるが、骨のみならず血管や心臓に対する悪影響や、将来の生殖能力を低下させることもあり、月経がなくなることの有害性をよく指導する必要がある。
男性アスリートでも精巣機能が低下して、男性ホルモン分泌が抑制さえることがある。特に、若い時から開始した長距離陸上選手などにみられる。男性ホルモンが低下すると骨量が低下し、女性と同様に骨折を起こすこともある。このように、過重な運動負荷、体重減少、競技に対する精神的ストレスなどで性機能が低下するのは男女共通である。
【男性ホルモンは運動競技能力を増す】
テストステロンは強力な男性ホルモンであり、女性でも男性の1/20程度は存在する。テストステロンは、男女とも筋肉の増強作用や筋肉の損傷からの修復を早める作用がある。また、筋肉の比率が増えるとともに皮下脂肪が減少する。このことも俊敏性、瞬発力などを高めることになる。さらに、テストステロンはたんぱく質の合成にも関わるため、たんぱく同化ホルモン、あるいはたんぱく同化ステロイドともよばれている。テストステロンは筋肉増強作用以外に、脳に作用して攻撃性や、競争本能を高める効果がある。つまり、テストステロンが高いほど競技に向いている性格ということになる。女性でもエストロゲンは競争心を誘導するようだが、一定のレベルで頭打ちとなる。さらに、闘争性を高めるには女性でもテストステロンが関係していると考えられる。
競技能力の男女差は、染色体の違いによる体格の差が関係するが、さらに、テストステロンの量の違いによる筋肉量の性差によるところが大きい。一方、エストロゲンは皮下脂肪を蓄積し、苛酷な環境に長期間耐えることを可能にする。短期間で運動能力を競うのではなく、持続的に体調や精神状態を安定した状態に保ち、周囲の環境と調和的に関わるようにするホルモンである。いわば、妊娠を経験し、出産、授乳に耐え、育児を担当するのにふさわしいホルモンといえる。
【男性ホルモンの分泌が多い女性は?】
血中のテストステロンの値が高い女性は、瞬発的な筋力を競う競技では有利となる。体質的に月経が不順で、排卵を欠くことが多い女性が約10%存在する。このような女性では、卵巣からエストロゲンは持続的に分泌されているが、テストステロンは月経が規則的にみられる女性よりも若干多く分泌される。
このような女性の典型的なものに多嚢胞性卵巣症候群がある。この女性では両方の卵巣がやや大きく、内部に液体を蓄えている小さな嚢胞が多数存在している。病気というよりは体質の一種といってもよいが、不妊症などを伴う。多嚢胞性卵巣症候群の女性ではテストステロンがやや高めのために筋力が強く、アスリートには比較的多くみられるといわれている。しかし、これは主として欧米の話であり、わが国からはそのような報告はない。この理由として、欧米女性にみられる多嚢胞性卵巣症候群と異なり、日本人を含む東洋人女性の多嚢胞性卵巣症候群では、テストステロン値は正常者とあまり変わらないからである。いずれにせよ、女性ではテストステロン分泌の多寡がスポーツのパフォーマンスに影響することになる。