コラム:大型M&A活況、よみがえる「ITバブル崩壊」の悪夢
コラム:大型M&A活況、よみがえる「ITバブル崩壊」の悪夢
REUTERS コラム2018年6月23日 / 08:33
[ロンドン 21日 ロイター] - 企業合併・買収(M&A)活動は、いくつかの尺度から見て世界的にかつてないほどの活況を呈している。主導的な役割を果たしているのは「TMT(テクノロジー・メディア・通信)」セクターであり、その状況は、ハイテクバブルが発生してその後の恐るべき崩壊に見舞われた1990年代終盤になぞらえられつつある。
景気サイクルと株式の強気相場が成熟段階に達していることを踏まえれば、多くの投資家が不安に陥るのも無理はない。米国の景気拡大は第2次世界大戦後で2番目の長さとなっており、米国株の強気相場はあと3カ月で過去最長を更新する。
こうした中で米国のTMTセクターでは今月、合計で1500億ドル規模に上る2件の大型案件が発表され、投資家が1999年へ思いをはせることになった。具体的にはAT&Tが850億ドルでタイム・ワーナーを買収する手続きが完了し、コムキャストは21世紀フォックスの主要事業を650億ドルで買収すると提案した。
AT&Tとコムキャストは買収のために合わせて3500億ドルを借り入れ、世界の非金融民間企業として最も借金が多い2社となった。折しも米国の金利は全面的な上昇局面に突入している。
米国で過去最長の景気拡大と株式の強気相場が終わったのは2000年3月で、この時点でナスダック市場のバブルがしぼみ始めた。そして01年3月から景気後退が始まったわけだ。足元では、それと似たような領域に足を踏み入れている可能性を示す材料が出てきている。
ロイターのデータによると、規模50億ドル以上の大型M&Aは年初から今月15日までの金額が1兆2200億ドルと前年同期比で64%も増加し、件数は76件と過去最高となった。
さらに重大なのは、M&A総額2兆3200億ドルの実に52.7%を大型M&Aが占めていることで、この期間としては今までで最も高い比率だ。年間ベースでもハイテクブーム真っ盛りだった1999年の49.5%を超える勢いがある。
TMTセクターだけ見ても構図は変わらない。年初来の大型M&Aの金額は4010億ドルで、M&A全体に対して3分の2近くとなっており、1999年の比率59.2%をしのごうとしている。
別の角度から考えると、景気や株価サイクルの終盤に大型M&Aが急増するのは予想された事態だ。企業は以前のような成長ペースを維持できなくなっているため、経営陣は買収で成長を図り、株主を満足させ続けることを目指す。
しかし企業がより多くの借金とリスクを背負うことで、落とし穴も生じる。またM&Aの活況を見て一部の経営者は、「規模を大きくするのが良いことだ」あるいは「今の好環境が永遠に続く」「今回は過去とは違う」といった幻想に取りつかれているかもしれない。
07年にRBSが主導した980億ドルのABNアムロ買収、1999年のマンネスマンによる2020億ドルのボーダフォン買収などはいずれも経営者が過大な自信を抱き、極端に厚かましくなった挙句、愚行を招いた典型的な事例だ。
もちろんすべての大型M&Aがこうしたケースに該当するわけではないが、投資家は警戒信号に目を向けつつあり、90年代終盤は比較対象としてはそれほど遠い過去ではない。
米国株の主要3指数のうち、ナスダック総合は他の2つがピークアウトの兆しを見せている中でも、足元で上向き続けている。年初来の上昇率は12%と、S&P総合500種の3%、ダウ工業株30種の横ばいを圧倒。S&Pとダウが1月の高値に戻れないのに、ナスダックはそれ以降で9回最高値を更新した。
バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(BAML)の月例機関投資家調査を見ると、6月で最も集中した取引は5カ月連続で「FAANG」と「BAT」の買い持ちだった。FAANGは、フェイスブックとアップル、アマゾン、ネットフリックス、グーグルの総称であり、BATは百度(Baidu)、アリババ、騰訊控股(テンセント・ホールディングス)の頭文字だ。
FAANG銘柄の時価総額は3兆9150億ドルで、英株式市場全体の3兆3800億ドルをも上回っている。
BAMLによると、米ハイテクセクターの時価総額は6兆6000億ドルとそれ自体十分大きいが、国際比較をするとその規模の大きさには驚倒する。中国は7億3800万ドル、欧州は5億3300万ドル、日本は4億5200万ドルにすぎないからだ。
では今が1999年と同じコースをたどっているのか。その可能性はある。
ただし一部のアナリストが指摘するように、米国株の総リターンは20年前よりずっと低いし、バリュエーションは当時ほど膨らんでいないだけでなく、投資の動きはそれほど強烈ではない。しかし現在進行中の大型M&Aの熱狂ぶりは、十二分に警戒を要する。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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