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Koji Kawamoto - Conductor

指揮棒も楽器

2023.10.05 18:00

私は指揮棒にかなりのこだわり(と言うよりも、指揮棒を握っている時に気になること)があって、指揮技術の変化や指揮棒の理想に加えて、筋肉量や体格等諸々の経年変化と付き合いながら色々と試行錯誤した結果、今使っている指揮棒はタイプとしては10代目。つまり、過去に9回のモデルチェンジ(?)をしたことになります。 


指揮者を志したのが15歳から16歳頃のこと。当時住んでいた故里の楽器店には指揮棒が置いてなかったために、初期の頃は、吹奏楽部の部室に置いてある指揮棒を使ってみたり、菜箸を削って指揮棒を作ってみたり。子供なりに考え付く方法で指揮棒を手にしていましたが、初めて自分の意思で購入した指揮棒、つまり初代指揮棒は、たまたま知り得た指揮棒を作る会社の社長さんに電話して、子供なりの拙い言葉でイメージを伝えて作ってもらった特注品、グリップ(握る部分)のコルクを含めて長さ40cmのものでした。残念ながら写真が残っていないのですが、当時の無知な自分は「指揮棒の握りはコルクで出来ていて手のひら全体で握りしめるもの」だと思っていたので、初代指揮棒のグリップは直径2cm×高さ7cmの円筒型のコルクでした。(下の写真はカナダでメサイアを指揮した時のもので、この写真の指揮棒が初代指揮棒に近いタイプのものでした)

2代目も長さ40cmで、大きく変わったのはグリップの形。握りしめるもの、という考えは変わっていなかったのですが、円筒形のグリップで感じていたデメリットを解決するために、手のひらで包むとぴったり隙間のできない大きさの小茄子型のグリップを採用しました。


それ以降の指揮棒はグリップが小さくなっていき、長さが短くなっていくのですが、8代目までに採用した回数が多い長さは32cm程度、グリップについては現在使っている10代目と同じ形のものが多かったと記憶しています。


色々な紆余曲折(?)を経た結果、現在使っている10代目モデルは私自身にとっての最終形(だと信じているわけ)で、使用期間も歴代指揮棒の中で最も長い10年以上!というお気に入りの指揮棒( ↓ )です。

現在使っている指揮棒が過去のものと大きく違う点は長さにあります。グリップ部分を含めて26cm。上の写真で見てもその短さが伝わると思いますが、コンサートでの写真だとそれがより伝わるのではないかと思います。(この白黒写真は中国の貴陽交響楽団と幻想交響曲を演奏している時のものです)

ちなみに。現在使用している10代目指揮棒は、株式会社ナカノ指揮棒ブランド Pickboy のもので、型番FTK-150EB/WとFTK-150RW/Wの2タイプをその時々で使い分けていますが、限りなく10に近い9:1で前者(グリップがエボニーでEB)を使っています。(気になってサイトをチェックしてみたのですが、2023年10月現在、エボニーグリップは販売されていないようです…残念。。)


これまでに9タイプの指揮棒で試行錯誤しながら最終的に今のものに落ち着いたわけですが、一貫して守っていることのひとつは「その材質が木である」ということ。世の中に出回っている指揮棒の材質は(他にも存在するかもしれませんが、私が知る限り)3種類。木、カーボン、グラスファイバーで、木以外の材質のものは、折れることなく丈夫であるという理由を一因として人気があるようですが、私自身は折れることも理由に含めて木製の指揮棒を愛用しています。

指揮棒が折れる、折れやすい、ということは、何度も買い替える必要があって、とても不経済であるという意見も理解できますが、折れるということは身体に当たった時に、折れることで刺さったり、傷つけたりする危険を回避できる(可能性が高い)ということでもあります。(実際にカーボン製指揮棒を使っていて腕に刺してしまった指揮者がいて、それも1人ではありません)

木製の指揮棒を愛用しているもうひとつの理由。これは単純に私個人の嗜好の問題ですが、木から感じる温かみが好きだから・・です。家具、食器、建築などなど。メンテナンスという点ではコストや時間もかかるというデメリットはありますが、木で作られたものから感じるのは(温かさという言葉だけで表現するのはあまりにも陳腐ですが・・)総じてポジティブな印象であることが多いです。カーボンやグラスファイバーが素材としてダメだ!と言っているわけではありません。ただただ個人の好みの問題で、愛情を持てる素材だからこそ、使っていて自分の意志が相手にも伝わりやすいと感じているわけです。


今回の冒頭にも書いた、最も大切にしてきた「こだわり」

・・・それは「指揮棒も楽器」である!

という考え方です。


自分もいくつかの楽器を演奏するのですが、楽器を選ぶ時は、お店を数店訪ねて、そのお店にある(同じモデルであっても)複数の楽器を試奏して選ぶ。これが自然でした。

ところが指揮棒に関して、初期の頃はそういったことを全く考えず、自分が持つイメージだけで指揮棒を選んで、指揮棒に自分を合わせようとしてみたり、周囲の指揮棒を持つ人たちが特に何かを気にすることなく「お店にあるもの」を購入する状況に何の疑問を持つこともなく過ごしていたのですが、大学4年生の頃に、たまたま指揮棒の長さを40cmから36cmに短くしたことをきっかけに、指揮棒も自分に合うものを選ぶべきではないか?・・と考えるようになりました。(その36cmが4代目です)

そこから既製品、特注、自作を試しながら、9代目で26cmという長さに落ち着き、10代目でシャフト(棒)が細く、グリップも木製(エボニー)になることで自分の最終形が完成したわけですが、その間に、自分に合ったものを持たなくてはならない、という考えが定着し、それが「指揮棒も楽器」という考えを生み出しました。


9代目の指揮棒を使っていた2012年8月。所用で滞在していた島根県のとある町の楽器屋で運命的な出会いがありました。自分の高校時代のことを思えば、島根県の楽器屋に指揮棒の在庫があることそのものに隔世の感があったわけですが、その在庫の中にあったPickboy FT-150MH/WとFT-150BX/Wの2本がまさに「出会い」で、購入直後に迷うことなく9代目と同じ26cmの長さにカットした指揮棒が、自分の理想ど真ん中でした。


詳しい経緯を書き始めると更に長文になってしまうので詳細は割愛しますが、その後、株式会社ナカノのTさんという方にFT150モデルの大量注文したことをきっかけに、Tさんとお話する機会を設けていただき、その席で私が発した「指揮棒も楽器」という言葉に共感いただいたことから、26cmのショートモデルが誕生しました。

これが2012年から2014年あたりのこと。10代目を使い始めて10年以上が経ち、自分が使ってきたモデルとしては最も付き合いの長い指揮棒ということで、最終形と言ってもいいのではないか?・・と思っています。


「指揮棒も楽器」という言葉が含むこだわりとは、指揮棒を持つのに力が入らないこと→指揮棒を握るのに「必要な力」以上の力を使わないこと→自分の身体に合っている指揮棒で、握っていることさえも忘れてしまうくらい良いバランスであること、という漠然とした、やや矛盾しているように響く言葉なのですが、自分の理想とする音作りに必要なツールであり、曲によっては数時間休みなく指揮し続けなくてはならないこともある職業だということを考えると、指揮棒もこだわりを持って自分に合うものを楽器と同じように選定すべきであって、やはり「指揮棒も楽器!」なのです。