印象派革命11-牧神の午後への前奏曲
2023.06.05 11:29
1894年、ドビュッシーの代表作「牧神の午後への前奏曲」が初演された。この音楽は象徴派の詩人マラルメの「牧神の午後」という詩にインスピレーションを受けて作曲されたものである。2人は友人であり、この詩に音楽をつけて朗読する計画で「前奏曲」は最初の曲として作曲されたのだ。
その詩は、牧神(パーン)がニンフと戯れる有り様を幻想的に描いたもの、ドビュッシーは官能的なワグナー的半音階を進化させその情景を表現した。まさに絵画の印象派が情景を色彩で表現するように、そこには大きなテーマも起承転結のストーリーも何もない。
しかし実はテーマがないことそのものがテーマである。マラルメは、近代の目的主義の世界から離れ、人間が素朴で遊んでいた古代ギリシャの世界を描き、人間の原初の根源に迫ろうとした。近代に幻滅したゴーギャンがタヒチで原初の汚れる前の人間を描こうとしたようにである。
このもくろみは、1912年ニジンスキーによる牧神の午後のバレエによっていっそうはっきり実現する。このバレエで牧神はニンフのヴェールの匂いをかぎ、最後に自慰をすることで象徴的な性欲を表現したのだ。このこのバレエは、ギリシャの壺絵のように静的な美しさを表現してモダンバレエを切り開いた。