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花より桜餅

ノベルのトビラ ~経験という名の失敗~ 【1:4:0】

2023.06.07 15:16

原案 にょすけ様

イラスト 雨宮水ノ様

 

素敵な企画に参加させていただきました。

ノベルのトビラ企画ページはこちら↓

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キャスト

◆白銀ライト:男性、困った人間を放っておけない性格、わかりやすく熱い男

◆吾輩ちゃん:メス猫、語尾に「にゃ」がつく話す猫、お小言が多い

◆瑠璃(るり):女性、ライトがダイブした小説の中の登場人物、気は弱く優しすぎる一面がある

◆要(かなめ):女性、女子校の王子様的存在、瑠璃の親友

◆友達(先輩と兼ね役):友達…瑠璃の友人でやや毒舌 先輩…瑠璃の先輩、彼氏持ち

 

ーーーーーーー

 

◆あらすじ

ライトと吾輩ちゃんがダイブした先は現代の女子校を舞台にした恋愛小説の世界だった。主人公である瑠璃を手伝おうとする二人だがこの物語には大きな問題を抱えており・・・?

 

ーーーーーーー

 

白銀ライト:どわっ!いててて。

吾輩ちゃん:あーあー、だから言わんこっちゃない。

 

0:古びた扉から一人の少年と猫が飛び出してきた。

0:それは、そこから「出てきた」のか「戻ってきた」のか。

 

白銀ライト:言わんこっちゃない、だなんて言うなよな。

吾輩ちゃん:何回でも言うにゃよ。言わんこっちゃない、言わんこっちゃない、言わんこっちゃぁなぁーい。

白銀ライト:ああ、もう、うるさいな。

白銀ライト:お前は一言一言がとにかくうるさいんだよ。

白銀ライト:まだお前が物言わぬ猫だった時は、とにかく静かでそれはもう大人しかったのに。

吾輩ちゃん:ライト、静かで大人しかった、って言うのはおんなじ意味の反復だにゃ。

白銀ライト:とにかくそれくらい大人しかったって意味だよ!

吾輩ちゃん:そんなんじゃあ立派な「小説家」になんてなれにゃいわよ?

白銀ライト:いいか?吾輩ちゃん。

吾輩ちゃん:にゃによ?

白銀ライト:世の文豪のほとんど、特に芥川龍之介なんて、自分で表現したい言葉が足りないから自分で言葉を作ったほどだ。

白銀ライト:言葉に正解なんていつだって無いんだよ。

白銀ライト:言葉の正解はいつだって、その物語が作り出すんだから。

吾輩ちゃん:ふーん、ライトのくせに生意気なこと言うのにゃ。

白銀ライト:これでも「小説家」のたまごだからね。

吾輩ちゃん:ふふ、様になってきたじゃない。

 

0:「吾輩ちゃん」と呼ばれた白い猫は、ライトの周りをとてとてと回り、誇らしげに語る。

 

吾輩ちゃん:で、もー。

吾輩ちゃん:そう簡単に「小説家」になんてなれるかしらにゃー?

白銀ライト:またその話かよ。

吾輩ちゃん:何度だって言うにゃ。

吾輩ちゃん:物語の「扉」を開け、「プロット」という心に巣食う魔物と対峙してこそ

吾輩ちゃん:「小説家」は初めて「小説家」となりえるにゃ。

 

0:一人と一匹が飛び出してきた古ぼけた扉の隙間から煌びやかな光が漏れている。

 

白銀ライト:わかってるさ。

白銀ライト:何度だって僕はこの扉の先に潜り、物語の真髄を我がものにしていく!

吾輩ちゃん:でも、残念。さっき言い忘れてしまったことがあるにゃ。

白銀ライト:言い忘れたこと?

吾輩ちゃん:そうにゃ。

吾輩ちゃん:ライト、この「物語」の扉を開ける度にライトは大切な何かを引き換えに差し出すことになるにゃ。

白銀ライト:大切な何か?

吾輩ちゃん:そうにゃ。それはライトの身体の一部かもしれないし、目に見えない何かかもしれない、もしかしたら過去や未来や心のエトセトラかもしれない。

吾輩ちゃん:それでも、ライト、あなたはこの物語の扉をあけるにゃ?

白銀ライト:当たり前だよ。

白銀ライト:そこに物語がある。

白銀ライト:そこに誰かが心を求めてる。

白銀ライト:そして僕は「小説家」だ。

白銀ライト:何があったって、僕はその扉を抜けて

白銀ライト:物語を紡ぎ続ける。

吾輩ちゃん:……いい返事だにゃ!!

吾輩ちゃん:ならば少年よ、いいや!「小説家」よ!

吾輩ちゃん:こころのペンを取れ!

吾輩ちゃん:その胸を開き、すべての物語を汝の糧とするにゃ!

吾輩ちゃん:合言葉はいつだってこうにゃ!

吾輩ちゃん:「ボンボヤージュ」!よき旅を!

白銀ライト:あ、ちょ、ちょっとまってその前にちょっとメモを……

吾輩ちゃん:もう遅いにゃ!!!!!

 

0:吾輩ちゃんが少年を蹴り飛ばす。

 

白銀ライト:わ、わ、うわああああ!!

 

0:よろめき、扉の奥に吸い込まれる少年。

0:物語とはいつだって唐突に始まるものだ。

0:少年が取り損ねたメモ帳には、既にいくつかの言葉が記されていた。

0:そこにはひとつ、「後悔をするな」と言う言葉が残されている。

 

吾輩ちゃん:さてさて、かのオスカー・ワイルドは言ったにゃ。

吾輩ちゃん:「経験とは、誰もが失敗につける名前のことである」と。

吾輩ちゃん:この旅で少年は、どんな「経験」をするのかにゃ。

吾輩ちゃん:ふふ、さあ、「物語」がはじまるにゃ!

 

0:光の中に白猫も溶けていく。

0:光は次第に、光であると感じさせる事のないくらい白くなり

0:「それは、目次と呼ばれた。」

 

* * *

 

白銀ライト:ほわぁぁぁぁ〜!?っと!!ここは・・・?

吾輩ちゃん:学校だにゃ。ここが今回の物語の舞台にゃんね

白銀ライト:へー、舞台が現代なのか。割と珍しい。小説の題名は?

吾輩ちゃん:『醜い生き物』っていう短編にゃんね。

白銀ライト:へー。短編なら直ぐに書ききれるかも!

吾輩ちゃん:どうだかにゃんね・・・

白銀ライト:で?とりあえず何すればいい?

吾輩ちゃん:忘れたのかにゃん?ライトが物語を書き切るには主人公、いわゆる主役の子をサポートして完結まで導く必要があるにゃん。

白銀ライト:じゃあ主人公の子と接触しなきゃだな。

吾輩ちゃん:そうにゃんだけど・・・1つ問題があるにゃんね。

白銀ライト:何?

吾輩ちゃん:その子がいるココ、女子校にゃん

白銀ライト:・・・はい?

白銀ライト:くそ・・・なんでこんなこと・・・

吾輩ちゃん:男だってバレて守衛に追い出されるよりかはよっぽどマシにゃん

白銀ライト:だけど女装って!

吾輩ちゃん:いいじゃにゃいか。ライトは肌も白いし髪も長いんだからバレないにゃんよ。

吾輩ちゃん:ああほら、いたにゃん。見るにゃんよライト。

0:

要:瑠璃。瑠璃の卵焼き1個頂戴?

瑠璃:いいよ。

要:ありがと!私のところから瑠璃の好きなやつ1個取っていいよ!

瑠璃:ほんとに?じゃあウインナー頂戴?

要:お易い御用だって!

0:

0:

吾輩ちゃん:あの髪の長い女の子が主人公、瑠璃って女の子だにゃん。

白銀ライト:隣にいるのは?

吾輩ちゃん:友達の要って子にゃんね。

白銀ライト:ふーん・・・

吾輩ちゃん:どうかしたにゃんか?

白銀ライト:多分だけどさ、瑠璃って子、要って子が好きなんでしょ。

吾輩ちゃん:・・・根拠はあるにゃんか?

白銀ライト:何となく!見た感じそう思っただけ。

吾輩ちゃん:何となく、にゃんか・・・

白銀ライト:でもさ、主人公の瑠璃って子をサポートするってことは・・・、?どういうことだ?

吾輩ちゃん:ライト・・・お前はたまに勘がいいのか悪いのか分からないにゃん。

白銀ライト:お前が褒めてないことだけはわかった!

吾輩ちゃん:はぁ・・・。ライト。瑠璃って子が要のことを好きなら、その好きはどういう気持ちだにゃん?

白銀ライト:え?卒業まで一緒にいたい〜!的な?そんな感じ。

吾輩ちゃん:やっぱり気づいてなかったにゃんね。いいかライト。この物語の主題は2つあるにゃん。そのうちの1つが『同性愛』なのにゃ。

白銀ライト:ってことは、瑠璃って子は要って子のことを恋愛的な意味で好きってこと?

吾輩ちゃん:そういうことにゃ。

白銀ライト:なるほどね・・・いいじゃん!ってことは僕は瑠璃をサポートして要と両思いにさせればいいってわけね!

吾輩ちゃん:だめにゃ。

白銀ライト:え?

吾輩ちゃん:この物語は瑠璃が要への気持ちを伝えないっていう終わり方にゃんよ。

白銀ライト:はぁ!?

吾輩ちゃん:だから、この物語の結末はそういう風に決まってるにゃ。ライトが変えちゃダメなのにゃ。

白銀ライト:なんで。

吾輩ちゃん:なんでって言われても・・・、作者の意向、としか答えられないにゃん。

白銀ライト:そんなのおかしい!たとえ物語でも、そこに出てくる登場人物はその世界で生きてるんだ!

白銀ライト:彼らの思いを!行動を!作者でも簡単に捻じ曲げちゃいけないだろ・・・!

吾輩ちゃん:そう・・・。ライトがそう思うのは自由にゃんだけど、生憎、作者以外の「小説家」が物語の改変を行うのはご法度だにゃ。

吾輩ちゃん:物語には色々な結末がある。それはハッピーエンドじゃない時だってもちろんあるにゃんよ。だから、今回は控えるべきにゃん。

白銀ライト:・・・それでも、俺は諦めたくないよ。

吾輩ちゃん:(小声)ライトは、何も分かってないにゃんね。

白銀ライト:何か言った?

吾輩ちゃん:なんでもないにゃ。なら、ライトの好きなようにやってみるといいにゃ。そして、その結果この物語がどんな結末になるのかをきちんと自分の目で確かめるのにゃ。

白銀ライト:うん。絶対2人とも幸せにしてみせる。

吾輩ちゃん:・・・・・・できると、いいにゃんね・・・

 

 

0:〜翌日〜

友達:ねぇ瑠璃。要に彼女できたってマジ?

瑠璃:え・・・?

友達:いや最近要と話してるとさ、「彼女」って単語がよく出てくるんだよね。会話アプリとかでのやり取り見ながらガチトーンで「かわいい」って言ってたし、割とガチなのかなって。瑠璃知ってる?

0:

吾輩ちゃん:聞いたかにゃ?友人からの反応だと要にはもう彼女がいるそうだにゃ。

白銀ライト:じゃあ、ホントなのかどうか本人に確認しに行こう!

吾輩ちゃん:待つにゃ。よく知りもしない人が軽率に駆け出してプライベートな情報を聞くのは褒められたものじゃないにゃんよ。

白銀ライト:でも・・・・・・!

吾輩ちゃん:サポートっていうのはそういうことじゃないにゃ。あくまでも主人公は瑠璃なのにゃ。ここはライトが出しゃばる場面じゃにゃい。

白銀ライト:わかった・・・

0:

0:

瑠璃:要はあれが通常運転だもん。大丈夫だよ。それにまだホントのことって決まったわけじゃないし。

友達:まぁ、瑠璃がいいならいいけどさ・・・。耐えられなくなったら言ってよ?

瑠璃:ありがとう。

0:

吾輩ちゃん:ああほら、話が終わったにゃんよ。

 

0:友人と別れた瑠璃は1人、人気のない場所へと進んでいく。

 

白銀ライト:追いかける!吾輩ちゃん行くよ!

吾輩ちゃん:言うと思ったにゃ。

瑠璃:はぁ・・・・・・

白銀ライト:ため息なんてついてどうしたの?

瑠璃:ひぁ!?、貴方は・・・?

白銀ライト:僕は白銀ラ・・・あ、いやえっと、、(高い声で)ヒカリ!白銀ヒカリだよ!

瑠璃:ヒカリ、さん・・・

白銀ライト:(高い声で)そう!

瑠璃:私は瑠璃。遠藤瑠璃と言います。それで、ヒカリさんは私になにか御用でしょうか?

白銀ライト:(高い声で)ああいやなんかね、瑠璃さんと瑠璃さんの友達との話ちょっと聞いちゃって・・・

瑠璃:・・・・・・

白銀ライト:(高い声で)別に詮索はしないよ!?ただなんか、悩んでるって言うか、深刻そうな顔してたから気になって・・・

瑠璃:あはは・・・そんなに顔に出てたんですね私。

白銀ライト:(高い声で)瑠璃さんは気になるんじゃないの?要って人の噂。

瑠璃:そりゃあ・・・気にはなります。私は今まで聞いたことが無かったので・・・

白銀ライト:(高い声で)なら聞かなきゃ!本人に確認するのが一番確実でしょ?

瑠璃:そう、なんですけど・・・

白銀ライト:(高い声で)モヤモヤも晴れるし、その方が絶対いいよ!

瑠璃:・・・ありがとうございます。ちょっと考えてみますね。

 

0:瑠璃はライトに小さくお辞儀をするとそそくさとライトの横を通り過ぎて行った。

 

白銀ライト:ふふん!見たか吾輩ちゃん!優秀すぎる「小説家」だと思わない!?

吾輩ちゃん:どうだかにゃあ〜?

 

0:今まで猫の振りをして黙っていた吾輩ちゃんが話し出す

 

吾輩ちゃん:人間の心は、そう簡単なものじゃないにゃんよ。

白銀ライト:でも、この行動は間違ってないだろ。

吾輩ちゃん:そうだにゃ。間違っては、ないにゃ。

白銀ライト:なんだよその含みのある言い方。サポートできてるんだから何も問題ないよ。

吾輩ちゃん:そうにゃんね。じゃあそのまま夕方まで待つにゃ。

白銀ライト:うん。

 

〜数時間後〜

 

白銀ライト:おっ、やっと出てきた。もう夜だよ

吾輩ちゃん:ちょうど瑠璃と要が出てきたにゃんね。追うにゃんよ。

白銀:言われなくても!

 

0:一定の距離を空けながら1人と1匹は後をつける。

 

瑠璃:わざわざ遠回りさせるなんてできないよ。

要:いいからいいから。私が好きでしてる事だし。瑠璃のこと送らせてよ。

瑠璃:もぅ・・・・・・急に彼氏みたいなことするじゃん。

要:まぁね。今は彼女いるし。

瑠璃:え・・・・・・

要:あれ、言ってなかったっけ?

0:

0:

白銀ライト:・・・ねぇ吾輩ちゃん。アレ絶対無理してるよね?瑠璃の表情が固いよ。

吾輩ちゃん:そうにゃんね。要は気づいてないみたいだけど。

白銀ライト:要ってめちゃくちゃ鈍感なの?こんなにバレバレなのに?

吾輩ちゃん:そういうタイプの人だって一定数いるにゃん。

白銀ライト:でもあれは鈍感すぎでしょ・・・。瑠璃が可哀想になってきたんだけど。

 

0:小刻みに足を鳴らしていたライトは曲げていた膝を伸ばして起き上がろうとする

 

吾輩ちゃん:ライト。

白銀ライト:・・・何?

吾輩ちゃん:行ったらダメにゃん。行けばこの物語が破綻するにゃんよ

白銀ライト:でも・・・!

吾輩ちゃん:お前は物語を壊したいのかにゃん?自分が気に入らないからって物語を自分好みに書き換える気かにゃ?

白銀ライト:・・・・・・

吾輩ちゃん:神にでもなろうとでも思っているなら、今すぐにこの世界から出るべきだにゃ。

白銀ライト:・・・分かってる。分かってるよ・・・!

白銀ライト:でもこれじゃあ、「主人公」が浮かばれないじゃんか・・・!

 

 

0:〜さらに翌日〜

 

友達:で?瑠璃的にはどうなの?

瑠璃:どう・・・って?

友達:だから、要を他の女に盗られた感じあるの!?

0:

0:

白銀ライト:(小声で叫ぶように)そうだそうだ!友達の言う通りだろ!もっと言ってやれ!

吾輩ちゃん:ライト・・・、今のライトは友達よりも熱いにゃんよ・・・

白銀ライト:(小声で叫ぶように)別にいい!いけ瑠璃!取り返せ取り返せ!

吾輩ちゃん:うるさいにゃあ・・・

0:

0:

0:

0:

友達:いいじゃん。私は略奪愛だって別にいいと思ってるよ

瑠璃:駄目・・・だよ。だって、要あんなに幸せそうな顔してた。相思相愛の2人を引き裂くなんて私には出来ないよ・・・

0:

0:

白銀ライト:なんでだよ瑠璃!行け!押せ!

吾輩ちゃん:・・・う〜る・・・・・・さいにゃっ!!

白銀ライト:いだっ!!!!

吾輩ちゃん:全くお前は、いつになったらそのすぐ熱くなるクセを直すかにゃ!何度も何度も注意してるのに・・・

白銀ライト:・・・ん?僕、吾輩ちゃんからそんなの言われたことあったっけ?

吾輩ちゃん:・・・・・・・・・なんでもないにゃ。私の勘違いだったかもしれにゃい

白銀ライト:そうなの?猫にも物忘れなんてのがあるんだね。

白銀ライト:あっ待って吾輩ちゃん!瑠璃たち言っちゃう!追いかけないと!

吾輩ちゃん:・・・・・・

白銀ライト:吾輩ちゃん?

吾輩ちゃん:っ、なんでもないにゃ。行くにゃんよライト。

白銀ライト:あちょっ!・・・俺が言ったんだけど・・・

白銀ライト:どこに行った?

吾輩ちゃん:ライト!あそこだにゃ!

0:

白銀ライト:あれは・・・瑠璃の先輩?

吾輩ちゃん:みたいにゃんね

0:

0:

先輩:今日は1人?

瑠璃:はい。友達が誰もこの単位取ってなくて。先輩はこれから用事ですか?

先輩:そう。彼氏と会う約束しててね

瑠璃:そうなんですね!楽しんできてください!

先輩:瑠璃も要とお幸せにね〜♪

瑠璃:っ・・・、ありがとうございます。要はみんなに優しいからいつか他の子から刺されそうで怖いです

先輩:じゃあ要が瑠璃しか見ないようにしなきゃだ

瑠璃:あはは・・・そうですね

先輩:じゃ!私これで!また遊ぼーね瑠璃!

0:

0:

瑠璃:(ため息)

白銀ライト:(高い声で)・・・・・・瑠璃

瑠璃:っあ・・・ヒカリ、さん・・・。またお会いしましたね

白銀ライト:(高い声で)あのさ、なんでそこまで要への気持ち抑えるの?

瑠璃:・・・・・・

白銀ライト:(高い声で)ああいや、純粋な疑問。別に悪いとか言ってる訳じゃなくてね・・・

瑠璃:昔、私がまだ要と出会ってまもない頃、ちょっといざこざがあったんです・・・

瑠璃:私は、要の近くに居れていたって自負してました。でも、たった十数分の間にあの子は傷ついてしまった。止めることが出来なかった

瑠璃:だから、もう二度とあの子に悲しい思いをさせるのは嫌なんです

白銀ライト:(高い声で)でもそれは、自分を傷つけるだけじゃん!そんなことしたって瑠璃自身の心はずっと傷ついたままなんだよ!?

瑠璃:分かってます!でも、だからこそ私は口を閉ざすんです。それが一番、傷が小さいから・・・。

白銀ライト:・・・・・・

瑠璃:・・・心配してくれてありがとうございます。でも、私は大丈夫ですから。

0:

0:

白銀ライト:・・・吾輩ちゃん

吾輩ちゃん:・・・なににゃん?

白銀ライト:こんな結末に、意味なんてあるの?瑠璃はずっと要のために行動してきたじゃん!なのにどうしてそんな結末しか描かれないの!?

白銀ライト:「醜いアヒルの子」だって!最後は主人公が幸せになった!なら、主人公のはずの瑠璃が報われないのはおかしいでしょ!

吾輩ちゃん:・・・ライト。私は初めに言ったにゃ。この作品の主題はふたつあるって。

白銀ライト:・・・あぁ、言ってた。ひとつは「同性愛」

吾輩ちゃん:うん。そうだったにゃんね。そしてもうひとつは、「自己犠牲」だにゃ。

白銀ライト:自己犠牲・・・?

吾輩ちゃん:そうだにゃ。作者がそれを主題に書いている以上、ライトの思い描く未来にはならないにゃん。してはいけないにゃん。

白銀ライト:でも・・・!

吾輩:あの子の思いを、意志を、蔑ろにする気かにゃん?

白銀ライト:っ・・・

 

 

0:それから数日、ライトと吾輩ちゃんは瑠璃に接触することなく月日が流れる。流れが変わったのはとある日の夕刻であった。

0:あいにくの曇り。少し気落ちする天気の中、瑠璃は要と合流した。

0:また話しを聞こうと思った瑠璃であったが、突如要に掴まれたことに少しだけ動揺を見せた。

 

要:瑠璃・・・私、わたし・・・

瑠璃:何があったの!?

要:親に言われたの。『顔も見たこと無い子と付き合うなんてありえない。』『同性の恋人なんてどうかしてる。』って。

要:なんで何も知らない人にそんなこと言われないといけないの!?私が大事にしてる子を悪く言われなきゃいけないの!?

瑠璃:要!

要:っ・・・・・・!

瑠璃:要は悪くない、悪くないよ・・・。ただ好きな子と一緒にいたいだけだもんね・・・?

要:うん・・・!

0:

0:

要:・・・瑠璃、もう大丈夫。ありがとう。

瑠璃:お礼なんていいよ。慰めることしか出来なくてごめんね。

要:十分だよ。瑠璃はそういうのに偏見が無いから話しやすかった。ありがとう。

瑠璃:大丈夫だよ・・・。なんかあったらまた話して。アドバイスとかは・・・、できないかもしれないけど。

要:もちろんだよ。ありがとう瑠璃。

 

0:言いたいことを叫んでスッキリした要は申し訳なさそうに瑠璃に謝った。瑠璃の表情は笑顔こそ装っているが実に固い。

0:またね、と要が瑠璃の元を去る。もう振り返られなくなった頃合いを見て、ライトは瑠璃の元へ飛び出した。

 

白銀ライト:っ!瑠璃!

吾輩ちゃん:ライト!?

瑠璃:その声・・・ヒカリさん!?なんでここに・・・

白銀ライト:やっぱりおかしいよこんなの!まだ遅くない!今すぐ呼び止めて思いを伝えるべきでしょ!

吾輩ちゃん:ライト!もうやめるにゃ!

白銀ライト:吾輩ちゃんは黙ってて!ねぇ瑠璃。僕見たよ。要が泣いて叫んでる時、瑠璃ほっとしてたよね!?

瑠璃:・・・・・・

白銀ライト:本当は伝えたいんじゃないの!?要の1番になりたいってずっと思ってたんじゃないの!?

吾輩ちゃん:ライト!これ以上は・・・!

0:

瑠璃:・・・・・・もう、やめてください!!

白銀ライト:っ!?

0:(地響きと黒煙)

 

0:瞬間、瑠璃の身体から黒い煙のようなモヤのようなものが吹き荒れる。それは瞬く間に瑠璃の全身を覆い、そして呑み込んでいく。

0:目の前の様子に信じられないと驚きを隠せないライト。しかし吾輩ちゃんの様子はライトの逆。どこか悟った顔をしながら瑠璃を覆う暗闇とライトを見つめる。

 

吾輩ちゃん:来てしまったにゃんね・・・

白銀ライト:吾輩ちゃん!?あれ何!?何か知ってるの!?

 

0:わけも分からぬライトは吾輩ちゃんに尋ねる。吾輩ちゃんは大きくため息をつき、そして吐く。

0:ライトの犯した罪を。それによって生まれてしまった結末を。

 

吾輩ちゃん:ライト、お前は「小説家」として物語の「扉」を開けた。それまでは良かったにゃ。

吾輩ちゃん:でも、この惨状を作り出し、物語を破綻させようとしているのもまた、お前だにゃ、ライト。

白銀ライト:は・・・・・・・・・?

 

* * *

 

吾輩ちゃん:「プロット」を生み出す方法は3つしかないにゃ

吾輩ちゃん:ひとつは、書いた作者自身が結末に納得がいかず書き直そうとして生まれた「プロット」

吾輩ちゃん:2つ目は、何かしらの恨みにより、作者や「小説家」ではない第三者が物語を破綻させようと動いた結果生み出される「プロット」

吾輩ちゃん:そして3つ目は・・・、「小説家」が物語の結末に納得がいかず、作者を無視して改変しようとした結果生み出される「プロット」

0:

吾輩ちゃん:本来、この物語には別の「プロット」が生まれる予定だったにゃ。けれど、ライトが自分の信念を貫き通した結果、破綻する物語の結末へと導いてしまった

吾輩ちゃん:ライトのその長所でもある他人を放っておけない優しさが、今回は裏目に出た・・・ということにゃん

 

0:吾輩ちゃんは淡々とした様子で答える。詰まることなく答える様子は説明が1度目ではなかったのかと錯覚されるほどに流暢だ

 

白銀ライト:じゃあ・・・、この結末に行き着いてしまったのは、全部僕のせいだってこと・・・?

 

0:ライトの反応に吾輩ちゃんは首をひとつ動かすだけだった。

 

白銀ライト:じゃあ僕は・・・、今までなにをして・・・

吾輩ちゃん:自分を信じるライトの信念は確かに美点だにゃ。でも「小説家」として、今回のライトは赤点だったのにゃ。

 

0:吾輩ちゃんの言葉は、ライトに今の現状を、現実を見させるのに十分だった。己が過ちに気づいた時には、もう取り返しのつかない所まで来てしまったのだ

0:(警告音)

0:膝から崩れるライトに追い打ちをかけるかの如く、ライト達にしか見えないウィンドウが突如として表示される

 

瑠璃(?):予期せぬエラーが発生しました。修復を申請・・・失敗。これより、自動的に物語の『破棄』を行います

白銀ライト:なんだ、これ・・・!?

吾輩ちゃん:修復不可能なところまで物語が進んでしまったから、物語が自動的に物語自身を破棄しようとしているのにゃ

白銀ライト:そんなのって、そんなのってない!俺は確かに「主人公が幸せで」って望んだけど!こんな終わり方を望んでたんじゃない!

白銀ライト:吾輩ちゃん。もう無理なの?この物語を、瑠璃達を救う方法は無いの!?

吾輩ちゃん:・・・ひとつだけ、ひとつだけあるにゃ。

白銀ライト:何!?言って!

吾輩ちゃん:それは、「小説家」の能力を使って、ライトがダイブした記憶を全て消すことにゃん。ただ、それにはライトの精神力が大量に必要にゃん・・・

吾輩ちゃん:今のライトはただでさえダイブした影響で精神力が持っていかれてるにゃ。それに加えてさらにこの方法を使えば、最悪ライトは・・・

白銀ライト:いい!だから早くやり方を教えて!

吾輩ちゃん:っ!ライト・・・

白銀ライト:そもそもこの状況を作り出したのは僕だ。僕が責任を取らなくちゃ意味ないだろ!

白銀ライト:そこに物語がある。そこに助けを求めてる物がある。そして僕は、「小説家」だ!

白銀ライト:やっと気づいた。僕の自分勝手な信念が、魂を込めて書いた作者の物語より強いはずがない!

白銀ライト:僕は「小説家」だ。なら、「小説家」として、物語を第一に考えなきゃいけないんだよ!

 

0:ライトの眼差しは真っ直ぐに瑠璃へと向かう。ダイブしてきた時に見えたあどけない表情はもう居ない。覚悟を決めた「小説家」の顔だ

 

吾輩ちゃん:・・・分かったにゃん。ならば少年よ!心のペンを取れ!

白銀ライト:おう!

 

0:ライトの胸元から半透明の羽根ペンが生み出される。それはライトが握ると色がつき、灰色と黄緑色のペンへと変化する

 

吾輩ちゃん:この物語を思い出し!登場した人間に思いを馳せ!そして願うにゃ!

白銀ライト:っ!!!!要・・・瑠璃・・・この世界に生きるみんなを、、想う・・・!

吾輩ちゃん:今にゃ!

白銀ライト:コード挿入、『遡行』!・・・ごめん。絶対また、助けに行くから

瑠璃(?):コードを確認・・・、承認しました。「小説家」権限により巻き戻しを開始します

 

0:霧が黒から黄緑に変化する。突風が巻き起こりライトが留めていた前髪のクリップが外れる

 

吾輩ちゃん:1度戻るにゃんライト。もう一度扉まで戻ってやり直すにゃんよ

白銀ライト:分かった。絶対助けるから!だから!だからそこで待ってて、瑠璃・・・!

 

* * *

 

0:扉の先は異次元空間が広がっており、前方には微かに扉が見えた。

0:見渡す限り真っ白な空間は先程の轟音も相まってかやけに静かに感じられる。

 

吾輩ちゃん:っと、、いいにゃんかライト。ここを出たらまたあの物語に・・・

白銀ライト:ん?吾輩ちゃん何か言った?そうだ!今から行く物語はどんな世界なんだろう?楽しみ!

吾輩ちゃん:そう、にゃんね・・・・・・

吾輩ちゃん:いいかライト。お前はまだ「小説家」のたまごにゃ。無理は禁物にゃんよ。

白銀ライト:言われなくともそのつもり!

吾輩ちゃん:・・・・・・ライト。

白銀ライト:なに?

吾輩ちゃん:己が発言で取り返しのつかなきことにならないよう注意するにゃんよ。

白銀ライト:んー?吾輩ちゃんってたまに老人みたいなこと言うよね。大丈夫!いつだって正解はその物語の中だよ!

 

0:今までの記憶が全て存在している白猫は肩をすくめる。無垢なる少年と、もう一度0からのスタートだ。次こそは失敗する訳には行かない。

 

吾輩ちゃん:ライト、もうすぐ扉だから前を向くにゃ

白銀ライト:扉の開く音聞こえなかったしまだもうちょっと距離あるでしょ・・・って、うぇぇえ!?

 

0:既に開いていた扉の段差につまずいたライトは転げるように扉に吸い込まれ、そして・・・