「〇〇と言われるかもしれない」は妄想
こんにちは、
精神科医の諸藤えみりです。
今日は
「他人からどう思われるかを
考え出すと、
身動きが取れなくなる。」
というお話をします。
コロナが渦中だったときの話です。
感染対策で入院患者さんの
外出や外泊が
難しい時期がありました。
精神科に入院する場合、
約3か月間の入院になることが
多いです。
その間
外出や外泊ができないのはつらい。
患者さんたちは我慢しています。
でも、
「クリスマスや年末年始、
誕生日は家で過ごしたい。」
と、皆さん言います。
そりゃそうですよね。
入院されている1人の方から
話しかけられました。
(主治医は別の先生です。)
「お正月の外泊は
難しいのでしょうか。
1日だけでも
家で過ごしたいんです。」
この方、病状は落ち着いています。
わたしは
「病院の感染対策次第ですが、
許可が出るかもしれません。
主治医の先生に
聞いてみてはどうですか?」
と、言いました。
この方はゴニョゴニョ言います。
「いや、あの、
入院されている方は
みんな
外泊したいと思うんですよ。
もしわたしだけ許可が出て
外泊するとします。
外泊中
『あの子だけズルい。』
って言われないですかね?
そう思うと
踏ん切りがつかないと言うか…
皆さんが納得してくれる形での
外泊にならないですか?
わたしはもう少しで
退院が決まっています。
『退院前外泊』
の名前になりませんかね?
ただの外泊じゃない。
退院前の外泊。
『退院に向けての外泊なら
仕方ない。』
と、皆さん思ってくれると
思うんです。
もし『退院前外泊』の名目に
ならないのなら、
外泊を諦めます。」
わたしは
「友達を作るために
入院しているわけではない。
ましてや、
ここで知り合った人と
一生付き合わないといけない
わけでもない。
だったら何を思われてもいいのでは?
自分は外泊をしたい。
言い訳せずに
『外泊したいです。』
だけでいいのになぁ。」
と、思いました。
でも、
「人から嫌われたくない」
が頭に鳴り響いている方は
難しいのも分かります。
「自分がしたいこと」
よりも
「他人からどう思われるか」
を優先し、
身動きが取れなくなります。
この方の場合は
外泊を諦めてしまいます。
偉そうなことを
思ってしまいましたが、
わたしもできないときがあります。
たとえば、
職場の飲み会で
可愛いお洋服を着ていきたい。
でも、
『あんなにオシャレしちゃって。』
『気合い入ってるねー。』
と、言われたくない。
「〇〇と言われたくない。」
を優先してしまい、
自分の着たいお洋服を着れません。
何を着たらいいのか
分からなくなります。
実際に言われるかどうかは
分からないのに、
頭の中で繰り広げられる
他者の言動に
振り回されるのです。
この方は主治医から
『退院前外泊』の名目をもらい
外泊されました。
わたしは
「外泊できてよかったですね。」
の気持ちと、
「結局、言い訳つきの外泊か…」
という残念な気持ちが
半分半分。
もしこの方に次の機会があるならば、
ただ
「外泊したいです。」
と言えたらいいなと思います。
だって、
「〇〇と言われるかもしれない。」
は妄想だから。