Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

小説 op.5-02《シュニトケ、その色彩》中(二帖) ②…共犯者たち。

2018.06.29 23:22









シュニトケ、その色彩

二帖









「知ってる?」なんであんなに女ばっか、「何人目だと思う?わたし、」はべらしてんのに「妊娠するの。最初は」…さぁ、ね。「十八歳のとき。ほんと、」なんでパパ、子どもが一人も「子どもだったんだけどさ。もう…」いないのって「いまや、結構、」…ね、「年、取っちゃったけどね」なんで?「…ね?」なんで?って、「何人めだと思う?」思わない?

「いるの?…」***だもん。…ね?「こども、いたの?」知ってた?

駄目なの、あいつ「いないよ。ぜんぶ、」笑っちゃうよ。ママも「堕ろしたもん。」そう、だからさ、ママ

「何人?」

もう何年もさ、「四回目?…」…ね?「やばいよ。」*******「知りたくなってくる。」笑っちゃう。*****「何回堕ろしたら、妊娠しなくなるんだろう?」****************************「もう、生めなくなってるのかな?」つぶれてんの。入り口んとこで。「…ね?」けど、ね。けどさ「受胎しかできなくなってたり?…ね?」本人、入ってる気なの?「どう思う?これ、この子、」****。あいつ「処理したら、次、」*************「次は本気に作ってみる?」**********

「何を?」…思うよ。まじで

「まだ、見たことのない風景。」********「何が、生まれると思う?」…ね?笑った加奈子の息が私の鼻にかかる。私はその匂いを嗅ぐ。魚の骨に付着したような匂いがある。制裁します、と言った皇紀に先導されて、「あなたも、見ますか?」

赤坂の事務所ビルの地下に入って、監禁されたミャンマー人を見たときには、もう、彼らと出会って三年近くたっていた。もう一人の妊娠を加奈子が処理した直後だった。私の種かも知れず、ほかの男の種かも知れなかった。殴打され、リンチの果てに、文字通り血反吐に汚れた一人の男が、全裸に剥かれたままで崩れるように体をくの字に曲げていた。二人の男がミャンマー人を監禁していた。彼らは確か、カンボジア人と、フィリピン人のはずだった。彼らは桜桃会の軍服を身に着けて、汪に与えられたピストルを腰にぶら下げていた。三人とも桜桃会の会員だった。汪はやりたい放題だった。何が起こっても、名義は汪ではなかった。忠誠を誓わされた従者たちは彼のために刑期を勤め、汪は法的には一切存在さえしないままに、気まぐれに彼らを支配した。或いは、支配する気もなく、ただ、かわいがってやるだけなのかもしれない。何を強制するわけでもなかったのだから。汪の下僕たちは、彼に対して自由を放棄することによって、自由を獲るのかもしれなかった。あるいは、汪の金で建築事務所を作った私と同じように。









腐った血の匂いがした気がしたのは、気のせいかも知れなかった。もはや焦点のあわない眼差しが皇紀を認めると、ふらつきながら、それでもミャンマー人は立ち上がった。彼は歯が折れていた。顔は腫れ上がって、原形をとどめなかった。華奢な皇紀がこんなことをしでかすとは思えなかった。あなたが?言った私を、皇紀は振り返って、「…え?」あなたたちが、これを?「これからですよ」と言った皇紀は木刀で、ミャンマー人の身体を文字通り破壊した。ミャンマー人はかたくなに倒れない。たったまま、文字通り血反吐を吐く。十代の頃、必ずしもまじめだったわけではなくて、犯罪まがいのことばかりしていた私でさえ、初めて本物の暴力を知った気がした。私が体験した暴力など、ただの男のたちの行き過ぎたスキンシップにすぎなかった。骨がへし折れる音を聞き、内側で内臓が潰れ、破れた血管が好き勝手に筋肉の中に血をぶちまける音を聞いた。何をしたの?耳打ちした私に、フィリピン人は「寮に行きました。」りょにきまった。表情を無理やり無表情に「誰が?」維持し乍らその「大津寄主将が」おおつきすそうが 内面で何かが「見ました」戦っていたが、それは「何を?」葛藤とはいえない。「ビデオ。女の人の」彼は彼が拒絶しようとする「アダルトビデオ」何かの噴出を押し留め「見ましたから、制裁します」何かから逃げようとし乍ら「それだけ?」耐えている。「たった、」ただ、直立して。「それだけ?」部屋に行ったら、彼はポルノ商品所有してて。駄目だから。私たちは。そう言うのは「規則なんですか?」制裁に一と段落つけて木刀の血をカンボジア人に拭かせる皇紀に「そういう、」言うが、…いいえ。言って振り向く皇紀は「規則とか、そんな…」一瞬、噴き出して笑い乍ら「あたりまえでしょう?」早口に口走らせるが「恥でしょう?穢いものに触れて、」私をとがめだてはしない。「それで国が守れますか?」

「国を守る気ですか?」

「当然。」フィリピン人が容易した真剣を抜こうとした瞬間に、「ちょっと待って、」思いなおして「すみません、…ね、あの、…ね?」皇紀は言う。「冗談だと思ってたんですか?」半分抜いた刀身が光っているのを、確かにそれは美しい。「桜桃会を?」美しく、痛い。「いいえ」私は曖昧を許さない皇紀の直視した眼差しに、そう答えるしかない。不意に皇紀は一度おさめた刀を神棚の前に立てかけて、私に一瞬眼を走らせたあと、自らの軍服をはだけた。上着の中のシャツの色彩の白が飛び込んできたのを確認するすきもなく、外されるボタンが皇紀のさらしを巻かれた上半身をちらつかせ、はだだけさせられた軍服の中で、やがて外されたさらしは皇紀の豊かな乳房と、腹部のあきらかに女性的な曲線を曝した。フィリピン人もミャンマー人もまっすぐに正面を向いて、起立したまま、皇紀の背後で痙攣しているミャンマー人の体の上に投げ捨てられたさらしは、すぐさま血をすった紅に汚れる。

美しく、扇情的でさえある、あからさまな女の身体だった。どうやって隠し通していたのだろうだと、違和感さえ感じ、軍服を両手に開いて、皇紀はフィリピン人に言った。「見ろ!」皇紀の叫び声は「何が見える!」空間をひりつかせ、「言え!」震えた空気は反響する。「何も見ません」叫んだなにもみまてんフィリピン人を皇紀は殴った。ありがとうございます、と叫んだフィリピン人の鼻から ありがとごじゃいまっ 鼻水が散る。「嘘だ!」皇紀が叫ぶ。「見ろ!」カンボジア人は「何がある!」寧ろ天井を見上げて「何を見る!」背中を震わせ乍ら、「女!」叫んだ瞬間に彼は皇紀に殴打され、くの字に曲がったからだの頭部は蹴り上げられて、止まない皇紀の制裁を留めるものは居ない。息も切らさない皇紀の一方的な暴力が、カンボジア人の意欲の全てを削り取った時、彼は雑巾のように倒れて、泣きじゃくっているに過ぎなかったが、むしろ、彼がどうしようもない高揚感に包まれて、恍惚とさえしていることが、私に眼を逸らさせた。「冗談じゃないんです。」振り返った皇紀がわたしにそう言っているのは知っていた。淡々と「本気なんです。冗談じゃ、」そして私は、「…何もできない」皇紀から眼をそらしたまま、「死にたいか?」言われたフィリピン人が、「死にます」叫んだとき、しいまっ いつか汪が言った。死にたいですって答えちゃ駄目なの。笑いながら彼は、桜桃会だと、たい、駄目。思います、駄目。です、ます。…それだけ。「…待て」やさしく、皇紀は諌めるようにつぶやき、もはや残骸でしかないミャンマー人の腹を殴って、「お前は!」叫んだ小柄な皇紀を彼は見上げる。ミャンマー人が、まだ息をしてるのが不思議だった。言葉も発せない彼は、ついに、倒れるようにひざを折りながら皇紀の足にすがりつき、必死に何かを乞うたが「立て!」叫ばれる前から、彼はそれを求めていた。転がり落ちそうになりながら彼の手は皇紀を放さず、すがりつきながら立ち上がろうとし、それは最早凄惨な苦闘にすぎなかった。両腕がでたらめに痙攣し乍ら、ようやく皇紀にしがみつき、その腕が皇紀を抱きしめ、血にまみれた泥色の黒い顔がその真っ白い乳房に埋まる。荒い息を間歇的に上げ続ける。唾がたれ、血があふれる。私は息を止め、そして何秒か数えたその瞬間、皇紀は彼の髪を引っつかんで引き剥がす。彼の眼差しが何かを見つめた。フィリピン人が差し出した刀を引き抜くと、皇紀は当てた首を一気に引いた。火が噴き出して皇紀を染めつくし、血しぶきを浴びながら皇紀は首を落とはじめた。確実に絶命していた。私は身を丸めて吐き乍ら、確実に今、彼らは私を軽蔑したに違いないという屈辱感に苛まれたが、彼らの視界にさえ、私はもやは存在しなかったのだった。

来て、…ねぇ。

「来てよ」と、その加奈子の声を不審に思って、どうしたの?「来てよ」わたしはその時、まだ皇紀を強姦したわけではなかったし、瑞希もカンボジアに逃げ出しもせず、汪もまだ生きていた。夏だった。桜桃会の夏合宿が終わってすぐ、「どうしたの?」その電話の後で、スペアで鍵を開けて、入った加奈子の自宅の部屋の中で、彼女が床の上に仰向けに倒れているのを見つける。…やられた。加奈子は言った。かすり傷がある程度だった。服は引き裂かれるように剥ぎ取られて、そこらじゅうに転がっていたが、カーペットの上に横たわったまま、「桜桃会だよ。あいつら、」泣きそうだった。いきなり、「ねぇ、殺してやっていい?」でも、さ、知り合いじゃん、で「なんか、十人くらい」話し合おうかなって「ほんと、むかつくんだけど、」なんだろ。悲しいけど、なんか、「来たんだけど。」いまいち、

…ね?





むかつけなくてさ「あいつら、ほんとに。」やらせてやったよ。なんか「外人ばっか。…薄汚くてさ。あ。」哀れに為ってくるの「…独りいた。日本人も。本田だよ。あいつ、」自分が、なんか、かわいそうでさ「皇紀なんか、あいつ、来もしなかったけど」わかる?「あいつ、くそ。」わかんないよね?「皇紀だよ、絶対、わたし、」またしも「まじで、あいつはくそ」わかんないもん?何言ってんの?「やらせたの、絶対あいつ」わたし、と、いつの間にか茫然としながら言葉を呟き始める加奈子の頭を撫ぜてやり乍ら、部屋の中は乱れていた、実際には、加奈子は相当暴れたに違いなかった。叩き割れたグラスや皿の破片が散乱し、ひっくり返った椅子の足が、液晶テレビをひっくり返していた。外れかけたカーテンが雑な反射光を床のカーペットの上に投げていた。彼女の背中は床全面に張られた白い毛の長いカーペットの触感を感じているに違いなく、それは、一番町の池の周りの古いマンションの高層階だった。建物の古い上品さと、ののしる加奈子の猥雑さとがちぐはぐで、私はカーテンを手繰って、外の池を見下ろした。「お前、やらせたろ?」呼び出した加奈子に詰問されるが、いいえ、と、皇紀が答えたのはその一言に過ぎない。何人、殺したんですか?言った私に「…お前以外にいないから」四人くらい?

「お前がやらせたんだろ?あいつらに」

皇紀は「あいつら、」本当にやったんですか?加奈子に問い返したが、口答えすような返し方に、寧ろ扶美香は声を立てて笑った。…でも、外人ばかりだから。皇紀がそう答えたのは、あの制裁の直後だった。「姫を、本当に、強姦したんですか?」…あ、でも。「誰が、ですか。誰と、誰と、」日本人も居ますけど。「誰ですか?」名前を挙げる加奈子の、そして彼女に挙げられた会員たちは皇紀に呼び出されるのだが、「大丈夫ですか?もう、社長には」悪い枝は、切ってあげないと。でしょ?「姫に何かあったら、」変な意味なんかないです。ただ「社長が悲しまれますから」全体を良くするため。血にまみれた体にそのまま、血に汚れたままのさらしを巻き、皇紀はそう言った。「パパ、知ってるよ」

「何と、おっしゃってましたか?」

「あんたに任せるって」…そう、と、独り語散るように言った皇紀の伏目がちな眼差しが、少なくとも何かに本当に悲しみを感じているには違いなかった。責任取ったら?あんたが。扶美香が言った。どんな?問い返したのは加奈子で「ハラキリ。決まってんじゃん。右翼でしょ、あんたたち」声を立てて笑い、皇紀は言った。いいですよ。いつでも。切りましょうか?いま。加奈子が怒りに燃えているわけではないことは知っていた。面白がっている気さえした。呼び出された会員たちの顔を加奈子は見詰めることができなかった。顔を伏せたまま、そっぽを向き、その瞬間、ほんとだったんだ、と扶美香は呟く。









本当にやったのなら、貴様ら一人ひとり、おれが斬る。皇紀が言った。「やったのか?」独り一人問いかけられる彼らはすべて、はい、とただそれだけ答えた。彼らは一列に並ばされ、その前に立った皇紀が一番背が低く、男装し乍らも、誰もがその性別は一と目で見破れた。分かった、と言って背後に回り、刀を抜いた皇紀は微笑みさえしていた。それが一瞬で消え去った瞬間に振り上げられた刀が彼らの背中を打っていった。すぐにそれが峰撃ちに過ぎないことは気付いた。とはいえ、鍛えられた鉄で肺のうしろ強打された彼らは息を詰まらせて、直立を維持しようとするが、体は捻じ曲がる。制裁を終えた皇紀は加奈子を振り向き見、「彼らは嘘を言っている」

「まさか」

「彼らは卑怯な嘘つきに過ぎない。姫に指先一本触れる度胸などありません。」…以上。言って、皇紀は勝手に立ち去って行った。十人の男たちが息を整えようとする深呼吸の音が、交互に響き、加奈子はソファーにうなだれて顔を上げない。恥ずかしかったからよ。加奈子は言った。決まってんじゃん。「子どもの頃、…ね?」恥ずかしくって、…ねぇ、当たり前だよ?「何になりたかった?」どの面下げてって…あいつら、「わたし、意外と」みんな見たんだよ、みんな、「でも、本気じゃなくて、」本当にそう思った。…ねぇ、わたしを、「なれたら程度、というか」あいつら、やったんだよ。あんたたち、「でも、本当はね、…」どの面下げて、「…嘘」…って、分かる?「すっごい憧れた」逃げ出したかったよ。…ね?「憧れた職業は…ね。…」泣き叫びそうになった、振るえたもん。「聞く?」まじ、「笑うよ」わたし、…ね?耳打ちされたその職業の名前は聞き取れなかった。麻里子はわざと私に体重をかけて、髪の毛が重なりあうにまかせ、…見て。言った。スカートを少しだけはぐってみせ、厚手の黒いストッキングの太ももの内側を指して、「電線してんの」声を立てて笑う。渋谷の雑踏は、人であふれた。麻里子が私を愛していたことは知っていた。明け方目覚めて、苦痛にうめきながら私に強姦された皇紀は立ち上がって、川沿いの土手を歩いた。「やぁだって感じ」鼻で笑って麻里子はストッキングの小さな穴に爪の先を突っ込み、むしろ広げて、全裸の、泥と血にまみれた女がふらつきながら歩くのを、通りがかる全ての人々は目に留めたが、寧ろ咎めるような眼差しが女に向けられた。「指、入るかな?」笑って言う麻里子の髪の毛の匂いと、その体臭を気付かれないように嗅いで、人々は女を見たが、何も関わろうとはしなかった。気付かれたに違いなかった。麻里子には、大丈夫?声をかけそうになった男が独り語散るように言った音声は彼の口元で鳴っただけだった。何もかも、ばれているに違いない、と、麻里子には。そう思い間ながら、その当時女が借りていた日野市のマンションまで女は自分で帰った。その思いが事実であることを、駅前を通り過ぎ、交差点を横切る。私は願ってさえいた。全て、通報された警官が、困るんですよ、そんな格好、言って、全て麻里子は気付いているのだ、と、女は警官を無視してマンションを上がった。私の気持ちにも、言いだせない、私の、警官はマンションのエントランスに待機して、誰かと連絡を取った。真意、私の気持ちのその、部屋の中に入った皇紀は部屋に倒れこみ、全てを、麻里子は知っていると、ふたたび意識を遠のかせながら皇紀は、そうに違いない、と、自分で救急車を呼んだ。「戦争しなくなったら、人間は終り」と汪が言ったとき、私たちは桜桃会の合宿の視察に出かけていて、なぜ、汪が私などに興味を持ったのかわからなかった。「薫さんと一緒に、いっぱい、殺したけどね、本当に、」独立を進め、金を用意し、「銃を向けて、殺すんだよ、」…ね?彼は私を金で買ったのだが、建築に対して「分かる?やったことないでしょう?いま、」なんの興味ももっていない汪にとっては、「日本人は。」必ずしも有益な事業とはいえない新規分野に手を出す必要などもとからなかった。「戦争って、人間の仕事。人間らしい仕事。人間以外には」日差しの向こうで桜桃会の外国人たちは「できないよ。人間以外には、」でたらめな「しない。…でしょう?」彼らの軍服を着て「だって、…ね、いつも考えるよね。」匍匐前進する。「犬も猫も子ども、生みます。でも、」高尾山の山の中の斜面を「戦争するのは…」飛べない蛙のように這う。「違う?そうだよ」彼らは結局、と「…ね、人間だけ。生きるために戦争なんかしないよ。」私は言って、なんで桜桃会なんかに「戦争しなくても食えるよ。」参加したんですか?実際、「いっぱい食いました。」外国人なんでしょう?笑った汪が「食えれば死なないよ。食えないからするのは一揆だよ。革命だよ。」知らない。けど、彼らは「残酷だね、本当に」好きだよ。あれを「一揆はただの貧乏人の僻みね。食えないからね、」やるのが。訓練、鍛錬、…ね?「まぁ、ね、食えもしないのに戦争なんかできないよ。あなた、」ぼくは何も言わない。あのこたちが「…ね?食える奴等が理由つけて始めるのが戦争よ。」自分で考えてやってるよ。加賀恭一と言う名の「いいよ。」自衛隊の下士官が「しなさい、できるなら。」皇紀たちを指導した。背の高い彼の「面白いよ。こんな毎日なんてつまらないよ。薫さんと…」甲高い声は、一度聞いたら「…戦争できるなら、なんでもしなさい」忘れようのないある奇妙な「私も、ね、薫さんと一緒にベトナム人いっぱい殺したけど、」女性的なわめき声に似て、彼らを「戦争だったら、何でも」鼓舞し、彼らは「ね?なんでベトナム戦争に負けたと思う?」土と泥にまみれた。「駄目。」いいひと、よ?「どう?アメリカ人、」汪が言った。加賀先生ね、「駄目に決まってるよ」とてもいい人、やっぱり「戦争なんかしてなかったから。韓国人と私たちだけだったら、ベトナム、」専門家だからね、ちゃんと「カンボジア、あそこも、ね、…全部。…」訓練してる人だから。日本人「広いよ、世界は。まだまだ、世界は」まじめだしね、「全部わたしたちのものになったよ。」きびしいけど、やさしい「広いよ、とても、」…好きよ、ね?「本当に、でも」みんなね、「薫さんかわいそうだったよ。75年にね、」尊敬してるからね、言うことが「できるんだよ、まだ、戦争なんか、」すごく役に立つ。もったいない。「もう戦争なんかなくなってて、どこにもなくなっててね。あとは」本当にもったいない。「戦争なんかいくらでもできるのに、どこででも、」あんな兵隊、アメリカなんかに「でも、待ってる。終わるの、」いないよ、「待ってるだけなの。誰も戦争なんかしてない。」どこにも、中国にも「薫さん、見捨てたね」朝鮮にも、見てごらん、「アメリカもベトナムも見捨てたよ。」北朝鮮なんか。あんな貧乏人の家畜に戦争なんか「パイロットよ。爆弾。いっぱい落としたよ」できないよ「…どう?」紹介された加賀恭一は極端に礼儀正しい軍隊風の挨拶をくれる。身のこなしも何も、角ばらなければ気がすまないきびきびとした恭一を、私は軍人のカリカチュアのように眺め、笑んだ私の眼差しを「どうしました?」恭一が言ったとき、彼はまだ三十代にもなってはいなかった。

…でもね、と、やがて汪は耳打ちする。駄目、まだ。人、殺したことないから。恭一の指示を出す声は空間に響いて、もとからのボーイソプラノのような声は、誰かがいつか彼の喉を壊してしまったからだろうか?日に灼けた、樹木を粗く掘ったような顔と、その声の間との違和感を埋め難く「裏切り者ですよ、わたしは」恭一は笑う。「自衛隊を裏切っています。」歯をかみ合わせるような彼のしゃべり方が、「だって、」耳に残る。「反政府ゲリラですから」汪は声を立てて笑って、「いまは、ね。いまは、まだ、そう」いえ、いえいえ、いいえ、…ね?恭一の交互に「いや、それでいいんです」私と汪を見る快活な「志があるやつは、みんな最初は反政府ゲリラです。」眼差しが、そして「明治維新だってそうでしょう?」皇紀は彼の傍らに起立していた。それはよく知らない、「…ね?」汪は、加賀先生は私の歴史の先生。いっぱい話すよ、二人で、と、「見てる?」

「何を?」