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紅く色づく季節

かわいいに憧れて

2023.06.15 03:56

【詳細】

比率:男1:女1

現代・ラブストーリー

時間:約10分


【あらすじ】

かわいいって何だろう……

かわいくなくちゃダメなのかな……



【登場人物】

香奈:(かな)

   20代。

   背がちょっと高くて、仕事が出来る女性。


拓海:(たくみ)

   20代。

   香奈とは古い付き合い。



●居酒屋・夜

   少し奥まった席に香奈と拓海が座っている。


香奈:(お酒を飲む音)

拓海:おい、ちょっとペース早いぞ

香奈:ほっといてよ。大体、私がこれくらいじゃ潰れないの知ってるでしょ?

拓海:まぁ、そうだけど……

香奈:それとも何? 女なんだからもっとおしとやかにかわいいお酒でも飲めって?

拓海:……

香奈:(お酒を飲む)ふぅ。やっぱりハイボールには揚げ物よね。あとは何頼もうかな~

拓海:……

香奈:拓海は? 何食べたい? ってか、グラスの中身なくなりそうじゃん。次、何飲む? あ、二人でボトルでも入れちゃう?

拓海:……何があった?

香奈:え?

拓海:だから、何があったんだよ?

香奈:別に? 何もないよ?

拓海:(ため息)何年の付き合いだと思ってるんだよ

香奈:何が?

拓海:お前がそうやって強い酒をあおるときってなんかしんどいことがあったときだろ?

香奈:……

拓海:で? 何があったんだよ? 別に、言いたくないなら無理に聞こうとは思わないけど

香奈:……

拓海:話してお前が楽になるなら聞いてやるよ

香奈:……私って女として見れる要素ないんだって

拓海:は?

香奈:だから、私は女として見られないんだって!

拓海:それ、誰が言ったんだよ?

香奈:同じ会社の先輩

拓海:それって男? 

香奈:男……

拓海:……ふ~ん……

香奈:まぁ、仕方ないよね。女子にしちゃ背がでかいし

拓海:何センチだっけ?

香奈:168センチ

拓海:そこまででかくないだろ?

香奈:でかいでしょ? ヒールはいたら170センチ越えだよ? それに、かわいい声でもないし

拓海:かわいい声って?

香奈:かわいい声はかわいい声だよ

拓海:具体的には?

香奈:う~ん……高くて綺麗で……鈴が鳴るような……

拓海:はぁ? なんだよそれ

香奈:と、とにかくかわいい声はかわいい声よ!

拓海:ふ~ん。確かに、その条件でいくとお前の声はかわいいではないわな。どっちかっていうと低くていい音だし……

香奈:……

拓海:何だよ?

香奈:……別に。(ため息をついて)あとは、かわいい服とか着られないし……

拓海:(吹き出す)は?

香奈:は?

拓海:いや、かわいい服ってなに?

香奈:え? そりゃ、スカートとか……

拓海:いやいやいや、今はプライベートじゃなくて、仕事の時の話だろ? 仕事場で可愛いとか求めない

香奈:いや、そうだけど……

拓海:仕事は動きやすいのが一番だろが

香奈:そりゃそうだけど! ほら、ちょっとした可愛さっていうか、さりげない可愛さとか……可愛さにもいろいろあるじゃない!

拓海:いや、わからん。仕事は仕事だろ

香奈:でも、いつもパンツスタイルの女より、スカートとかはいてて、ちょっとふわっとした女の子の方が男性陣だって好きでしょ?

拓海:さぁ? 俺にはその理屈はわからん

香奈:そういうものなの!

拓海:へぇ……

香奈:何よ興味なさげに! どうせどうせ!

拓海:あとは?

香奈:え?

拓海:他にはなんか言われた?

香奈:はぁ? なんで?

拓海:他にもなんか言われたんだろ? 

拓海:じゃなかったら、ここまで荒れないだろう?

香奈:……(うつむく)

拓海:ほれ、ここまで吐き出したんだ。全部言え言え

香奈:……私は一人でも生きていけそうなくらい強い女なんだって

拓海:……

香奈:笑っちゃうよね。全く、私の何を知ってるんだっての……

拓海:……

香奈:私は強いからどんないじり方しても平気だろうとか、香奈さんは出来る人だからどんな仕事でも任せて大丈夫とか。しまいには自分より仕事ができる女はむかつくから無理とかさ。ほんと笑っちゃう

拓海:……

香奈:……仕方ないじゃない、背が低くてかわいらしい子みたいな反応なんてできないもん。こんなでかい女がそんな反応したら引くでしょ? だったら、笑って受け流すしかないじゃない

   どんな仕事ふっても大丈夫とか、本当に勝手。見た目で仕事できそうとか。こっちは必死なのよ。女としての武器が使えないんだから、違う武器で対抗するしかないじゃない

   自分より仕事が出来る女は嫌とか、何なのよ。自分たちが仕事を押し付けてきた結果でしょ!

拓海:そうか

香奈:私は……私は……

拓海:辛かったな

香奈:っ!

拓海:お前は何にも悪くないのにな

香奈:私……

拓海:本当にお前の周りはお前のこと見えてないな

香奈:え?

拓海:上辺しか見ないくせして、わかったふりしてお前を非難してる

香奈:……

拓海:服装だ? 声だ? そんなのただの飾りだろ? 重要なのは中身だよ

   お前、いつもきつい仕事押し付けられても愚痴なんか言わないで笑顔で対応してるだろ。苦手な分野でも調べて勉強して自分のものにしてる。それってすげえことだし、努力を怠らない姿は素敵だと思う

   相手の立場に立って物事を考えて、その場の雰囲気を大切にして、自分の心を押し殺してでもコミュニケーションを図ろうとする。それって、それができること自体凄いことだと思う

   ほんでもって、自分より仕事が出来るのが気に食わないとか、小学生の僻みか? いい大人があほくさい

香奈:……拓海…

拓海:本当に馬鹿だよ、そんな男

香奈:……

拓海:まぁ、お前も見る目ないけどな

香奈:は?

拓海:そうだろ? そんな小学生みたいな男のこと好きになって、勝手な言い分でふられて落ち込んでるんだからさ

香奈:っ! ふられてなんかっ!

拓海:(ため息)いい加減、気づけっての

香奈:何がよ!

拓海:お前って本当に鈍感な?

香奈:だから何が!

拓海:いいから、俺にしとけよ

香奈:え?

拓海:俺にしとけって言ってんの

香奈:は? 何言ってんの?

拓海:(ため息)毎回こうやってお前がギリギリの時にしか呼んでもらえないの正直しんどいんだわ

   お前、自分の中にすぐそうやっていろいろため込むくせして、吐き出すのは下手で、こうやって背中たたいてやんないと自分の本音を吐き出せない

香奈:悪かったわね!

拓海:別に、悪くねぇよ。それがお前だし。まぁ、直せるもんなら、もうちょっと早い段階で吐き出してくれると嬉しいけどな。

香奈:……

拓海:だから、ずっと俺の傍にいとけ。そしたらいつでも話聞いてやる

香奈:……なに、それ……

拓海:ん? 告白のつもりだけど?

香奈:……っ……

拓海:返事は?

香奈:……私、背でかくて女の子らしくないよ?

拓海:そう? おれ、185あるからそんなん気にならないし

香奈:声だって可愛くないよ

拓海:そうか? 俺は十分可愛いと思うし、お前の声を聞いて安心する

香奈:……仕事できちゃうよ?

拓海:(笑う)それ、自分で言うか? いいんじゃね。それはお前が頑張った結果だろ

香奈:めんどくさいよ?

拓海:それこそ、今更。なら、なおさら、俺しか相手できないだろ?

香奈:……

拓海:他には?

香奈:え?

拓海:他に不安要素は?

香奈:……

拓海:俺、なんでも答えられるけど?

香奈:……します

拓海:ん?

香奈:よろしくお願いします……

拓海:ん、じゃあ、これからは同僚じゃなくて、恋人ってことでよろしくな。

香奈:……うん……

拓海:じゃあ、そろそろ帰るぞ

香奈:え?

拓海:ほら(伝票をもって席を立つ)

香奈:あ、そっか、時間……

拓海:(ため息)ば~か、ちげぇよ

香奈:え?

拓海:せっかく恋人になれたんだ、こんな失恋会の流れで飲むなんて嫌だろ

香奈:あ……

拓海:香奈、明日の予定は?

香奈:休み

拓海:そ、じゃあ、俺ん家で飲みなおそうか

香奈:え……

拓海:誰も邪魔しない空間で二人で飲もうぜ

香奈:……

拓海:(香奈の様子を見てクスリと笑って)俺ん家だったらいくらでも泣いていいからさ。まだ溜めこんでる心のもやもや、全部吐き出せ

香奈:ん、ありがとう…



―幕―




2020.07.08 ボイコネにて投稿

2023.06.15 加筆修正・HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)