労災保険を使うのは会社に迷惑がかかる?
接骨院業務をしていると「業務中に怪我をしました」という方が度々来院されます。
そうなるとその怪我は労災保険の対象となるのでその旨を説明するのですが、「労災保険を使うと会社に迷惑がかかるので、、、」という患者さんが意外と多くみえます。
果たして「労災保険を使うと会社に迷惑がかかる」のでしょうか?
まず「労災」とは略さずにいうと「労働災害」で、労働者が仕事中・通勤中に怪我もしくは病気になった、死亡した場合を「労働災害」と呼びます。
また、「労働災害」に対しては、「労災補償義務」といって使用者(会社側)は過失の有無を問わず治療費などを補償しなければいけません。
法的な責任を負う場合、通常は過失の存在が大前提ですが、「労働災害」については使用者(会社側)に落ち度がなくても(つまり無過失)補償しなければならないという「無過失責任」を負っています。
ということは『会社の予防対策に落ち度はないので補償は行わない』といえないことになります。
そこで整備されているものが「労災保険」ですが、これは使用者(会社側)の労災補償義務をカバーする保険で、労働者災害補償保険法によって定められています。
労災補償義務は無過失責任なので使用者(会社側)がどれだけ予防に努めても労働災害が起これば責任が生じます。
しかし「使用者(会社側)にお金がなくて補償できない」ということでは困るため、公的な保険(社会保険)として、労働者を雇っている会社及び個人経営の経営者(つまり全ての事業主)に強制的に適用されるのが労災保険です。
一般的に社会保険料は労働者と使用者がそれぞれ負担するものが多いですが、労災保険料は全額が使用者負担であり、過去3年間の給付額に応じて保険料率が増減します(メリット制)。
簡単にいうと、「労災が発生したら保険料が上がる」という仕組みです。
さて、ここまで「労災」「労災保険」についてざっくり説明しましたが、使用者(会社側)が「労災」を労働者に使わせたくない理由は「メリット制」にあると考えています。
前述の通り、「メリット制」とはざっくりいうと「労災が発生したら保険料が上がる」という仕組みなので、労災の発生件数が増えれば増えるほど使用者(会社側)が支払う労災保険料が増えていきます。
これが使用者(会社側)にとって負担となる部分なので、そこを増やさないために労働者の「労災」を認めない使用者がいるのでしょう。
私がこの仕事をする中でよく聞くのは介護職の方の話で、『施設の利用者をベッドから車椅子に移乗させるときに腰を痛めたが、会社から「そんなこと介護職ではよくあることだから、いちいち労災にしてたらキリがない」といって労災を認めてもらえなかった』という話は嫌になる程聞いてきました。
そもそも「それは労災である」「それは労災ではない」を判断するのは使用者(会社側)ではなく労働基準監督署長です。
ちなみに労災を隠そうとする「労災隠し」は労働衛生法で禁止されています。
タイトルにある「労災保険を使うのは会社に迷惑がかかるのか」というところですが、労災保険を使って業務中や通勤中に生じた災害(怪我・病気など)の治療費を補償することは使用者(会社側)の義務なので、「迷惑」「迷惑じゃない」という次元の話ではないと考えています。
むしろ、業務中・通勤中に生じた災害であるにも関わらず、使用者が労災であることを認めないというところが大きな問題です。
個人的には、労災保険を使うか使わないかというところよりも、業務中・通勤中に生じた災害を使用者(会社側)に黙って仕事をすることのほうがよほど会社に迷惑がかかると思います。
皆さんも業務中・通勤中に怪我をした・病気になった時は迷わず使用者(会社側)に報告をしましょう。