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第1回タイトル:ごあいさつ

2018.07.02 03:53

 人と会ったり出かけたりするのが好きだというのは、一種の才能だと思う。「友達」と「友達の友達」と「友達の友達の友達」と「友達の友達の友達の友達」と飲む、みたいな会合が苦手だ。でも、「友達の友達の友達の友達」会に定期的に参加しないと死んでしまう人がいることも知っている。わたしの夫だ。夫みたいな人を外向的な人とか社交的な人と呼ぶのだろう。くやしいけど、本当はそういう大人になりたかった。 

 ところで、心の声が聞こえてくる場所は人によって違っていて、心臓から聞こえてくる人と腹から聞こえてくる人がいるという。わたしの場合は「心は脳にある」という話を聞いて以来、理性の声も心の声も全部脳から聞こえてくるようになってしまったので区別が難しいのだが、それでも心の声に耳をすますと、たいていの誘いに「行きたくない」という答えが返ってくる。 

 それでいて、ある知り合いと別の知り合いが意外なところでつながっているのがわかると、自分だけが取り残されているような不安な気持ちになったりする。たとえば、わたしの知っているAさんと、わたしの好きなBさんが実は知り合い同士だとわかって、さらにAさんとBさんがわたしの知っているCさんについて楽しそうに話しているのを聞いたりすると、わたしの知り合いは全員わたしの知らないところでつながっていて、それを知らないのはわたしだけ、というような妄想に駆られる。何をどう嫉妬すればいいのかわからないけれど、なんだか妬ましい、と思う。 

 さて、このような内向的な人間が愛するものはこの世に2つしかない。猫と本だ(夫は猫に含める)。だが、あいにく賃貸の我が家ではペットを飼うことができない。だから「沼ZINE」では、わたしのもうひとつの愛着対象である本について書いていきたいと思う。 


 猫 


2018年上半期読書総括 

 今年の上半期、わたしは何かに憑かれたようにフランスの未邦訳ノンフィクションを読んでいた。タイトルをざっと訳してみると、こんな感じだ。 


 『子宮への手紙』 

 『キングコング・セオリー』 

 『男性のためのフェミニズム ミニガイド』 

 『Gスポットなんて怖くない』 

 『クリトリスの途方もない歴史』 

 『マリー・ボナパルトの200のクリトリス』 

 『クリトリスの逆襲』

 『反抗する人類に』 

 『栄光ある女たち』 

 『子供のいない人生という選択』 

 『下方の快楽:女性器のすべて』(のフランス語版。原書はノルウェー語) 


 フェミニズム関連の本が中心で、詳しい内訳は女性器関係6冊(クリトリス3、G スポット1、子宮1、女性器一般1)、その他5冊である。途中で飽きて最後まで読まなかったものもある。 

 わたしは1990年代のフェミニズムのバックラッシュの中で成長した世代にはめずらしく、母の影響で昔からフェミニズムが好きだった。社会人になって関心が薄くなった時期もあったけれど、最近また盛り上がってきている動きに触れたりして、再び関心を持つようになった。そして、ある本との出会いがきっかけでフェミニズムの中でも特に女性器や女性のセクシャリティの問題に興味を持つようになった。

 2016年の秋ごろ、Courrier Internationalというフランスの雑誌の「生理:タブーの終わり」特集をめくっていたら、今まで見たことのないタイプのイラストが目に飛び込んできた。開脚をしたフィギュアスケートの女子選手の股間に生理の血が染み出している絵で、白黒のイラストの中で生理の血の赤が目を引いた。気まずい場面を描いた絵なので、少しぎょっとした。でも、よく見ると選手の顔は笑っていて、どぎついだけじゃない温かさとユーモアがあった。スウェーデンの女性漫画家リーヴ・ストロンクイストの『世界の起源』という作品の抜粋だった。



 さっそくフランス語版を入手して読んでみると、ギュスターヴ・クールベが描いた有名な絵と同じタイトルから察せられる通り、女性器についての漫画で、学術研究を引用・参照しながら、女性器にまつわる事実をわかりやすく、笑いを交えて伝える内容だった。この漫画を読んでわたしは、たとえば女性のオーガズムや女性器の詳しい構造について、正確で科学的な知識をきちんと教わったことなんて今まで一度もなかったことに気がついた。 

 この本は絶対に日本で紹介すべきだ。そのためには、スウェーデン語はわらかないけれど、なりふりかまっていられない。そう思い、フランス語版から自分で訳すことに決めた。 

 そうして右往左往していたところ、今年の1月に企画を持ち込んだ出版社で出版を前向きに検討してもらえることになった。それで、もっと知識を増やしたいと思い、いろいろ読んでいるうちに、今年上半期の読書がセックス三昧みたいになったのだ。 

 肝心の翻訳企画の方は、ここ数日の間に編集者の方からとてもよい知らせをもらって、いよいよ動き出しそうな予感がある。だから、あと一息、今年いちばんのいい知らせがもらえるよう、わたしは猫の女神バステトに祈っている。『世界の起源』によれば、古代エジプトのバステト祭では、女性たちが大声で叫び、踊りながら女性器を見せ合ったという。楽しそうだ。わたしはしないけど。  

バステト 
Photo by InSapphoWeTrust - Bastet Head, Late Period, Egypt / CC BY-SA 2.0  

Chihiro@Chichisoze