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歌さんの別の顔

2018.07.02 16:13

笑点の歌丸師匠は、物心ついたときからずっと「おじいちゃん」でした。


いま思えば、初めてテレビで見たときは50代だったんでしょうけど、


痩せこけたガリガリの頬、禿げ上がった頭、

いかにも時代劇に出てくるイジワルなご隠居という感じで、


自分にとってのおじいちゃんの「典型」でした。

笑点では、年長者にもかかわらず、

若手落語家たちから「ジジイ」だの「ハゲ」だのイジり倒されまくり。(泣)


そんなちょっと情けない姿が、

大多数の人が知る歌丸師匠の姿だったと思う。(自分もそんなイメージでした)


ところが、大人になり、落語の寄席に足を運ぶようになると、

そこにはこれまでのイメージとはまったく違う歌丸師匠の姿がありました。


いつもテレビでヘラヘラしているだけのおじいちゃんが、

全身全霊をかけて、鬼気迫る高座を演じていたのです。


「ああ、『笑点』と『落語』はまったく別物なんだな」と、

歌丸師匠の高座が教えてくれました。


落語界では、歌丸師匠の芸に対する厳しさは有名で、

落語家仲間から「芸の鬼」と言われていたほどです。

(笑点のイメージとは全然違いますよね)

晩年も何度か高座を聴く機会があったのですが、

酸素吸入器のチューブにつながれたまま高座に上がってました。


正直、見てる方が痛々しくて、なかなか落語を聴くモードになれるはずもなく…。


それでも歌丸師匠は、見えない何かと戦うようにセリフを吐き続け、

いつの間にか、歌丸師匠の噺の世界にどっぷり浸かっている私たちがいるのです。


そのスゴみというのは、桂歌丸という落語家が、ただ高座に座っている、

それだけでも見る価値があると思わせてくれるものでした。


テレビの世界では、いつもヘラヘラしたり、

ちょっと情けないおじいちゃんだと思っていたけど、

寄席の世界では、落語家としての本分をまっとうした歌丸師匠。


落語家として真剣に「己の芸」と向かい合っていたからこそ、

笑点の「歌さん」を演じることができたんだなと、いまなら思います。


芸(を追い求める姿勢)に自信がなければ、

あんなアホな「道化」になれるはずもないですよね。


そして、落語家仲間たちから心底愛されていた歌丸師匠だからこそ、

笑点の「歌さん」は生まれたんだなと。


あの世に行けば、談志も円楽も志ん朝も待ってるよ。

落語の稽古に益々精が出ますね。よかったね、歌さん。

M島