塩が消えた?福島『汚染水』怪談話に揺れる韓国、どうぞご勝手に
水産市場で客足が途絶えた!?
ソウル市内には鷺梁津(ノリャンジン)水産市場という巨大な卸売市場があり、建物の2階以上には飲食店も入っていて新鮮な刺身や寿司を食べることができる。
しかし「TV朝鮮」のニュースによると、いまこの市場の中の通路は閑散としていて、見える人影は客を待つ店の人だけだという。そして、水産業界関係者によると、6月に入って水産物の消費は前年より30-40%減少した。その原因は、福島第一原発から出る処理水の、まだ始まってもいない海洋放出だというから、呆れる。
処理水の海洋放出によって魚が放射能で汚染され、人の命や食卓にも危険が及ぶというなら、もっとも身近にいて直接被害を受ける日本人が真っ先に声を上げるはずだが、福島県沖で魚をとる地元の漁協関係者らが風評被害を心配して海洋放出に反対しているほかは、日本のメディアの報道でも国会での議論でも、この問題が大きく取り上げられることはない。
福島を含めて東北沿岸で水揚げされる魚は通常通り流通し、飲食店や家庭の食卓にも上がっているし、お米や果物など福島産の農産物も普通においしく食べている。しかし、福島から遠く離れ、黒潮の流れとは逆の方向の韓国の人々が何故か、海洋放出が始まる前から、すでに朝鮮半島周辺の海は放射能まみれになったと言うような騒ぎぶりなのだ。
「福島産のホヤを韓国が輸入」というデマ
しかも、6月に入って韓国の水産物消費が減ったのは、「福島の近海で採れたホヤが韓国に輸入されている」という根拠のないフェイクニュースが飛び交った結果、「韓国の養殖魚が旬なのにまったく売れなくなった」ともいう。
<【TV朝鮮ニュース動画】怪談におびえる韓国の鮮魚店主たち「根拠のないデマで売れない」>
<朝鮮日報6月15日「怪談におびえる韓国の鮮魚店主たち『根拠のないデマで売れない』」>
韓国は、東日本大震災の前までは宮城沖などで採れるホヤを、キムチの材料として輸入する最大の相手国だった。しかし震災以降は、福島を含めて東日本8県の農水産物の輸入を全面的に禁止していて、東北沿岸で採れたホヤが韓国内で流通しているとしたら、それは密輸以外にはあり得ない。
韓国では、デマや作り話を「怪談」(ケダン)と呼ぶが、自分たちが作り出したデマやフェイクニュースに踊らされ、自分の影に自ら怯え上がり、自分で自分の首を絞めている状態なのである。
塩が消える?海洋放出前なのに異変続出
韓国では、福島第一原発から放出される処理水問題で政界やメディアを中心に連日、大騒ぎとなっており、前回、このコラムで書いた「韓国の食卓から魚が消え、韓国の水産業は崩壊する」という予測した事態は、すでに目の前の現実となっている。
韓国で最近、起きている異変は、水産市場から客足が消え、水産品の消費が減っているというだけではない。スーパーの食品棚から一斉に塩が消えているという。
<朝鮮日報6月16日「『福島汚染水怪談』が生んだ塩の買いだめ…韓国で塩高騰」>
とりわけ買い占めの対象となってるのが、海水を天日干しで乾燥して塩にする「天日塩」という全羅南道新安郡の特産銘柄だという。しかし、中学生レベルの科学知識でも分かることだが、処理水に含まれるトリチウム(三重水素)は水の形で存在し、化学的には水と変わりないため、水分が蒸発したあとの天日干しの塩にトリチウムが存在することはあり得ない。また海水の中に存在するその他の放射性物質にしても、過去の水爆実験などで放出されたものも含めて、いま現在、地球全体の海水にどれだけの放射性物質が含まれているかは知らないが、たとえそうした放射性物質が塩分に残ったとしても、その塩をいったいどれだけの量、摂取したら癌になるのか、想像もできない。おそらく癌になる前に塩分の過剰摂取で高血圧になるか、脳卒中か何かで死ぬ確率のほうがはるかに高いに違いない。
「放射能テロ、井戸に毒を入れる」と煽動する野党
ところで、韓国で突然、こうした塩の品薄騒動が起こっている背景には、左右の政治勢力が激しく対立する韓国特有の政治風土、「陣営論理」があると指摘されている。
左派系野党「共に民主党」は、福島「汚染水」(彼らは決して「処理水」とは言わない)の海洋放出問題を尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権を追い詰める最大の攻撃材料として使っている。「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、処理水の海洋放出は「放射能テロだ」と公言し、「井戸に毒を入れるのと同じだ」といって憚らない人物である。
その「共に民主党」は5月半ば、地方組織に対して「福島汚染水に反対する横断幕」を街頭に掲示するよう指示を出し、その横断幕には「福島汚染水放出 食卓で 塩の心配 どうしよう」という文言もあった。すると野党支持者が多いネットのコミュニティー・サイトで「塩くらいは備えておくべきかな」「汚染水を放出する前に塩を買おうと思うんだけど…」などの書き込みが相次ぎ、ついには「天日塩20キロを5袋買いました」「MBCニュースを見てすぐ天日塩20キロ購入しました」などの投稿が掲載されるようになったという。こうした書き込みを見て、いわゆる「汚染水怪談話」を信じていない人でも、品薄となることを心配して買いだめに走るというのだ。
<朝鮮日報6月14日「共に民主『福島原発汚染水』横断幕掲示の影響か…韓国で天日塩が品薄に」>
自然界に存在し日常摂取している放射性物質
買い占められているのは塩だけではない。ハンギョレ新聞によると海苔や煮干し、ワカメや昆布など、韓国人の食卓には欠かせない食材で、日持ちする乾物類を中心に、海洋放出が始まったら食べられなくなるという理由で、買いだめや買い占めの対象になっているのだという。
<ハンギョレ新聞6月14日「汚染水の海、韓国産も心配…塩とのり、ひとまず1年分買い置き」>
しかし、海苔やワカメにかりに放射性物質が含まれていたとしても、実際どれだけの量の海苔やワカメを摂取すれば癌になるのか。実証的な研究や信頼できるデータはないだろうから、これもデマやウワサと同じレベルの「怪談」に過ぎない。
放射性物質の人体への影響は、その物質が発する放射線の種類とエネルギー、つまり放射線の量、濃度によって決まる。たとえばトリチウムが発するベータβ線は紙一枚さえ透過できず、遮断されるほどのエネルギーしかない。一方、魚の内臓やタバコの葉など自然界にも存在するポリウムは大きなエネルギーをもつアルファα線を放出し、青酸カリやボツリヌス毒素と並んで強い毒性を持つことで知られる。しかしそれほど毒性の強いポロニウムは、自然環境の中で育ったアワビの中にも存在し、そのアワビ1個を食べ、そのアワビに含まれるポロニウムを体内に取り込んだときの被曝量は、福島第一原発の放流口から出る水をそのまま汲んで1日2リットルずつ365日飲んだ場合のトリチウムによる影響と同じだという専門家の話を「中央日報」は伝えている。
<中央日報5月14日「福島汚染水は安全か】韓国専門家が分析…放流水1リットル飲んだ場合の被爆量はバナナ8本食べるのと同じ」>
バナナにはセシウムやストロンチウムが存在し、イオン飲料には放射性カリウムが含まれている。自然界にはそれだけ多くの放射性物質が存在し、人は食品を通してそれらを体内に取り入れている。しかし、そうした放射線が人体の細胞を破壊したとしても、その破壊された細胞を修復する能力を人体は備えている。食物を通した放射線被曝で急に癌になったなどという話をめったに聞かないのはそのためだ。
日本海を下水溝や肥だめにように使っていた韓国
朝鮮日報6月11日のコラム「韓国も海に恥ずかしいものを捨てていた時期があった」によると、福島第一原発の事故による放射線の影響について、「国連科学委員会(UNSCEAR)の28カ国の専門家80人が、およそ2年にわたる調査の末、2013年に出した事故報告書で。、射線被ばくによる死亡者は1人もおらず、福島の放射能汚染地域で一生暮らしてもCT1枚撮るレベルを少し超える程度の放射線に追加被ばくするだけ」だということを科学的に実証している
それに比べたら以下の韓国の事例のほうがはるかに問題ではないか。
「韓国も、まずい汚染物質を海へ持っていって捨てていた時代があった。1988年から群山、浦項、釜山の沖合に大量の汚物を投棄してきた。畜産のふん尿、下水のスラッジ(汚泥)、食品加工の残りかすなど、高濃度の有機物だ。陸地では処理施設が足りず、海に捨てるのであれば費用があまりかからない。2015年まで27年間、年平均600万トンを公海に捨ててきた。広い大海の拡散力、自然浄化力を信じた」。
<朝鮮日報6月11日「韓国も海に恥ずかしいものを捨てていた時期があった」>
日本海をまるで「下水溝」や「肥だめ」の代わりに使っていたのは韓国であり、これについて日本に謝罪したことはあっただろうか?
韓国原発周辺で多発する甲状腺ガンで集団訴訟
ところで韓国では、通常運転の原発から出るトリチウムなど放射性物質と福島第一原発のように事故を起した原発からでる放射性物質は別物で、福島はより危険だという議論を盛んに行っている。しかし、これも専門家からは完全に否定されている。目に見えないミクロの世界の放射性物質は同じ原子構造を持つかどうかで区別されるのであり、「通常運転の原発か、事故を起した原発か」の違いで、原子構造や放射線のエネルギーに違いがでるわけではない。
それよりも問題なのは、韓国の月城(ウォルソン)原発からは福島処理水の2,3倍のトリチウムを毎年、海洋に放出しているが、こちらのほうがもっと深刻な問題を引き起こしている。ハンギョレ新聞によると「原発の周辺地域の住民の甲状腺がん発症率は他の地域の数倍にもなり、韓国水力原子力を相手取って集団訴訟が行われている」という。
<ハンギョレ新聞6月13日[寄稿]福島第一原発の汚染水問題でメディアがなすべきこと>
とりあえず原因を究明し、被害の拡大を防ぐためにも、福島の処理水のことより、自分たちの足元の原発から出るトリチウム排水のほうをどうにかすべきではないのか?
一方、福島では小中学生など子どもの甲状腺検査を継続して行っているが、甲状腺障害の発生率は全国平均と比べても差異は見られず、異常がないことは発表されたデータからも分かっている。福島を地元に抱える当事者の日本国民は、いま静かにIAEAによる科学的検証の最終報告を待っている。科学に裏付けられた確かな証拠を持って、地球上の全ての人に対して処理水の海洋放出は地球環境や人体には何らの影響もないということを堂々と、力強く訴えていきたいと思う。
韓国政府は福島処理水に対する行き過ぎたデマの流布に対しては、司法措置を取ると警告しているそうだが、左右の政治勢力による陣営論理を優先し、自分たちに有利なようにこの「処理水」問題を利用したいというのなら、どうぞ、この問題は韓国の国内問題として、思う存分、議論していただきたい。そして科学の問題としてではなく、国民情緒の問題として納得がいくまで感情をぶつけあえばいいだけの話で、それに対して日本は「私たちの問題ではないので、どうぞご勝手に」という他はない。