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日々の嫉み

妄想劇場11

2018.07.03 11:22

(こちらは完全に妄想の物語です。

実在の人物や関係者とは全く関わりありません。)


衣装選び






大正ロマン。大正浪漫。たいしょうろまん。

難しいなぁ…

とりあえずこんな感じかな?と商品部に行きそこで何点かコーディネートして写真を撮って送ってみた。

ハットを被せてみたり、ベルトを合わせてみたり。

着流しのままとか、袴を合わせてみたり。


あそっか。時代を合わせなくてもいいのかもしれない。


大正ロマンよりも遡って明治時代のスタイルも引っ張り出してみる。

1人は幕末でも面白いか?とも思ったけど…ハロウィンじゃないんだ。浅葱色の段平なんて仮装大会になってしまいそうで却下。


ならば昭和初期っぽいのもいいかも。

うちの商品部で全部賄えるだろうか…コーディネートを決めてから洋服アイテムを足していくにしても早く誰がどれを着るのかを決めなくては。


星野さんの言うバンドメンバーさん達がどんな感じの人達なのか知りたくて、とりあえず去年の夏のツアーの映像を探して見てみた。

ただ。どの人がどの人かわからなさ過ぎて。

スマートフォンの画面で見るには(商品部の子に教えてもらった)小さすぎた。


どうしよう…どっちにしても身長が必要だ。特に男性陣。


ブー。


スマートフォンが震えた。

星野さんからだ。



『写真見ました!いい感じです!そんな感じで進めてください!』



それはよかった…

こんな感じね…あ。朝ドラの映像も見てみなきゃなぁ。

…どこにそんな時間があるのさ。



『お忙しいところ申し訳ないのですが、男性の方々の身長を教えて貰えませんか?』


『身長ですか?』


『着物によっては着れない物もありますので…』


『なるほど!またLINEします』


『お願いします。』



最悪…全員袴でもいいかもな…そうすれば身長は関係無くなる。



『なんども申し訳ないんですが…

バンドメンバーの皆さんと実際お会いすることはできませんか?衣装合わせや顔映りも見たいのですが…』



おそるおそるLINEしてみた。



『調整してみますね!』



すぐ返事が来る。最初の連絡の時点で星野さんからの電話がもっと早かったら…と恨みつらみを言いたい。


「この時期にそれは…」って言い出す商品部をねじ伏せ説き伏せた。

上司にも年末年始の事を伝えるとちょっと不機嫌になる。(わたしが行けない=上司が行く)無事終わったら祝杯奢りますから!とオマケも付けといた。


紅白歌合戦本番まであと10日。無事星野さんが出場することも発表され、リハーサルが何回かあるそうだ。

ぶっつけ本番は怖すぎるので、マスコミには見せないリハーサルに同行することにはなっている。

その前に。その前に星野さんはじめ他の皆さんにも一度袖を通して貰わなくては。寸法の微調整も必要ならしてしまいたい。



『時間どれくらい必要ですか?』



LINEが来た。

私1人では無理だし、多分星野さん達もあまりその為だけに時間は割いてくれないだろうな…

商品部の子を連れていくか。



『2時間いただければありがたいです。』


『わかりました。明日なら時間取れそうです。』



明日!明日…何とかなる?

星野さん…いつも急だ。仕方ないか。もうお互いに時間はない。



『明日何時にどこへ行けばいいですか?』



返ってきた返信にはご丁寧に地図まで付いていた。

商品部の子に聞くと「そこなら割と近い」と言われたので指定された時間に行けるように準備を進めた。


似合わない時のことを考えて3着ずつ持っていくようにした。1人ずつのコーディネートを入れ替えたり組み替えたりもできるように。

荷物の搬入のことも考えて1時間前に会社に集合し、一緒に行くことにした。



『皆さん楽器も一緒にお持ちいただけますかね…?』



どんな体制で楽器を弾くのかも見ておかなければ。

チェロとかは脚を開いて演奏するものだ。

一応最初から袴を準備してはいるが…



『明日はスタジオでリハーサルなので大丈夫ですよ。なんなら衣装着た状態で演奏すればいいですよね?

かおるさんにも聴いてみてもらいたいし。』



そういや。わたしはホシノゲンの作品や楽曲を未だに見たことも聴いたこともない。

テレビなんかをBGM代わりに付けている程度なのでどれがそうなのかもさっぱりわからない。

めちゃくちゃ失礼な奴かも…

そんな話題登らなかったし、星野さんも自分の作品を押し付けてくることもなかったので今まで気にもしなかった。



ねぇ。由美ちゃん。


「はい?」



商品部の子の名前を呼ぶ。



ホシノゲンの曲ってどうやったら聴ける?これで聴けるもんなの?



スマートフォンを指さす。



「聴けますよ?てか使ったことないんですか?」


うん。ない。


「かおるさん、それは時代に取り残されます(笑)」



なんならガラケーでいいのよ。わたしは。

会社でLINEするから無理やりスマートフォンを持たされただけなんだもん。

便利なのはわかるけど。

由美ちゃんに手伝ってもらって、ホシノゲンの曲を何曲かダウンロードしてみた。



「準備してる間に聴きましょうよ」



と言われ再生しながら作業を進める。

やっぱり…優しくて穏やかな音楽だ。

楽しくて身体が自然と動き出すような曲ですら優しさが溢れている。

なんて幸せな世界…でもホシノゲンの楽曲は幸せと寂しさが背中合わせになっているのがよくわかる。

闇があるから光があるのと一緒で、なんて事無い生活のワンシーンを切り取って丁寧に歌に乗せてある。


すごい人と知り合ったのね…と思うと同時に、この失敗出来ない仕事の責任の重さを感じた。

紅白歌合戦は日本だけじゃなく世界でも見れる番組だ。恥ずかしい格好はさせられない。

星野さんのイメージダウンになるような事は絶対に出来ない。



明日から…忙しくなりそうだな。


「そうですねぇ」


由美ちゃん。明日宜しくね?


「明日だけですよね?」


んー。多分。


「年末年始まで巻き込まれるのは…ちょっと…」


予定が入ってる?


「宝塚まで行くんです。大晦日に。」



由美ちゃんはヅカオタ。わたしもまだ学生の頃何度か見に行ったことはある。

キラキラしててポーっとなれる夢の世界。

東京に来ても何度か由美ちゃん誘われたが仕事で行けてない。



あー。なるほどね。


「ごめんなさい!かおるさん!」


いいのよ。とりあえず衣装さえパターンが決まればなんとかなると思うから。



やっぱり年末年始はわたし1人で。星野さんについて回ることになりそうだ。

ホシノゲンについて回ることに。わたしが多分見たことのない星野さんのもう一つの顔。