vol.5 5月、タイトルが決まらない。
雑誌の中にある一つの連載タイトルと、本屋に並び、ほかのあらゆる書籍の海の中で見つけてもらう書籍のタイトルとでは違う。
ということは、出版社の人からよく言われることです。
たとえば雑誌連載のタイトル「僕らが尊敬する 昭和のこころ」の「僕ら」とは誰なのか?
飲食情報が主体の『メトロミニッツ』なら、料理人やソムリエだろうなと何となく受け取れます。自動的に、「昭和」とは昭和の飲食店だろうなということも。
そもそも、ページをめくれば料理店の写真が目に飛び込みます。
でも書籍ではまずタイトルを見て、「僕ら」が誰なのか気づかなければ手にとってもらえない、という考え方です。
そこで本書のタイトルは、連載のままでなく、再考されることになりました。
大体において短い文章がいちばん難しく、その頂点がタイトル、ひらたく言えば最も大事なわけですね。
当時は「何の本なのか? がきちんとわかるタイトル」の方向に進んでいました。
つまり、「飲食業界」の話であること。中でも「今、東京を面白くしている若い世代」が「昭和の時代を生きた店」に抱いている「尊敬」と、昭和の店の「スピリット」を描いたものであること。
さらに、同じ出版社内でも編集と営業では、どこがポイントか? という考え方が違います。同じ部署であっても、人によって感性が違います。
作者の主観的な思いと、実際に、書店という現場で響く言葉は違います。
私がパッとひらめければいいのだけれど、シュートを打ってはふかしてばっかり。悩んでいたら編集の田中さんが助け舟を出してくれて、ひと呼吸、タイトルより手前にある「イメージ」をメモしてみませんか、と言ってくれました。メモの一部、恥ずかしいけどほぼそのまま公開。
●昭和の店のガイドブックではない。
●スペックではなく、その店に何があるのか。
●多くの人は見過ごしてしまう信号を、キャッチして気づく「僕ら」の目線。
●決して到達した人ではない、まだ道の途中でもある彼らが、なぜ昭和の店に向かうのか。
●昭和の店に何を見て、どう感じ、自分の店に生かしているのか。
●それらを語ることは、逆に言えば自分に欠けているもの、無いもの、極めてデリケートな部分を告白することでもある。
●誰も行かない道を走っている、とは言っても、ひとりの若い飲食人。
●彼らの目線と思考は、飲食業以外の若い世代にも、自分のリアルと重なるのではないか。
ここから、まだ見ぬ言葉を求めて、鉱脈をぐるぐる探っていくわけです。
(つづく!)