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日々の嫉み

妄想劇場 15

2018.07.06 11:41

(こちらは完全に妄想の物語です。

実在の人物や関係者とは全く関わりありません。)




衣装合わせ




さぁ。起きなくては。

時刻は7時だ。昨日の夜の余韻に浸るどころか。

寝れなかった…

寝ようと目を閉じても。

喫茶店で好きと言われた時の真剣な眼差し。

イルミネーションの中で手をダウンジャケットに入れられたこと。

親指がわたしの手の甲をなぞる感触。

全てがリアルに思い出されてしまう。

あれは夢だったのよ!と言い聞かせても。

そこにいた当事者なんだ。夢なわけがない。

布団を被っても寝返りをうっても。消えない。


もー。なんであの時わたしは泣いたりしてしまったんだ。涙なんか流れてなければ。

そんなどうにもならない後悔とそれを上回る夢のような出来事にわたしの頭の中はパニック。そのまま朝を迎えてしまった。


歯磨きをしながら鏡の中の自分を見る。

顔色わっる!

あーあ。クマがガッツリ。大丈夫かな…今日。


とりあえず化粧で誤魔化して部屋を出た。

ちょっとでも顔色が良く見えるように思い切って真っ赤な着物で。




おはよう!由美ちゃん!


「かおるさん、おはよーご…」



振り返った由美ちゃんはわたしを見て言葉を失った。



「かおるさん顔色悪すぎません?大丈夫ですか?」


平気。ちょっと緊張で眠れなかったの。

大丈夫よ。

さ、行きましょ。



赤い着物効果が全く期待出来ないまま衣装の入ったダンボールを台車に乗せて移動の車まで運ぶ。

今は大丈夫。

お昼も食べなければ眠くなることはない。

とにかく今日が無事終わりさえすれば。

なんとかなるんだ。


会社から車で少し走ったところにラジオ局があった。

あまり土地勘がないけどもそこそこ近い。

関係者用の駐車場に車を停める。

また台車にダンボールを積み上げて搬入口へと向かった。


吐く息が白くなる。

もう朝の10時だ。そろそろもう少し暖かくなってくれてもいいのに。



おはようございます。

丸紅藤井株式会社の者です。



搬入口で警備員に挨拶をする。

話がちゃんと通っており、「visitor」の札を2枚渡された。



「地下のスタジオに行くようにと言われてますよ?

そこのエレベーターで降りてください。地下2階です。」


ありがとうございます。



わたしと由美ちゃんは重たい台車を2台押しながらエレベーターへ向かった。



「地下2階ですか…」



ボタンを押しながら由美ちゃんが呟く。



「こーゆーの初めてなんでなんだかワクワクしますね」


そうねぇ…わたしも初めてよ?


「かおるさんはいろいろやってるから。何となく慣れてそうですよ?」


わたしはただ飛び回ってるだけだからね…



ピンポーン


エレベーターが地下2階にわたし達と荷物をおろしてくれた。ドアが開く。



「あ!かおるさん!おはようございます!」


星野さん…おはようございます。



びっくりした。エレベーターのドアが重たそうに開いた瞬間に現れたのが星野さんだった。

心臓に悪すぎる。

相変わらずの笑顔でわたし達を出迎えてくれた。



「すごい荷物ですね!手伝いますか?」


いやいや。わたし達でやりますので。

どこへ行けばいいですか?


「石田くーん!ごめん!案内お願いしまーす!」



星野さんの横に駆け足でもう1人男性が来た。



「ボクのマネージャーの石田くんです。」


「石田です。よろしくお願いします。」


よろしくお願いします。


「では、こちらへ」


「かおるさん!また後で!」



星野さんが手をヒラヒラさせながらエレベーターの中へ入っていった。



「かおるさん…」


何?由美ちゃん。


「なんで…あのホシノゲンさんが『かおるさん』って呼んでるんですか?」


さぁ…呼びやすいからじゃない?



んなわけないでしょ!って顔をした由美ちゃんを引っ張りわたし達は石田さんの後を付いて控え室3番に通された。



「3番が男性用、4番が女性用になります。

とりあえず、機材の搬入が終わったら少し音の調整があるので、その後に衣装合わせになると思います。」


わかりました。

では控え室に準備をしておきますね。


「よろしくお願いします」



と言って石田さんは去って行った。

絶対…わたしのこと怪しんで見てるよなぁ…と思いながら気を取り直して準備を始める。


男性用をわたしが。女性用を由美ちゃんが準備する。

とりあえずトルソーにこの3日間で商品部で組み合わせたイチオシコーディネートを着せていく。

その足元にそのほか合わせれる小物類、履物、ハットなどを並べておく。


よし。とりあえずこっちは準備出来た…

時刻は11時。

由美ちゃんは出来たかな?

隣の控え室に行くと由美ちゃんも準備を終わらせるところだった。



「かおるさん…女性陣の衣装は私がコーディネートしていいんですか?」


最終確認はわたしがするけどね。


「紅白歌合戦で私が選んだコーディネートが映るんですね…」


そうだよ。すごいよね…



足音がする。隣の3番控え室にノックの音。

ドアが開く。



「ふわー。すっげ。」



わたしは声の主が誰かをわかって隣に移動した。



どれにしますか?星野さん。


「あ、かおるさん。凄いですね!こんなに用意してもらって…ありがとうございます!」


頑張りました。隣の控え室にいるもう1人とあーでもないこーでもないって言いながら。


「オレ。これがいいかな?どう思います?」



星野さんが目の前に立ったのは襦袢の代わりにタートルネックを着て濃い目のグレーの着流しにモスグリーンの袴を履いている。

わたしのコーディネートだ。



いいと思いますよ。星野さんに似合いそうだなと思って合わせましたから。選んで貰えて嬉しいです。


「かおるさんのコーディネートですか?」



わたしは頷いた。



「着てみてもいいですか?」


もちろんです。ではタートルネックとステテコをお渡ししますので、そちらで着替えてくださいね。


「はーい」


足袋も履いてください。


「はーい」



フィッティングルームがゴソゴソ動き出した。



「かおるさん。大丈夫ですか?」



急に小声で話しかけてきた。



はい?なんでですか?



わたしもつい小声で返事をした。



「いや、さっき。エレベーターで会った時すげー顔色悪かったから」


大丈夫ですよ。ちょっと…寝不足なだけです。


「もしかして…」



星野さんが何か言いかけた時に石田さんが入ってきた。



「他のメンバーさんもお願いしまーす」


はい。かしこまりました。



メガネをかけて背の高いお兄さん。

背は低めだけどダンディなおじ様。

ひょろっと背の高い若めのお兄さん。

中肉中背の可愛らしいお兄さん。

頭が春の畑のような目の大きいお兄さん。



「ギターの長岡亮介さんと、ベースの伊賀航さん、ドラムの伊藤大地さん、バイオリンの伊能修さん、キーボードの櫻田泰啓さんです。」


よろしくお願いします。


「あなたが。かおるさん。」



長岡さんが話しかけてきた。



そうです。はじめまして。


「赤い着物いいですね。よろしくお願いします。」


ありがとうございます。

早速ですが、今星野さんが着替えてますので、皆さんはどれにするか見てもらえますか?



隣の控え室でも可愛いーとかきれいーとか声が聞こえ始めた。



「僕はこれかな?」



長岡さんが選んだのはロングコートのトルソー。

黒い着物にグレーの袴にマントのようなロングコートを羽織らせている。

今回の男性陣の着物は基本的に襦袢無しで行くことにした。

タートルネックか、衿なしシャツを下に着せている。



「ではこちらに着替えてくださいね」



と衿なしシャツとステテコと足袋を手渡した。



「はーい」



星野さんのフィッティングルームの隣に長岡さんが入った。



「終わりましたー。」



星野さんが出てきた。



ふふっ。


「なんで笑うんですか?(笑)」


ごめんなさい。なかなかそんな格好のホシノゲンを見ることは出来ないだろうなと思って…


「確かにね(笑)」



次々と1人ひとりがどれを着たいか選んでフィッティングルームに入れ代わり立ち代わり入っていった。


わたしは出てきた順番に着物を着せ、帯を結び、袴を履かせる。



「ふはは。かっこいい!」



無邪気に喜ぶ星野さん。



よくお似合いです。


「ありがとう。」



長岡さんもロングコートが似合った。

伊賀さんは着流しに羽織で昭和のお父さんスタイル。

伊藤さんはちょっと学生風にと学生帽を被っている。

伊能さんは明るめの茶色の着流しにグレーの袴。

櫻田さんは渋めの赤の着物に黒の袴。


みんなそれぞれお互いを見て笑ったり褒めあったりして楽しそうだ。



ちょっとわたしは隣の様子を見てきますね。



そう言って控え室から出た。

隣は相変わらずキャッキャウフフと楽しそうだ。


コンコン。



失礼します。


「あ、かおるさん!どうですか??」



由美ちゃんが駆け寄ってきた。

バイオリンのミオさんは紫地に大きなぶどう唐草の柄の中振袖に黒の袴に編上げブーツ。

チェロのアヤネさんは対照的なオレンジの矢絣の柄の中振袖に緑色の袴とショートブーツ。



お二人共素敵です。


「あなたがかおるさんですか??もーこんなかわいい格好で紅白出れるなんて嬉しすぎます!ありがとうございます!」



ミオさんが駆け寄ってきた。



こちらこそ。ありがとうございます。



コンコン。



「かおるさーん。そっちもう大丈夫だったらスタジオにお願いしまーす」



石田さんがドア越しに声をかけてきた。



わかりましたー。

では、行きましょうか。

由美ちゃんも。一緒に。


「え。私もいいんですか?」


演奏する時に不自由だといけないから。メモ取れるようにしといてね?


「わかりました。」



皆さんの後を付いてスタジオに入らせてもらった。

広い空間。

真ん中よりも少し奥に設置された楽器類。

音響機器も沢山あってわけが分からない。

星野さんは…あ。いた。

真ん中で大きな木琴の前にいる。

わたしの視線に気づいたのかニコッと笑った。

今私が目の前にしてるのはホシノゲンだよなぁ…


昨日の星野さんを少し思い出してしまった。

耳が熱い。


音合わせがあり、ドラムの伊藤さんがカウントを取る。

朝ドラの主題歌が始まった。


あ。聞いたことあるな。

この曲。星野さんの歌だったんだ。

初めて聞いた時爽やかで好きだなと思ってたのを思い出した。

あ。木琴叩いてる星野さん袖が邪魔そうだな。

何か考えなきゃ。

サビが気持ちいいのよね…

疾走感があって。


初めて生演奏を最前列で見て聞いた。

リハーサルとは言えプロの音楽集団だ。

気づいたら涙が零れていた。

演奏が終わる。

拍手しながら次々と雫が落ちた。



「かおるさん?」



由美ちゃんが顔を覗き込んできた。



あ。ごめん、感動しちゃって。

ちょっと…トイレ行ってくるね。



本当はその場で衣装の不具合や、演奏の妨げになってないかなどを確認しないといけないのに。

やばい。早く戻らなきゃ。

トイレに入って、鏡を見る。

やはりひどい顔色。クマ。涙のあと。

散々だな…



「かおるさん?」



星野さんの声がした。



え。ここ女子トイレですよ?


「急に泣き出して急に出てかれたら気になりますよ」


ああ。ごめんなさい。

演奏の迫力に感動しちゃいました。

すごい人のお仕事手伝ってるんだなって改めて実感しちゃって。


「なんだ…よかった…」


戻りましょ。いろいろ確認しなきゃ。


「かおるさんは強いですね。」


強くなんかないですよ。仕事は仕事。

そこはちゃんとしないとと思ってるだけです。


「そーゆーとこも好きですよ。」



わたしを抜き去りながら小声で囁いて行く。



ちょっと。ここではっ!


「しー。」



ふりかえって人差し指を口に当てて笑う星野さん。

耳がさっきよりも熱いわたし。

とんでもない人に好かれてしまった…



冒頭のマリンバ(木琴じゃなかった)を弾く時に袖が少し邪魔そうだった星野さんにはたすき掛けをしてもらうことにした。

彼が何か言い出す前に黒い腰紐をかけるとニコニコ顔がちょっと照れくさそうで。不覚にもかわいいと思ってしまった。

星野さん以外には演奏に支障はなさそうだ。

ホッとする。



「では、ここで少し休憩でーす。」



スタッフの人が叫んだ。

わたしと由美ちゃんは最初の控え室に戻った。

次はCDTVの衣装だ。

全員総着替えになる。

新春ということもあるので星野さん以外は全員黒紋付はどうかと思いそれを準備した。

星野さんも紋付袴。ただ、少し色合いを変えて。

今度は全員襦袢を着せる。

バンドメンバーさんたちはそれぞれがワイワイしながらお菓子をつまんだり、お茶を飲んだりしている。


わたし達は衣装の準備をして、1人ずつ着替えて貰った。

男性陣は黒紋付にグレーの袴。

女性陣は黒紋付に赤い重ね衿を入れて赤い袴。

星野さんはちょっとラメの入った白い紋付にグレーの袴で黒い腰紐でたすき掛けをしてもらう。

傍から見ると書道家みたいだ。



「みんなビシッとかっこいいね。」



星野さんが言ってくれた。

演奏には支障がないこともわかり、衣装の寸法もおかしくなかったので、全員のコーディネートをチェックし終わり、脱いで貰った。

やっと…終わりが見えてきた。


星野さんはじめ、皆さんはまたリハーサルに戻っていった。

わたしと由美ちゃんは持ってきた衣装を使わないものと使うもので仕分けし、それぞれの箱に戻してまた台車に載せた。

何時だろ…ふと時計を見る。

4時5分。

え。そんなに長時間ここにいたのか!



「もうわたし達は終わりですよね?」



由美ちゃんが疲れた様子で聞いてきた。



そうね。先に出てもいいかどうかマネージャーさんに確認してくるわ。



そう言って控え室を出て音が聞こえて来る方へ向かった。

1番外側にいた石田さんの背中を見つける。



失礼します。

片付けも終わりましたので、先に失礼しても大丈夫でしょうか。



小声で聞く。

振り返った石田さん。



「ちょっと。こちらへ。」



スタジオの外に出た。



「次回は紅白のリハーサルになりますよね。」


そうですね。


「その時にこちらの着付け師にも集まってもらいますので、指示をお願いします。」


わかりました。


「今日は…ありがとうございます。時間ないのにここまで準備して下さって。

星野さんほんとに嬉しそうです。」


お力になれてよかったです。


「これからも…よろしくお願いしますね。星野さんのこと。

お疲れ様でした。」



最後の一言が予想外でびっくりした。

よろしくって。何を?


控え室に戻り、由美ちゃんと荷物を運んでエレベーターホールまで行き、乗り込んだ。

会社まで戻り荷物をおろして商品部まで戻す。

2人してほーっと肩を撫で下ろした。



お疲れ様。由美ちゃん。ありがとう。


「お疲れ様でしたー。かおるさん…年末年始大変だろうけど頑張って下さいね…」


うん。頑張る。

さぁ、帰ろっか!



気づけば5時を回っていた。




帰り支度をしながら気づいた。

スマートフォンがない。

え?どこに置いてきてしまったんだろう…

考えろ。考えろ…あー。控え室だ。

マジか。もー体力の限界なのに。

あとは帰って布団にダイブして気絶するだけだと思ってたのに。

なんで昨日の夜が寝れなかったんだろうかってくらい今は眠たい。


会社からあのスタジオまでなら歩いても行ける。

外はまた冷え込んできた。

とりあえず歩くか…

眠気覚ましに頑張って歩いた。

結構息も上がって体温も上がって気持ちがいい。


「そーゆーとこも好きですよ。」


風が通った瞬間今日言われた言葉を思い出した。

忘れてたのに…忌々しい風だ。


やっとラジオ局に着いた。

うっすら汗までかいている。

搬入口に向かった。



すみません、丸紅藤井の者ですが、忘れ物をしてしまって。


「そうですか。もうほとんど関係者の方は帰られましたから、誰もいないかもしれませんよ?1人で行けますか?」


大丈夫だと思います。


「じゃ、これ。」



また「visitor」を渡される。

同じエレベーターで下まで降りる。


ピンポーン


エレベーターが運び終わったから早く出ろと言わんばかりに重たい扉を開けてくれた。

今日の現場に向かう。

控え室3番。

まだ明かりが付いていた。


コンコン。



「どーぞー。」


失礼します。


「かおるさん。お疲れ様でした。」


星野さん…


「どうしたんですか?」


電話を。忘れてしまって。


「ですよね。ボクがさっきかけたらここで音が聞こえたんですよ。きっと取りに来るだろうなと思って待ってました。」


他の皆さんは?


「もう帰りましたよ。」


石田さんも?


「石田くんも」



やばい…



「そんな顔しないでください(笑)何もしませんよ」


わたしはどんな顔をしてましたか…


「オオカミを前にした…子ウサギみたいな?」


ふふっ。そんな怯えてます?


「少しだけ。」


さっき帰りがけに石田さんに言われました。

これからも星野さんをよろしくって。


「ボクもそれ言われました。」


どうゆう意味でしょうね…?


「さぁ…さて。帰りましょう。眠たいんでしょ?」


眠たいです。

なんならもうここで寝れます。


「そんだけ濃いクマ作ってるんだもん。

びっくりしました。」


誰の!

誰のせいだと…


「ふはは。ですよね…すみません。」


ごめんなさい。


「今日はありがとうございました。

それを伝えたかった。途中で帰ったの知ってたけど、抜けられなかったから。」


あれで…大丈夫ですか?


「文句無しですよ!ほんとにかおるさんを指名して間違いなかった!と心から思ってます。」


よかった。それを聞いて。

安心しました。



あー。視界がぼやけて来た。

まだまだ終わったわけじゃない。どっちかと言えば今からだ。

なのに星野さんがそう言ってくれたのが本当に嬉しくて。肩の力が抜けて膝に力が入らなくなった。



「ちょ!かおるさん!?」



星野さんが慌てて駆け寄ってきた。



ふふっ。すみません。

星野さんにそう言われてなんだか緊張の糸が少し緩んじゃったみたいです。


「立てますか?」


おかしいんですよ?脚に力が入らないの。



わたしの背中と膝の裏に腕を入れひょいと持ち上げたて近くのソファまで運ばれた。



「びっくりした。急に崩れ落ちるんだから。」


1日緊張してましたからね…

星野さんもちゃんとホシノゲンさんだったし。

バンドメンバーさんにも失礼のないようにと思ってましたし。


「亮ちゃんがね。めっちゃ褒めてました。センスがいいねぇって。CDTVの方の衣装に全員赤いの入れたでしょ?あれが気に入ったみたい。」


あー。よかった。思い付いたのはここでですけどね。


「すごい思いつきです。」



そう言えば黒紋付に赤い重ね衿を入れた。男性陣も

より妖艶に見えるように。



気に入ってもらえてよかったです。


「かおるさん…そろそろ敬語やめませんか?」


え?


「もう他人行儀な感じは嫌だなぁと思って。

少しずつ慣れてけばいいんですけどね?いきなりタメ口になるのは…ボクも無理だから。」



そう言って…星野さんはわたしのおでこに優しく口づけをしてきた。

突然の出来事に口をパクパクしながら手でおでこを抑えて赤くなることしか出来ない。



「ふふ。ちょっと先走っちゃいました。」


な、なにを。突然…


「次は。こっち。でも全部終わるまでお預けです。」



そう言って人差し指をわたしのくちびるに当てる。



星野さん…あなたは本当に心臓に悪いですね。


「そうですか?かおるさんこそ。いつものパリッとした感じじゃないですよ?今は。」



確かにね。今は脚にも力が入らないし。立つこともできない。

何をされても抵抗は出来ない。

心臓だけが今までになく忙しい。



「もう少しだけ。一緒にいませんか?」


…はい。



そう答えるしか出来なかった。

ソファにピッタリ寄り添われて。肩貸しますって笑いながら言ってわたしの頭を倒した。

わたしの手を取り、大きな手ですっぽり包んで。手の甲をなぞられるのが気持ちいい。

優しい体温に誘われるようにわたしは目を閉じてしまった。