vor.25 アルバートとマリー ②
右わき腹を馬に踏まれた私は、馬の走り去る蹄の音と、男たちの声が聞こえました。
「おい 女を踏んだぞ ! ! ! いいのか ? ? ?」
「あれは もう助からん ! ! かまっている暇はない ! ! 急げ ! ! !」
【普通だったら声なんか聞こえない距離なのに、まるで近くにいるように、やけにはっきり声が聞き取れました。そして、その時の彼らの立場も分かってくるのです。 彼らは国に重要な情報を伝える「伝令」だったと思います。】
土ぼこりと息苦しさ。右わき腹がカーッと熱くなりました。
不思議なことに痛みはほとんどありません。
【現在の私のわき腹の違和感は強くなった気がしました。】
赤ちゃんはいなくなった・・・・そう感じました。 ものすごい空虚感です。
意識がもうろうとしてきました。 アルバートの私を呼ぶ悲痛な声が聞こえました。
私は抱きかかえられ、アルバートの顔とやけに澄み切った青空が目に入りました。
アルバートの額から血が流れています。 アルバートは私を押した後、馬の足に引っ掛けられたのでしょう・・・森の方へ落ちたみたいです。 アルバートはぐしゃぐしゃに泣いています。
「大丈夫 ?」と聞きたかったのですが、私は話せないことに気がつきました。
「マリー・・・平気だ。大丈夫だ。 俺が助けるから・・・・・お前を助けてやるから・・ 3人で仲良く暮らそうな・・・・」 アルバートの手は震えていました。
アルバートが泣いている・・・悲しんでいる・・・慰めなきゃ・・・・・ 【現在の私もとても悲しくなって泣けました。】 すると、視界がだんだんぼやけて真っ暗になりました。
体が急に軽くなりました。 どうやら、マリーの肉体は死んでしまったみたいです。
すると、上空からなんとも言えない綺麗な光が降りてきました。
【よく臨死体験をした人が光のトンネルを抜けたという話は聞いていましたが、まさにそんな感じでした。光が迎に来てくれたのだと感じました】
マリーは本能的に、その光の下に行こうとしました。
! ! ! ! ! ! ! ! !
急にマリーの頭の奥からアルバートの声がものすごい音となって響きました。
ハッとして、マリーは後ろを振り返ります。 そこには、マリーの体にしがみつくアルバートがいました。 「マリー ! ! 死ぬな ! ! 死なないでくれ ! ! 俺を置いていかないで ! ! 」 その声は悲痛なエネルギーとなってマリーの魂に激しくぶつかってくるようでした。
アルバートは泣き叫んで、マリーの心臓に何度も何度も耳を当てて、また心臓が動くのではないかと確認しています。 体を揺らしながら、彼は半狂乱になっていました。
それを見た時、マリーの悲しみが戻ってきました。
光を感じた時は、マリーの感情は真っ白になって何も感じていませんでしたが、
再びアルバートに 対して思いが強くなりました。
「このまま彼を置いていけない・・・・」 気がつくと、マリーの横には小さな光がありました。
それはお腹の中にいた赤ちゃんでした。