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石川県人 心の旅 by 石田寛人

短歌

2023.06.24 15:00

  今月の3日と4日に行われた金沢市の百万石まつりは、絶好の天候に恵まれて、大勢の見物衆は祭りの楽しさを満喫した。この祭りは、10月14日から11月26日まで行われる「いしかわ百万石文化祭2023」(第38回国民文化祭 第23回全国障害者芸術・文化祭)への金沢市の応援事業としても位置づけられており、祭りの賑わいで、今秋の文化祭の豊かな実りを確信した。

 百万石文化祭の期間には、石川県実行委員会主催事業として、開会式閉会式をはじめ、リーディング事業や障害者芸術・文化事業が多彩に繰り広げられる。また、市町実行委員会主催事業として、地域文化発信事業と文化団体事業が行われ、他にも特別連携事業や応援事業、協賛事業と多岐にわたって各種の事業が挙行される。私は、小松市の実行委員会の一人として、5月17日開催された会合で文化団体事業の中の「全国漢詩の祭典」の責任者である小松天満宮北畠能房宮司と展示の充実について話し合った。

 この間、東京で、私の公務員時代の同僚で俳人として著名な筑紫磐井氏こと国谷実氏と科学技術関係の打ち合わせをした際、同氏が七尾市実行委員会主催の文化団体行事「俳句の祭典」の選者の一人と聞いて驚いた。七尾市は「川柳の祭典」も行う予定で、川柳と聞くと、その名手でもある倉部行雄先輩の顔がいつも瞼に浮かぶ。

 今月になって、北國新聞歌壇の選者の一人で、私と同学年の歌人永井正子さんから電話を頂いた。永井さんは、かほく市が文化団体事業として行う「短歌の祭典」の実行責任者で大学生の応募者を増やすべく尽力しておられて、すでに金沢大学にアプローチされ、公立小松大学もどうかというご相談であった。そこで、文学者で副学長の横川善正先生と話して頂き、さらに今や北陸でただ一人の文学部長である金沢学院大学の蔀際子学部長を訪ねて頂いた。永井さんとそんなやりとりをする間、私は、若い頃秘書官事務取扱として仕えた熊谷太三郎国務大臣科学技術庁長官の短歌をしきりに思い出していた。

 熊谷先生は福井市長から参議院議員、そして科学技術庁長官を務められたが、アララギ派の歌人としても知られていた。着任されてまず、大臣室で大臣机の向きを替えたいと言われ、ご指示に従ったら、すぐ「机の位置変へて我が部屋になりし思ひ机は真向かふ皇居の森に」と詠まれた。大臣ご在任中は原子力船むつの対応に大きなエネルギーを注がれたが、なかなか問題は解決しない。そこで一首。「この庁の抱へし難問片づかず心陰りしままに春来る」。この歌は、新聞記者に字に書いてほしいと頼まれて、私が五七五七七に分かち書きして渡し、そのまま紙面に載ったところ、大臣から、歌の姿を勝手に変えてはならないと強く叱られた。大臣はめったに怒られなかったので、この一件で大臣の短歌に対する思いの深さが骨身にしみた。米国カナダ出張にお供したら、歌に詠みこむため頻繁にものの名前を尋ねられた。高速道路上の車中で左右の森林の木は何という名前かと言われたので、現地の人に訊いたら「ロッジ・ポール・パイン」と答えられ、あまりの即物的な表現に思わず息を飲んで、しばし通訳できなかった。ある時、君の好きな歌は何かと訊かれて、とっさに実朝の「もののふの矢並つくろふ籠手のうへに霰たばしる那須の篠原」と答えたら、とても褒められた。大臣は常に万葉集こそ国の宝と言われており、古今集は評価されなかった。元号法制化に努力された大臣は、万葉集からとった元号「令和」を、天国でとても喜んでおられるに相違ないと思っている。[熊谷大臣の短歌は、記憶をたどって記したので、仮名遣いや仮名と漢字の書き分けに誤りがあると思う。ご寛恕頂ければ幸いである。](2023年6月18日記)