まだ見ぬ異国、フランスに憧れた中島敦。
2018.10.04 01:00
作家、中島敦の作品といえば、『山月記』が有名です。
1942年に、「文学界」に発表された、敦のデビュー作。
唐の時代、詩人になろうとした青年、李徴(りちょう)が、願いかなわず、虎になる、中国の古典を下敷きにしたお話です。
最後、月に向って、崖の上で吠えるシーンは印象的ですね。
敦のイメージといえば、つい、漢文調の格調高い文体を思い起こしますが、26歳頃に書いたエッセイ「十年」を読むと、フランスへの憧れを持っていた、ほほえましい青年だったことがわかります。
漢文調の文章は、どこか近寄りがたい気持ちになりますが、このエッセイは、とても親しみやすい新鮮な敦の素顔を見せてくれます。
また、エッセイの中には、萩原朔太郎の詩、「旅上」も登場します。
ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背廣をきて
きままなる旅にいでてみん。
まだ見ぬ異国へと、思いをはせた敦と萩原朔太郎。
呼び交わす思いが、ことばとなってほとばしりでた、その果実としての詩やエッセイ。
敦のエッセイ「十年」、また萩原朔太郎の詩、「旅上」、調布FMラジオ「神泉薫のことばの扉」放送分アーカイブにて聴いてみませんか?
知られざる作家の素顔がのぞき見えるかもしれません。