あかねいろ(1)ロスタイムは4分
12月2日。僕はNHKで放送されているラグビー中継を見ていた。今はなき旧国立競技場で行われているその試合は、後半の38分を過ぎ、ロスタイムを含めても残り数分というところだった。
僕の父親の母校である大学はライバル校に対して14−28で負けていた。トライとゴール2本ずつの差で、そこまでの試合はFW戦で優位に立つライバル校が支配しており、父の母校の敗色は濃厚だった。
5万人を超えるスタンドの8割方はライバル校のカラーのブルーに染まり、赤色の父の母校を力づける声はほとんど聞こえなくなっていた。大きく揺れる青のスタンド、午後の3時30分をまわった冬の入り口のスタジアムには、ライバル校の勝利を確信したように、あかねいろの西日が確信的に降り注ぐ。1日の終わりを告げる太陽は、まさに試合の終わりも告げようとしていた。
僕は一応父の母校を応援していたけれど、出だしから押されっぱなしで、ここまで特にいいところなく来ている様子に若干うんざりしていた。このまま負けるんだろうな、と。僕はいわゆる典型的な野球少年の中学生で、野球ならば7回裏に6−0で負けている、そんな感じだな、などと思っていた。(中学校の軟式野球は7回で終了する)
後半38分、久々に相手のゴール前に差し掛かった赤色のジャージは、ゴール前の10メートル付近にラックを作る。素早いスイープで一等小柄の9番がリスのようにラックに踊り込み、ボールをかっさらい、狭い順目に立っていた14番の選手にフラットな小さいパスを出す。
そのパスに対して、正面に立っていた相手の9番は素早く距離を詰めてくる。しかしボールをもらった14番は、ボールをもらいながら右斜めにスワーブを鋭く切る。縦に勢いよく詰めてきた9番をひらりとかわし、タッチラインぞいギリギリを、足を小刻みに、腿を高くあげながら、ラインを踏まないように意識を集中して、ゴールラインへ疾走する。何人かのディフェンダーが足元めがけて飛び込んでくるが、その手は14番の足にはかからない。インゴールに入った14番は、そこがゴールではない、真ん中がゴールなんだとばかりに、インゴールの真ん中付近まで全力で進み、そこにグラウディングをする。
19−28。時計は40分を指している。大学の試合ではまだロスタイム制を敷いているので、フォーンはならない。ロスタイムの掲示は4分。