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シーズーと一緒に映画

シーとマリア Part4

2018.07.25 05:27



蝉の声



蝉の声が、一瞬、聞こえました。

東の窓の古びたベージュのカーテンが、採光により明るくなっています。

iPhone7の時刻は、午前9時を過ぎていました。

少し、寝すぎてしまいました。


7月も後半になって、暑い日が続いています。

普段、寝室にしている2階の、白い壁にフローリングの洋室は、西陽を浴びて、室内温度が上昇し、蒸し風呂のように暑くなります。

数日前から、唯一エアコンが備えてある1階の茶の間で、寝ていました。



飲みかけの缶コーヒーを口にしながら、ベージュのカーテンだけが、仄かに明るい部屋を、見渡しました。

古い正方形の掛け時計、壁に差し込まれた大きな茶箪笥、愛犬シーズーのシーの大き目のゲージ、シーのご飯用の赤い器、水用のカップ…


あれ?

シー


部屋の中で、寝ているはずのシーは?


シー


何も返って来ません。

物音も聞こえません。


どこか別のところで寝てるかな?


起き上がって、茶の間に繋がる8畳ほどのキッチンを、覗きました。

夏の湿気が、ムッとします。


それから、浴室のある洗面所。

廊下の奥にあるトイレ。

戻って来て、玄関の広間。

どこにも姿がありません。


仏壇を悪戯されないように、襖を閉めている仏間とその縁側。

いません。


シーは、階段を登れませんけど、念のために、2階の寝室と和室、トイレ。

いません。


シー


汗が、額から滲み出て来ました。

もう一度、1階の茶の間、キッチン、洗面所、トイレ、仏間、縁側。


再び、2階に上がり、寝室と和室、トイレ。

やはりどこにもいません。

タオルハンカチで、止まらなくなって来た汗を、繰り返し拭いました。

焦げ茶色の玄関の引き戸の扉も、閉まったまま?

いや、鍵がかかっていません。


まさか

外に


枯れたような1本の白い木を除いて、何もない空虚な庭。

小さな赤い煉瓦造りの門を出て、屋根付きの駐車スペース。

そして、ちょっとした小さな花が彩る花壇に挟まれた、公道につながる20mほどのアスファルトの通路。

やはり、どこにもシーの姿はありません。


通路を走り、垣根付きの歩道に出ました。

東西に公道が走っています。


できるだけ、遠くまで

よく見て


東の方角には、強い陽射しの中、国道6号線との信号機のある交差点が確認できます。

垣根付きの歩道沿いには、色とりどりの一戸建ての住宅が、整然と並んでいます。


西の方角には、少し先の左側に、アサノスーパーの看板を兼ねた四角い屋根が聳え、やはり垣根付き歩道沿いに、整然と一戸建ての住宅が並んでいます。

東の方角にも、西の方角にも、犬の姿は見当たりません。


シー


焦燥が、頂点に達しようとしています。

まだ、現実がよく飲み込めていません。

グレーのTシャツが、汗に滲んで黒く見えます。

汗だらけで、再び、急いで家に戻り、1階、2階、家中探し回りました。

やはりどこにもいません。


シー

シー


心の底で繰り返しながら、再び、垣根付きの歩道まで戻りました。

もう、夏の陽射しが、アスファルトの道路を、蜃気楼のように、歪みさせています。

汗は、もう止まりません。


照り返しの強い公道を、普段と変わらず、乗用車やトラックが通り過ぎます。

学生風の若い女性が、ハンカチを扇ぎながら歩いています。

垣根付きの歩道沿いには、シーがよく匂いを嗅ぐ、鮮やかな紫色の松葉菊が、並んでいます。

いつもと変わらない風景。

しかし、シーだけがいないのです。



ふと足下を見ました。

1匹の蝉が、腹ばいになって横たわっています。

時々、微かに震えます。


まだ、生きている


そっと、元に戻してやりました。

しかし、蝉は、もはや寿命なのか、それ以上動きません。


先日、シーが散歩の際に、庭のどこかで鳴いている蝉に向かって、吠えていたことがありました。

いくら吠えても、もちろん鳴き止むことはありません。

しかし、シーは吠えていました。


蝉を追いかけて、どこかへ行ってしまったのか

まさか


夏の激しい陽射しの下。

蒼いタオルハンカチで、止まらない汗を拭いながら、マグダラのマリアに、LINEを送りました。


シーが、どこかに行った