川の日だから川の字のある作家さん特集
こんにちは。
7月ですねぇ。下半期が始まってしまった感じですよ、皆さん。
さて、今回のお題ですが、7/7にあやかっております。
7/7、何の日かおわかりになりますでしょうか、そう、川の日です。
知らんがなと思われるかもしれませんが、国土交通省が定めた正式なものになります。由来は勿論、7/7が七夕で「天の川」だからってことと、あとは何かもろもろらしいです。よろしければ調べてみてください。
このブログ、昨年の8/10更新の際「(8/11が)山の日だから山の字のある作家さん特集」を掲載したのですが、この時、私は即座に検索をかけたのです、じゃあ川の日はいつだ、と。山のつく作家さんも多いが、川のつく作家さん多いぞ、楽しいぞ、とひとりでに盛り上がり、既に過ぎ去っていた7/7であったことに気を落としながらも来年こそはと決意したのでした。
ということで川の字のある作家さん、皆さんはどなたが思い浮かびますでしょうか。川〇でも〇川でも構いませんが、河だとグレーです。って勝手に決めてます。
楽しく川を代表する3名の作家さんの3作を紹介したいと思います。
川上弘美『ぼくの死体をよろしくたのむ』
未だに胸きゅんとかを求めてやまない私には、川上弘美さんは大人過ぎるのではと勝手に忌避し、あまり読んでいなかったのですが、タイトルのインパクト、文庫版表紙のセンスに惹かれていたこの一冊を、今回の企画もあって手にとってみました。
18編の短編集ですが、結果本当に、どれも面白い。
可愛いし、きゅんとすることもあって大満足の一冊でした。
一編一編にどういうことを書こうとしているか読者を楽しませる、仕掛けというほど大仰ではない仕掛けがあり、一つ一つ色や絵を重ねていくことでかたちになっていくような構成も素晴らしい。
例えば「大聖堂」という短編。不動産屋にアパートを紹介され、「家賃は格安で2万円、かわりに一匹だけ扶養義務を負う」というルールのもと、茶色いうさぎか、白黒ぶちの猫か、見知らぬ白い小動物か選ぶところから始まる、なんてポケモンみたいな短編、誰でもうきうきしませんか。その動物が自然死以外で死んでしまったら契約が打ち切られる、とかその後説明されるのですが、そんな現実的な感じも良い。もちろん主人公は、見知らぬ白い小動物、を選ぶんですけどね。これがまた可愛いんです。
こういう日常の中にちょっと幻想が入るのも好みでした。思ったよりも難しすぎない、という個人的な安堵もありました。
好きなのが「バタフライ・エフェクト」。手帳の9/1、未来の日付には「二階堂梨沙」という知らない名前があることに気付いた後藤光史。時を同じくして二階堂梨沙の手帳にも9/1の欄に「後藤光史」の名前が。二人は首を傾げながらも、時々思い出す程度にその名前を頭の片隅において日常生活を送ります。そしてどんどん、9/1が近づいていき……。言うまでもなくラストありきの短編ですが、ラストの文章の美しさたるや、という感じでした。
ちなみに、この目をひくタイトルもまた収録されている一つの短編のタイトルです。
川上弘美さん、まだまだ読みたいと思わせられたお得な短編集。ぜひ。
川上未映子『黄色い家』
川、ときいて真っ先に外せないとなったのが、川上未映子さん。元々短編の巧さにいちいち痺れていた作家さんだったのですが、『夏物語』『すべて真夜中の恋人たち』(発売順は逆)の長編作品で立て続けにダメージを受け、私が勝手に畏怖を抱く作家さんとなりました。
現代の純文学作家の最大手の一人ではないでしょうか。
純文学=エンタメ性のない難しい文学、ではなく、人を書く文学という感じです。特に、人の弱さ、を書くのが巧い。その弱さっていうのも、欲に目がくらむとか、脅されて友達を裏切るとか、そんな定番で片づけられるものではなく、自分が今まで見つけられていなかった、もしくは向かい合ってこなかった弱さをぐっと突きつけられるみたいな。ただ、ダメージと言ってしまっていますが、鋭く痛いだけではなく、答えもまた用意されていて、決して冷たく突き放されるわけではないのです。
抽象的な紹介文になっていますが、ともかく『黄色い家』。
これを言わなければと思いますが、むちゃくちゃ面白い、です。帯に「ノンストップ・ノワール小説」とありますが、確かにその先へ先へと読み進めざるを得ない面白さがあります。
2020年を現代として物語は始まります。主人公・花はネットのニュース記事で、かつて一緒に生きていた黄美子という女性の名前を見つけます。60歳になった彼女は若い女性の監禁・障害の罪に問われ、逮捕されたというのです。そこから20年前の回想が始まります。
高校生だった花は、男にだらしがなく頼りない母親の元を離れ、母の友人である黄美子についていき、二人で「れもん」スナックというスナックを始めます。同じく行き場を失っていた同世代の少女二人も加わり、疑似家族的な生活は花に青春めいた幸福をもたらしますが、やがて、無情にもその生活は奪われてしまうのです。
ノワール、闇社会や犯罪小説的な意味ですけれど、これはネタバレの一つかもしれませんが言わせてほしい。10代の女の子のノワール小説といいつつも、身体を売る、というのは一回もありません。これは本当に、川上未映子さんの品性を思わせるのですが、どのように追い込まれる場面があったとしても、そのようなきつさはありません。
テーマ性に読んだ方それぞれいろんな考えが生まれるでしょうし、私の場合、読後すぐちょっと言葉が出ませんでした。ただ花の愚かさとがんばりを噛みしめ、読んでよかったなと、それも本当に些細な場面に思いを馳せたのがまず最初の感想でした。
ずっしり浸れる傑作長編小説です、皆さんぜひ。
阿川弘之『カレーライスの唄』
阿川弘之さん、私の世代的には「サワコの朝」などでおなじみ阿川佐和子さんのお父さんなんですが、小説家としてもビックネームの方です。そんなことは露知らずだった当時の私は、ちくま文庫のコーナーで、ひときわ目を引く可愛いタイトルに惹かれ、さらに猛烈に良いあらすじに惹かれ、手に取りました。
「会社(百合書房という神田の出版社)倒産で職を失った六助と千鶴子。他人に使われるのはもう懲り懲り。そこで思いついたのが、美味しいカレーライスの店。若い二人は、開業の夢を実現できるのやら? そして恋のゆくえは?」
よし買おう、買うしかないとなるわけです。1962年に発表された作品と帯に書いてあったのですが、開いても全然読みにくい古さみたいなものは感じないし、気になりませんでした。何より2016年に刊行されたちくま文庫版の表紙がかわいい。とにかく好きなものが詰まりまくっている、読むしかない。
で、読みました。読む手が止まらない類でした。ところどころ古めかしい振る舞いはありますが、味わい深いといっていい範囲で、550頁にわたるたいへん分厚い小説でありながら、とにかく凄まじく読みやすい。その読みやすさの中に戦後や経済成長期の背景もたっぷり落とし込んでいるので、ちょっと勉強にもなるというお得感。読んでとっても良かったです。
恋愛もメインの一つではあるのですが、テンポの良い会話が際立っている所為で、ウェットになりすぎない良い塩梅です。明るく行動力もある千鶴子の性格や「六さん」という呼び名が可愛さが良い、一方で、その六さんはなかなか踏ん切りがつかないんですけれど、まぁそれも最後って感じですので、そこも楽しみに読んでいただきたいです。
私は勉強になると言ってしまいましたが、少し上の世代の方だと、懐かしいという要素もあるのかもしれません。カレーが食べたくなるのは言わずもがなです。どうぞぜひです。
以上です。
山の字がある作家さん、あと今年にした三の字のある作家さんに続く、第3弾でしたが、やっぱりこの企画はバランスを考えるのがまた楽しくて好きです。若干ネタ切れを思わせてしまっているかもしれませんが、実際3人考えてみてください、楽しいですので。
さて、来週からはポラン堂サポーターズのはねずあかねさんの発案から始まった素敵な企画を、何週かに分けてお送りします。
面白くて良い原稿が揃ってきているので早く掲載したい気持ちでいっぱいです。
お時間がありましたら、そちらも読んでいただければです。それでは。