偉人『ジョン・ウィリアムズ』
茹だるような暑さが続きレッスンに通う子供たちも「せんせい、あついよ」と入室してくる。この暑さから子供たちの意識を乖離転換させ学びへ向かわせなければならず、あの手この手でその子にあった方法で対応しなければならない。その方法の一つが映画音楽を取り入れることである。スティーブン・スピルバーグの『ジョーズ』に代表される「ミーファ、ミーファ・・・」で始まるテーマ曲を発しながら首筋や背中をスーッと触るとゾクゾクとするらしく一瞬の清涼感を味わうことができるようだ。また恐竜好きな子供はジュラシック・パークを鑑賞しているため鼻歌を歌い席へ誘えばスムーズにレッスン開始が行えている。これらの音楽を作曲したのが映画音楽界のレジェンドのジョン・ウィリアムズ氏である。
私が彼の音楽に初めて触れたのは父と観た『スター・ウオーズ』だったように思う。彼の作品が映画の中に溶け込んで脚本の世界観を邪魔せず目立つこともない。しかし耳にすると映画のシーンが浮かび上がるように人々の耳にそして心に残るその奥の深さは一体どこから来るのかを考えてみたい。
また存命の人物を取り上げたのには彼の作品が映画の世界観を引き立たせていることと子供達が読む絵本の世界との共通性を感じたからである。ジャンルは違えども共通して言えることはその作品を生み出す側のプロフェッショナルな解釈の繊細さと表現するアイディアの豊かさに富んでいることではないだろうか。この誰にでも与えられそうで与えられない才能というものはさまざまなことの融合がなされた時に出現するのだ。これは過去の偉人と言える人物に共通していることでもある。ではジョン・ウィリアムズ氏にはどのようなことが融合して作品を生み出したのかを考えてみよう。
映画音楽の巨匠である作曲家ジョン・ウィリアムズ氏の生み出す映画音楽は、本当に美しいものばかりで曲の数小節を耳にするだけで映画のストーリーの一場面へと誘ってくれる。映画音楽とはその昔サイレントムービーに出来上がっていたクラシック音楽を当てはめるものであったが、彼の作品は映画作品と音楽の調和とが融合し上手い具合にバランスが取れた音楽であるということだ。例えば『E・T』の少年と異星人が月に向かい飛び立つ瞬間はあの曲でなければならなかったという必然性も感じる。彼の作品はこのようなことが数多あるのだ。
彼の生み出す作品は他者の作品とは一線も二線をも画し、音楽だけを耳にする聴衆も演奏家もそして映画を鑑賞する人々にも喜びを与える。なぜこんなにも人々に喜びや幸せ感をもたらすのか彼の育ちというものが大変興味深く、彼がどのように仕事に向き合って作品を生み出したのかもこれから調べ続けたいと思うのである。今年91歳という彼は映画音楽界から引退を表明したことが大変残念で仕方がないのであるが、まだまだ彼の作品の中でも日の目を見ていない作品があることを期待しこれからも注目し続けたい人物である。
1932年2月8日アメリカ・ニューヨーク生まれの91歳。父がジャズミュージシャンということもあり音楽に囲まれて育った。カルフォルニア大学在学中に亡命ユダヤ人のカステルヌオーヴォに師事し、20歳で空軍に徴兵され、兵役後の23歳でジュリアード音楽院のピアノ科でクラシック教育を受ける。その後オードリー・ヘプバーン主演の『ティファニーで朝食を』を作曲したヘンリー・マンシーニの楽団に席を置き映画音楽の世界に進んでいくのである。
その後スティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカス作品を中心に多くの映画音楽を担当している。冒頭で取り上げた『ジョーズ』に始まり、子供の姿がありのままに描かれている『ホーム・アローン』、スケールの大きな『未知との遭遇』や『スターウォーズ』『スーパーマン』『インディ・ジョーンズ』、子供達が大好きな『ジュラシック・パーク』『ハリー・ポッター』と色々作品はあるが、彼の最高傑作の一つと言われるのが『シンドラーのリスト』である。物悲しさと人間の内面から滲み出て来る悲哀が際立っていているのだが、脚本に重みを加え映像や言葉以上の音が魂に響き渡り涙が溢れてくる。ジョン・ウィリアムズ氏の作品は言葉以上の深いところで人間の魂の音語りである。
彼は365日毎日欠かさずピアノの前に座り作曲を続けているそうである。何かを生み出そうと必死になっている過去の音楽家とは異なり、心のままに楽しむことを良しとしているとしか思えない。ゴルフが好きで散歩が好きで、音楽をこよなく愛し常にユーモアを忘れない人柄、だけれども音楽を通しての表現や脚色をすることには貪欲で意表をついてくるあのスケールの大きさや油断していると涙がこぼれ落ちたり心揺さぶられたり、じんわりと音楽が作品だけではなく人の心にも溶け込んでくる。彼の紡ぎ出す音楽は彼自身が音楽と向き合うことで癒されているからこそ人を癒すことができる作品を産むことができているのではないだろうか。
ではなぜ彼がそのように活動ができたのか、これは私の勝手な想像であるがそれはやはり彼が育った環境の中で耳にしてきたジャズが影響していると考える。ジャズは20世紀初頭にアメリカ南部の黒人によって生み出されたブルースであるが、ジャズの演奏には演奏家自身が個性的な音楽を即興で作り出す側面がある。父の奏でるジャズ、耳にするジャズこそが彼を映画音楽に誘った理由であろう。彼自身の根底に流れているのはジャズの表現魂のようなものであり作品はクラシックを基盤に作り上げている。この世の中に存在するものは単一的なものでは決まりきった面白さや良さしか生まれてこないが、相反するもの同士が融合された時の効果は絶大である。ジョン・ウィリアムズの音楽にはその融合があり、彼の人柄から滲み出るものとの融合で人々の心の中に残る映像としての音楽が生き続けているのではないだろうか。こう考えると子供がどのような環境で育つかによりその後の人生をも左右されることがまた明らかとなった。彼の人生を記す本が発刊された機会が訪れる日がくることを願いつつ、今回は余白を残す形でブログを締めたいと思う。
最後に彼の人柄を取り上げる画像がYouTubeで投稿されている。その映像を見れば彼が優しさに溢れている大巨匠であることは明らかだ。
ある日ジョン・ウィリアムズの家の前でスターウォーズを演奏するイタズラ的行動をした少年と成人男性がいた。映画音楽の巨匠は彼らの演奏中に玄関を扉を開け手を振り、演奏が終わると彼らの前に現れて「あの高い音は出せないと思って聞いていたよ・・・」と言って13歳の少年を褒め称えた。84歳の映画音楽界の巨匠は驕り高ぶることなくのユーモアを交えながら優しさ振りまき、作品のみならず誰とでも調和する柔軟な老紳士であったことが証明された映像である。検索するとすぐに見つかるのでご覧になってはどうだろうか。