役目を終えた聴導犬、そして聴導犬に適さなかった犬たち 最後は家庭犬として幸せに
「いぬのきもち」より転載
ここでは、犬と、犬を取り巻く社会がもっと幸せで素敵なものになるように活動している方々をレポートします。
今回は、保護犬を引き取り聴導犬の育成をして、聴覚障害のある方々に無料貸与を行う日本聴導犬協会の福祉の取り組みについて紹介します。
聴導犬は人と強い信頼関係で結ばれることで、24 時間命を守ってくれる存在
協会で25年間ソーシャライザーをしているOさん。飼い主さん募集中の、のこくんを預かり中
「今は、当協会の聴導犬の85%が保護犬や、私たちの活動に賛同するブリーダーから譲渡してもらった犬で、あとは素質のある犬をブリーダーから購入しています」と日本聴導犬協会代表の有馬もとさんは解説。
聴導犬としての素質の見きわめ、訓練方法については、英国式を土台に、有馬さんが試行錯誤を重ねて改良。そのなかでも大切なのは、候補犬たちを、ソーシャライザーと呼ばれる一時預かりをするボランティアの家で定期的に過ごさせること。さまざまな家族構成や環境に慣れていくために、候補犬たちは2~3カ月おきに異なるソーシャライザーの家を移動していきます。
「ソーシャライザーさんに必ず守ってもらうのは、犬が悪いことをした場合、決して叱らずに無視すること、言葉での指示を出さないことなどです。まずは人との信頼関係を結ぶことがとても大切なんです。また聴導犬になる犬は、おとなしく従順というイメージがありますが、多少やんちゃで好奇心が強い犬のほうが適していることも」と有馬さん。
そして、訓練をしたものの聴導犬に適さなかった保護犬たちは、協会が責任をもって、家庭犬として一般家庭に譲渡をしていると話してくれました。
聴導犬になれなかった保護犬は家庭犬として幸せに
Kさんご家族に家庭犬として迎えられたのぶくん。自然豊かな場所にいっしょに行くのが楽しみに
長野県にお住まいのKさんは、2021年に協会から「のぶくん」9才を家族として迎えました。その前に協会から迎えたすずくんが虹の橋を渡り、家族みんなが深い悲しみを感じていたなか、のぶくんを紹介してもらったそうです。
「その前には1年間協会のソーシャライザーをしていましたが、また保護犬を家族として迎えたいという気持ちがありました。のぶくんは、最初は留守番が苦手で、私が家を離れると何時間でも鳴き続けていたんですが、協会のスタッフの方が毎日丁寧にアドバイスをしてくれたおかげで、留守番もできるように」とKさん。現在は、少しでも多くの人に聴導犬になれなかった犬も幸せに暮らしていることを知ってもらいたいと、のぶくんとの生活をSNSで発信。
最後に有馬さんは、「日本での聴導犬の認知度は、英国などに比べたらまだ低いのが現状です。当協会は、無償で聴導犬を貸与する福祉事業なので98%は寄付で運営しています。今後もっと多くの人に活動を知ってもらえたら。そして、聴導犬を待つユーザーさんに、一頭でも早く貸与できるよう今後も活動していければ」と語ってくれました。
※保護犬の情報は2022年12月7日現在のものです。
出典/「いぬのきもち」2023年2月号『犬のために何ができるのだろうか』
写真/田尻光久
写真提供/日本聴導犬協会 MAYUMI
取材協力/パークサイドカフェ・バーゼル
取材・文/袴 もな