中国共産党の観察(日本語版)発売開始
この度、 殷海光編著、弊社翻訳出版による電子書籍「中国共産党の観察(日本語版)」がAmazon.co.jpのほか、中国国内を除くAmazonの各プラットフォーム上にて発売開始となりました。
中国共産党の本質に迫る!
国共内戦期の中国上海で出版されたリベラル派知識人による渾身の一冊!
はじめに
本翻訳書籍の原書は一九四八年に上海の「独立出版社」から出版された殷海光の編著による「中国共産党之観察[1]」である。殷海光(一九一九年十二月五日~一九六九年九月十六日)は元の名を殷福生といい、湖北省生まれ、国共内戦末期に台湾に渡ったリベラル派、自由派の先駆的知識人であると言えよう。参考文献によれば、原書は殷海光が職務外で創作した個人作品であり[2]、実際の執筆時期は一九四六年であったようである[3][4][5]。殷海光は若くして中国国民党の機関紙という位置付けであった中央日報等に任職し、原書の論調もまた基本的に中国国民党蒋介石政権支持の立場なのであるが、その後の歴史は殷海光の期待とは異なる道程を歩み始める。中国共産党が中国大陸を制圧して一九四九年十月に中華人民共和国の建国を宣言し、中国国民党は台湾へと逃れ、海峡を挟んでの分断統治状態となる。朝鮮戦争の勃発という国際情勢の大きな変化によって米国による台湾支援が始まると、中国国民党政権は台湾において独裁の色合いを益々強めていく。これに対し、殷海光等は雑誌「自由中国」等を足場として政権批判のトーンを強めていくのであるが、結果として、雷震等は逮捕投獄され[6]、殷海光は後に国立台湾大学の教職の現場から追われ、抑圧を受け、一九六九年に若くして病死することになる。殷海光の死後、台湾社会は長い時間を掛けながら、民主化を徐々に確固たるものとしていったが、そこには日本の植民地統治時代における台湾議会設置請願運動等の潮流とともに、殷海光等のリベラル派による啓蒙活動もまた民主化の実現を可能とする市民社会の構築に大きく寄与したのであろう。
さて、弊社は中国大陸にて登記運営をしている日系企業である。対立、矛盾の次元を超越すべしという平和学の理念を重視しており、自由か、平等かといった二項対立の中に軸足を置いているわけではなく、そもそも実際政治の要諦は、刻々と変化する情勢の中で、その時々の状況に応じて柔軟に、より良い選択をすることにあると考えている。当然ながら、原書における殷海光の主張とは完全に一致するものではないが、殷海光の中国共産党に対する観察の眼差しは鋭く、現在の私達にとっても、大いに参考となるものがあると考えるがゆえに今回の翻訳出版を企画するに至った。
今回、翻訳出版にあたっては、底本として1948年の初版を使用した。なお、翻訳作業にあたっては、原文に沿ってできるだけ忠実に訳すことを心掛けたつもりである。ゆえに、たとえば、原文中にある「共党[7]」はそのままにした。
最後に、弊社からの問い合わせに対して、真摯に応じていただいた台湾の国家図書館、桂冠図書公司、国立台湾大学出版中心ほか、関係者の皆様に、この場を借りて厚く御礼を申し上げるものである。
Peace Culture (Shanghai) Translation Co., Ltd.
和文(上海)翻訳有限公司[8]
二〇二三年七月十三日
上海長興島において
目次
表紙
標題紙
はじめに
原書標題紙
原書前書き
原書目次
第一章 序論
第二章 中国共産党史略
一 中国共産党出現の背景
1.歴史的背景
2.国際的背景
3.国内的背景
二 中国共産党の発展
1.創設段階
2.国民革命参加段階
3.盲動段階
4.抗日戦争段階
第三章 中国共産党の特性
一 詭変性
二 独占性
三 固執性
四 国際性
五 暴力崇拝
第四章 中国共産党と中国現代政治
一 中国共産党は民主を実行するのか?
二 中国共産党と中国の国際関係
三 中国共産党は平和を主張するのか?
第五章 中国共産党の副産物
第六章 中国共産党は成功するか否か?
一 クレムリンの意向によって決まる
二 ホワイトハウスの対華政策によって決まる
三 中国の主たる政治的動力の強弱によって決まる
四 中国の社会状態によって決まる
五 中国共産党自身の風格によって決まる
第七章 中国共産党問題を如何に解決するのか?
原書著作権情報
おわりに
著作権情報
注釈
おわりに
原書に関する著作権の確認作業を実際に開始したのは、偶然であるが、奇しくもロシアによるウクライナ攻撃の開始日たる二〇二二年二月二十四日であったことをここに付け加えておく。世界平和が実現することを願ってやまない。
Peace Culture (Shanghai) Translation Co., Ltd.
和文(上海)翻訳有限公司
二〇二三年七月十三日
上海長興島において
短歌:殷海光忌に
(2022年9月16日)
独裁に
怯むことなき
自由の士
大河東流
阻めぬ民主
[←1] 殷海光「中國共產黨之觀察」(獨立出版社、1948年)。
[←2] 万昌华「自由主义的一代宗师殷海光」(当代中国出版社、2003年、73ページ)。
[←3] 何卓恩「殷海光与近代中国自由主义」(上海三联书店、2004年、63~64ページ、322ページ)。
[←4] 殷海光、林正宏、潘光哲、簡明海「殷海光全集5 光明前之黑暗/中國共產黨之觀察」(國立臺灣大學出版中心、2009年、電子書籍裏表紙)。
[←5] 何卓恩「自由主义的新遗产:殷海光、夏道平、徐复观政治经济文化论说」(九州出版社、2013年、53ページ、266ページ)。
[←6] 1960年の雷震事件、自由中国事件。
[←7] 共産党。
[←8] 2016年に上海で設立の日系企業。