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日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第四章 風の通り道 12

2023.07.15 22:00

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第四章 風の通り道 12


「樋口と大友を収容したら、すぐに出発する」

 嵯峨朝彦は、バスから降りるとそのように強く支持した。周辺の警察官はすべてそれに従い、救急車に腰から血を流している樋口と、バスにはねられて気を失っている大友を収容した。もちろん、大友には手錠をかけて拘束することを忘れてはいない。

「嵯峨朝彦殿下ですね。何度目かですが、このように動かれている姿は初めてで」

 奥の自動車から降りてきた紳士が、朝彦の前に立った。

「阿川総理ですね。ご無沙汰しております」

「何か手伝うことは」

 阿川首相は、自身も捕手を代表する政治家であると自認しているので、簡単な挨拶だけですぐに次の行動にとりかかろうとしていた。

「総理、京都府警がこの場は収集してくれるでしょう。しかし、それでは漏れがあるとよく刈りません。この場に残って総理が直接指揮をしてください。その代わり今田君は借ります」

 さすがに、このような騒ぎになれば、すぐにテレビカメラも入る。当然にここに残っているほうが政治的には目立つし、政治的なアピールもできる。また、官僚組織の中では首相が直接指揮をすることのほうが良いに決まっている。

「殿下は」

「陛下を助けに行きます」

「陛下、それならば私が」

「いや、陛下を補佐し守ることは公家の仕事ですよ。」

「わかりました。ではいくらかの警察官を今田君の指揮下に入れるように手配します」

 阿川は、すぐにわかった。

「総理、それよりも中国の・・・・・・」

 今田は、中国の李首相が気になっていた。はっきり言って、かなり危ない状況であることは間違いない。何とか助けなければならないしまた、日本において海外の要人を守ることができなかったということに関して、その内容をうまくとりつくろわなければならない。何よりも、そのことをマスコミに先に出されては困るのである。

「わかっている。中国人をすべて救急車に入れて、先に病院に行かせよう。もしもだめでも、まだ治療を続けるということで、しばらくは面会謝絶にしておけばよい」

 阿川は、すぐにそのように手配した。今田はいつもの癖でそれをメモに取っている。

「かしこまりました。そのよう・・・・・・」

「今田君、君は嵯峨殿下と一緒に陛下を守ってほしい。この辺の警察官をまとめて一緒に行くように」

「はい」

 阿川総理はすぐにほかの秘書官などを近くに呼び樋口や大友に関する指示をすると、現場の警察のトップを捕まえて京都府警本部に応援要請をするようにした。この首相、国民の人気も高いが実際にこのような緊急時になると仕事ができるタイプである。

 そのような阿川を見て、大丈夫と思ったのか、今田陽子は嵯峨の乗っているワゴン車に一緒に乗り込んだ。

「阿川君はいつもあんな感じなのか」

 嵯峨は、そういいながら運転席に支持を出した。。運転席には東御堂正仁、東御堂信仁の息子が運転していた。親子で連絡をしながら追いかけたほうが早いと判断したのである。

「はい、何かを決めてその方向で進むときは、総理はあんな感じです。」

 窮屈なのか、今田陽子はワゴン車の中で、上着を脱ぎ、ブラウスとスカートだけになった。非合法ではあるが、今回は警察の許可があるということで、このワゴン車の中には武器も少しは入っている。戦おうと思えば、戦えるような設備になっている。青田博俊がセットしたシステムが動き、この先に、天皇の車があり、その前に陳文敏の車が待ち構えていることがわかる。嵯峨朝彦はそのことを運転している東御堂の息子に伝えた。

「間に合わないかもしれません。」

 当初の予定では、このワゴン車を樋口が運転する予定であった。しかし、そのっ樋口が負傷してしまった以上、別な人が代わりに何かをしてゆかなければならない。

「何とか間に合わせろ」

「はい」

 ワゴン車の後ろには、阿川首相が差し向けてくれたパトカーが2台ついてきている。

「陛下。大丈夫ですか」

「問題はありませんよ。快適です」

 陛下の乗った車は、そのまま木津川の駅の方に向かう計画になっていた。

「荒川君、木津川駅はやめよう」

「は、はい。でもなぜ」

「当然、あいつらはこちらの計画が見えているはずだ。ということは当然に緊急の避難先も知っていて、そこに何かわなを仕掛けているだろう。わざわざ罠にはまりに行く必要はあるまい。」

「ではどこに向かいましょう」

 木津川の会場からであれば、そのまま国道24号線に向かい、そして木津川の橋に向かう。それが道が広く、様々な道につながるものである。しかし、日本の場合「緊急の避難先」というのは、その多くは「災害時」特に「地震や火事」ということがその中心になる。東京都内でも他の地域でも「避難先」というものは、地震や自然災害の場合に限られている。洪水が多い地域は高台でありまた津波が心配される地域は、海から離れたところが避難場所というようになっている。しかし、残念な荒日本の場合は「テロ」や「戦争」というような想定で避難先が設定されることはほとんどないのではないか。そのようにかんがえれば、今回の木津川の河川敷というのも、地震の時に倒れてくるなどの者がなくまたヘリコプターなどが駐機しやすい広い場所があるということに他ならない。

 しかし、そのように広い場所があるというのは、今回のような「狙撃」には、逆にどこからも狙われるということを意味している。ましてや会場の駐車場であれだけ爆弾を使えるということは、そのままロケット砲などをもってヘリコプターを落とす力があるとしてもおかしくはないのである。そのような所に陛下をお連れするわけにはいかない。

「西大寺へ」

「西大寺ですか」

 東御堂の指示に、荒川は意外性な声を上げた。

「荒川君、西大寺と言っても寺に行くわけでもなく、駅に行くわけでもない。西大寺から少し言ったところに平城京跡がある。たしか朱雀門などを復活させている。」

「しかし、殿下。そこでは木津川から輪と同じようにどこからも狙えるではないですか」

「いや、周辺に建物もなく、植樹もされていない。せいぜい、朱雀門の跡しかないではないか。かなり遠くから狙撃しなければ出来ないし、そのような狙撃は前から準備していなければできない。陛下。いかがでしょうか」

 東御堂は、陛下の方に向き直った

 天皇は、にっこりと笑うと、そのままうなづいた。

「東御堂信仁殿から連絡。平城京朱雀門跡に向かうということです。」

 息子の正仁は、そのように大声で行った。

「こちら官房参与の今田です。自衛隊機及び装甲車を大至急平城京朱雀門跡に。そして、陛下を輸送するヘリと護衛機をお願いします。」

 今田陽子は、ワゴン車の中ですぐにその手配を行った。その間に嵯峨は東京に残っている青田に連絡をし、他のメンバーがどこにイルカをすぐに検索させた。ワゴン車はさながら現場指揮官の指揮者のようになっている。

「裏道を行きます」

「早く着けばどうでもよい」

 東御堂正仁は、そのまま右にハンドルを切った。

「あいつら、木津川にはいかないみたいだな」

 ワゴン車を追っていた陳文敏は、そう言うと、着けていたインカムを外し、窓から外に捨てた。