[小説] 味覚と視覚と
僕が一人、道に迷っているとどこからか少女が現れた。
「こんにちは!お困りですか?」
――道に迷っているんだ。
「・・・あぁ!ここなら案内できます。こちらですよ!」
そういって少女は僕の肘をもち、歩き始めた。
「今日は天気が良くてよかったですね。空が真っ青です。」
「青・・・そうですね、青はハッカ味です。・・・スーッとして爽快感があります」
「そうだなぁ、緑は苦い・・・でもキャベツとか美味しい苦みもありますね」
「黄色は酸っぱいなぁ~、レモンとか!」
「あ、曲がりますね」
「赤は辛いかな!でも甘酸っぱくもあるような・・・」
「橙色は暖かい。味じゃないけど、やっぱり暖かいです。」
「だとしたら青とか水色は冷たいかな。ヒンヤリと気持ちいい」
「段差あります、気を付けて」
「ピンクは甘いです。思わず幸せに思えるぐらい」
「あとは・・・・・・」
車の音、信号機の警告音、クラクション、話声、独り言
服の擦れる音、電光掲示板の声、セミの鳴き声、傘・・・日傘をさす音
そして横に聞こえる少女の声
「あぁ、着きました。すみませんいろいろと喋ってしまって」
・・・・・・
「・・・私の色は、虹色です。もしあなたが今後、何かを食べるとき、温度を感じたとき、私を感じてください。色を感じてください。必ずですよ。
世界は私の色で溢れています。・・・大丈夫です。大丈夫ですから・・・」
スッと服を引っ張られていた感覚が無くなった。
あの声は、きっとあの子だ。
子供の頃、病院で知り合った女の子。
入院していた時に同じ部屋で、たくさん遊んだあの子。
お見舞いのお菓子を一緒に食べていた・・・。
僕が先に退院して、そのあとお見舞いに行って、
その時・・・彼女はもう居なくて・・・。
看護婦さんに聞いたら違う病院へ行ったって・・・。
僕は彼女の事を思い出しながら病院の門をくぐった。
彼女の事をすっかり忘れていた。
・・・多分今になって彼女が現れたのは、目の手術を受ける僕を勇気づける為なんだろう。
・・・早く彼女が溢れる世界を見てみたいなぁ・・・。
ポケットに入っていた飴を口に含む。
あぁ、ピンク色だ。