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WUNDERKAMMER

[小説] 味覚と視覚と

2018.07.19 09:29

僕が一人、道に迷っているとどこからか少女が現れた。

「こんにちは!お困りですか?」

――道に迷っているんだ。

「・・・あぁ!ここなら案内できます。こちらですよ!」

そういって少女は僕の肘をもち、歩き始めた。

「今日は天気が良くてよかったですね。空が真っ青です。」


「青・・・そうですね、青はハッカ味です。・・・スーッとして爽快感があります」

「そうだなぁ、緑は苦い・・・でもキャベツとか美味しい苦みもありますね」

「黄色は酸っぱいなぁ~、レモンとか!」

「あ、曲がりますね」

「赤は辛いかな!でも甘酸っぱくもあるような・・・」

「橙色は暖かい。味じゃないけど、やっぱり暖かいです。」

「だとしたら青とか水色は冷たいかな。ヒンヤリと気持ちいい」

「段差あります、気を付けて」

「ピンクは甘いです。思わず幸せに思えるぐらい」

「あとは・・・・・・」


車の音、信号機の警告音、クラクション、話声、独り言

服の擦れる音、電光掲示板の声、セミの鳴き声、傘・・・日傘をさす音

そして横に聞こえる少女の声


「あぁ、着きました。すみませんいろいろと喋ってしまって」

・・・・・・

「・・・私の色は、虹色です。もしあなたが今後、何かを食べるとき、温度を感じたとき、私を感じてください。色を感じてください。必ずですよ。

世界は私の色で溢れています。・・・大丈夫です。大丈夫ですから・・・」


スッと服を引っ張られていた感覚が無くなった。


あの声は、きっとあの子だ。

子供の頃、病院で知り合った女の子。

入院していた時に同じ部屋で、たくさん遊んだあの子。

お見舞いのお菓子を一緒に食べていた・・・。

僕が先に退院して、そのあとお見舞いに行って、

その時・・・彼女はもう居なくて・・・。

看護婦さんに聞いたら違う病院へ行ったって・・・。


僕は彼女の事を思い出しながら病院の門をくぐった。

彼女の事をすっかり忘れていた。

・・・多分今になって彼女が現れたのは、目の手術を受ける僕を勇気づける為なんだろう。

・・・早く彼女が溢れる世界を見てみたいなぁ・・・。


ポケットに入っていた飴を口に含む。

あぁ、ピンク色だ。