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inokichi`s work(ラグビーとライオンズと小説)

あかねいろ(12)性格が変わった?

2023.07.19 13:53

  7月の期末テストの後には、毎年、杉川高校との定期戦が組まれている。

  ラグビー部だけではなく、野球、サッカー、バスケットなどの主要な運動部が、テスト後の1日を使い、毎年試合を行い、どっちが何勝何敗だった、というようなことを大々的に喧伝する。ともに県立高校の伝統校で、ありがちな話ではあるけれど、この定期戦は部によっては主要な公式戦以上に熱が入る。毎年校長以下多くの先生、OB、学校関係者、父兄が足を運んでくる。僕たちの学校の応援部は、1学期のメインは、弱体化した野球部の甲子園予選よりも、こちらに重きを置いている。相手は共学校なので、男子校の僕たちの生徒は一生懸命知り合いの女の子に声をかける。そのため、近くの女子校の生徒もたくさんこの定期戦の日は応援にやってくる。運動部にとってはテストなどそっちのけで、各部がここに向けて準備をしてくる。

  両校とも、地域の中核の公立校ではあるけれど、学校の歴史としては僕たちの学校の方が随分と古く、運動部の実績も僕たちの方が秀でてた歴史を持っている。ただ、ラグビー部だけは僕らの方がかなり日が浅く、彼らの方が4倍くらいの歴史があり、過去の実績も彼らの方が上回っていた。近年は力は拮抗しているけれど、僕らとしても同じ地域のライバル校でもあるということで、否が応でも力が入る。

  そして、3年生のラグビー部員は、レギュラー組以外は多くの人がここで引退となる。今年も3年生19人のうち、12人はこの試合が、いわゆる引退試合となる。残った人だけが、10月からの花園予選まで部活を続けることになる。これは両校ともだいたい事情は同じで、そういう面でも一段と熱が加わる。

  僕は6月の後半の練習試合で3年生の試合に出させてもらい、そこで大元さんとセンターを組んで以来、3年生チームに混じって練習をしていて、この定期戦でも3年生チームの1本目として試合に出ることになった。1年生では僕と深川が抜擢され、2年生からはスクラムハーフの小川さんだけが先発組になっていた。1年生がレギュラーとしてこの定期戦に出るのは、3年生の林岡さん以来で、部としても3、4人目ということだった。



    ラグビーを始めてから、僕はずいぶんとキャラクターが変わった。

   中学生の頃は、いわゆる、真面目で優等生という言葉がそのままの生徒だったけれど、明るく伸びやかで縛りの少ないラグビー部の気風に感化されたのか、あるいは、もともと中学校時代の自分が、本当の自分を縛っていたのか、ずいぶんと楽天的で自信家で、でも、おおらかなキャラクターになってきたように思う。どちらかというと野球をやっていた頃は、陰気臭いタイプだったけれど、ラグビーを始めてからは、よく言えば伸びやかに、悪くいえば軽薄という感じに変わっていった。もちろん、地元の中学校という箱から、ほとんどの人が僕を知らない高校という箱に移ったことで、キャラクターをチェンジしやすかったということもあると思う。

  でも何よりも、ラグビーというスポーツが、僕を解放したという感覚は大いにある。

  自分の体の全体を使い、相手に当たる、全身の力を振り絞る。当たるたびに感じる、迸るような力の伝播。自分一人でできることは限られていて、常に仲間との共同作業が必要で、それゆえのコミュニケーションの多さ、そして、失敗をみんなで助けようというマインドをみんなが持っていること。あるいは、持とうと努力している姿。さらに、何と言っても、自分よりもはるかに大きくて強そうな人が、自分の正面から全速力で走ってくる恐怖に立ち向かう勇気。それら一つ一つが僕に語りかけてくるのは、自分の全身全霊をかけることが、こんなにも自分に快感をもたらすという事実だった。ありのままの自分でいい、素の自分の全てをかけて全身全霊で突き刺さる、それでいいんだ、と。そして、そういう仲間と一緒にプレーをすることにより、自然と、自分だけじゃない、みんなと一緒に、もっと良いいチームなりたい、強くなりたいという気持ちが湧いてくる。



  結果として、僕の高校生活は中学のそれとはまるで別人になった。


  朝練をして一限の休み時間には弁当を食べてしまい、昼は購買でパンを買い、友達の弁当を漁り、授業に興味が持てないと、立川とか、価値観の近い友達と連れ立ってゲームセンターへ行ったり、部室で麻雀をしたり、卓球場で卓球をしたり。勉強は、テストに向けてはほどほどに準備するけれど、中学校の頃のように根を詰めてはしなくなった。学校自体も、そういう類の子もそれなりにいて、勝手にすれば、というような校風でもあり、心地よい風に乗り、僕は自由気ままな高校生へと転化していった。中学までの自分とはまるで違いすぎて、いったい本来の自分はどっちなんだろうと思うこともあったけど、今の自分が素の自分かなと思うことが多くなっていくに従い、自由闊達な生活が染み付いていった。