8巻
8巻
B6版 p192
マンションの役員会メンバーで、お花見会を開催することになった吉家。代理店に勤める鹿西から、真霜との仲を取り持ってほしいと頼まれるが!? みんなの素顔や経歴を初めて聞く吉家だが、知らなかった真霜の過去の話に触れ、なぜか胸がざわついてきて…。一方、平良から吉家にある提案が! 真霜と吉家の高校時代を描く、同時収録の「隣の微熱」VOL.5は、真霜が暴走!!
ーーーーーーーー
集英社マーガレットコミックス 2023年7月発売 桃森ミヨシ
8巻の感想
今回の1冊は主にお花見の1日におきた出来事。ですがいろんな人の隠された一面が見えてきた1冊でもあります。
恋人になり、体の関係を持ったきっかと平良さん。
同じマンションだからその後の関係もうまくいくかと思いきや、生活スタイルの違いからすれ違ってばかりのふたり。ここで平良さんの「自分の時間を好きなように使う生き方」が浮き彫りになります。
起きる時間も、寝る時間もまちまち。仕事したい時に没頭して、夢中になったら時間感覚が飛んでしまう。平良さんはアーティストでなおかつ高収入。社会的にも「求められる人材」である為かなりの自由が許されてきた立場。
一方、きっかは自営業で職人という平良さんと通じるものがある仕事をしていながら、薄給で生活は普通。朝起きて夜寝るというスタイルは普通の社会人と変わりません。
きっかは平良さんの自由時間な生き方を矯正しようとはしない。文句も言わない。むしろ平良さんの仕事の邪魔をしたくないと思ってる。それくらい、きっかにとって「仕事」というものの比重が大きいんだと思います。
けどさ、これって結婚に向かないとも言えるよね?
7巻までは平良さんときっかの心と体が結ばれ、ラブラブになっていく過程が描かれてきましたが。この8巻から現在連載中の雑誌掲載まではどうも「平良さんと結婚した場合のうまくいかなさ」を少しずつじわじわと描いてる気がしてなりません。
そういう意味ではずーっっと真霜くんの方が結婚して幸せになれそうな人なんだよねえ。
きっかは薄給とはいえ、マインドは仕事人間。ましもくんはエリートで28歳サラリーマンとしてもそこそこ年収が高い方。でもマインドは主婦なんですよなあw
でも平良さんときっかは「職人として分かり合える」という同じ思いを持つ絆がある。なによりきっかの「ヘタレ男子かわいい」というフェチに刺さっている。
恋愛と結婚を分けて考えるべきか。それを読者に意識させ始める8巻となりました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
というのも、お花見でのメンバーたちの過去が明るみになり、いよいよ「結婚して共に生きていくこと」の意味が深掘りされてきた側面もあるからです。
23歳の司波さん、28歳の真霜くん、33歳の二宮さん、38歳の平良さん というそれぞれ5歳ずつ違う年齢層の男性の価値観の違いも浮き彫りに。
若い人ほど「共働き」「折半」「同じレベル同士での結婚」の意識があり、最年長である平良さんは「女性をエスコートして男が全奢り」という絶滅危惧種マインド。
美女キャリアウーマン鹿西さんは過去に同棲していた男性と別れた経験があり、それは彼より上になりそうな彼女の年収を妬まれての別れだった。だからこそ「自分より上の年収の男性でないとパワーバランスがうまくいかない」という考えに至る。これも30代キャリア女性のあるあるですよね。今の20代男性ってあんまり女性の年収に妬みや惨めさを感じない。自分より上の年収の彼女にも、変にこじらせず受け止める傾向があります。
鹿西さんは真霜くんと同じ大学出身だということもわかる。
そして、真霜くんはその大学名と成績優秀さから難なく外銀に就職していたことも発覚します。それをあっさり捨てて、百貨店に転職していたんですね。
自分の実力が認められにくく、出世競争にもやぶれ、とはいえそれなりに年収が高いため彼氏には嫉妬されてきた鹿西さん。そんな彼女から見れば与えられた幸運や恵まれた境遇をあっさり捨てている(ように見える)真霜くんはとっても腹がたつ存在。
でも、きっかのために生き、きっかと結婚することを夢見て、きっかを喜ばせることを目標にしてきた真霜くんにとってみれば、そんな出世とか仕事とかは本当はどーでもいいんだと思います。ただ、かっこつけの見栄っぱりな性格でもあるから「好き」というたったそれだけが伝えられない。
真霜くんが外銀をやめ、とんでもないエリートコースを捨て、百貨店に転職したのはきっかのためなのか。
おそらくそうなのだろう、と勘づいた平良さんは「僕だって紬さんのためにこれだけのことが出来る」と言わんばかりに、家で仕事するのをやめ他に仕事場を借りて、きっかと同棲するための環境を整えた。
なかば強制的であり、「ここまでしたんだから一緒に住むよね?」という圧力をかけるような強引さ。きっかは断りきれず同棲することを決めます。
真霜くんと平良さんがそれぞれ「自分の思う献身」を捧げる。
それがきっかの目にはどう映っているのか。
私はどうしても真霜くんとの未来を想像し、そうなってほしいと願ってしまうんですよね。もちろん平良さんもすごく素敵なんだけど、彼が今の高年収にまでなったのは「自由なやり方での仕事」もあったから。
そのスタイルはどうにも結婚という共同生活には向かない気がするんだなあ。恋人としては最高なんだけど…。